第5話 返済不要


「やっちまったああああああ!!どうしよ、ルーナの前でカッコつけて俺誕生日に合計41万も負債抱えちゃった!!」

「だから言ったでしょうが、ばかぁぁぁ!!」


サキの部屋で机に突っ伏して本気で嘆く俺へ、怒りの形相で子供の頃俺を叩くために作ったらしいお馴染みのハリセンで頭を叩いてくるサキ。


子供達を助け、村の家族さん達の元まで送り届けたサキが俺の顔を見るや否やドロップキックを仕掛けてきた時は一瞬死んだかと思った。

それからというもの、ようやく家に帰ってきたというのに飽きもせず俺への説教は続いていた。


「よりにもよってなんでこのスキルに借金してんのよ!最悪死ぬかもしれないのよ、あなた」

「……だって、ルーナの前であんだけカッコつけちゃったんだから仕方ないだろ!」

「だーからいつも言ってるでしょ!!カッコつけていい事なんて今まであった?」

「……うるさいなぁ、じゃあお前がスキルに借りた分だけ金貸してくれればいいだけの話だろ!」

「あなた15歳になって突然クズの思考に染まり過ぎてんのよ!!誰が貸してやるもんか!!」

「貸してくれてもいいだろうが!親父さんだって、30万の借金を抱えてる相手にプラスで現金11万なんて貸してくれるわけないじゃないか!!」

「普通に働け!!」

「嫌だ!!ぐーたらしたい!!」

「何を今日1の大声で叫んでんのよ!!」


ぽかぽかぽか。


とりあえず擬音を可愛くしてみたが、一方的に俺がボコられている構図は割愛させていただこう。


しかしそんなさなか、再び玄関の扉を強く叩く音がして俺とサキは同時に立ち上がる。



「おい、ルイにサキ!!今から客人が来るから、準備しろ!!」

「え?親父さん、誰が来るって?」

「お偉いさんだ!」



玄関では靴を脱いで慌ただしく服を着替える親父さん、つまりこの村の村長がいた。

巨漢な肉体で普段から農作業の手伝いに励んでいるようなおっさんだから、普段村長として仕事に励む姿はあまり見る事がなかった。

そんな人がこんなに焦ってる。


俺とサキは顔を見合わせ、急いで階段を駆け下りていくと、既に玄関にはその人がいた。



「やぁ、君らが村長殿の子供達だね、少し話があるんだ。さっきの鳥の魔物の話もね」

「「……………」」



どうやら今日の俺の災難は、まだまだ続くらしい。



*******



「あの魔物はグールイーグルと呼ばれていてね、国の兵士も見つけ次第駆除のために人員を割かなきゃいけない厄介な魔物さ。最近は活動も大人しくこんな辺境の村にも滅多に現れないものなんだが、よく人を攫って行くその性格から危険性は分かるだろ?それにまぁまぁ強い」

「………それで、何が言いたいんですか?」

「うん、僕はそんな魔物を倒した魔法使いについて興味があってね。本日レアスキルが発現したらしい君に関係するのではないか、とね」


客人にお茶を出すサキは訝しむように客人に聞くが、俺は腕を組みながら無駄に余裕の雰囲気を装って尋ねる。


「否定はしませんが、それを答える前に、あなたはどちら様なんですか?」

「うん、僕はオーロラ魔法騎士団第4支部の支部長、プライムだ。本日レアスキルが発現したと報告を聞いて、一番暇そうにしてた僕が駆り出されたわけだ」

「…………!」


それを聞いてサキが明らかに動揺する。

そりゃそうだ、夢の魔法騎士団の一人が目の前にいるとなったらこんな反応にもなる。


すると俺の横で話を聞いていた親父さんが口を挟む。


「レアスキルに関する調査ってのは、あるとは聞いていたが一体どんな事を?」

「別にかたっくるしいものではありませんよ。ただ発現したというスキルを実際に見て聞いて、それを報告書に取りまとめるだけ」

「なるほど……断ったら?」

「おい、ルイ!」

「うん、僕とここで戦うような事はしたくないでしょ?」


ひたすら穏やかな表情を浮かべて答えるプライムさんではあったが、確かにその強さは底知れないものがある。

国の秩序維持のため普段から戦地の前線に立つような魔法騎士団を派遣する、それほどまで国はレアスキルというものを警戒しているのか。


とはいえ俺もなんとなくカッコをつけて抵抗してみようとしたけれど、最初からスキルについて隠すつもりはなかったので、無駄に余裕を装ったまま背もたれに背中を預けてスキルを発動する……前に一個だけ思いついて条件を付けた。


「それじゃあ、スキルを見せる代わりと言っては何ですけどあの鳥の魔物の死骸、あれを騎士団の方で買い取ってもらえませんか?」

「そうだね、我々の代わりに討伐をしてくれたんだ、色を付けて買い取ってあげよう」

「そうですか、ありがとうございます。俺宛に、是非お願いしますね」


俺は心の中で、よっしゃああああああ!とガッツポーズを掲げながらそれを表情には全く見せずに今度こそスキルを発動する。

机の下で両脇に座るサキ親子から同時に脛を蹴られるが、そんなの関係ない。

ちょっとの恥で金が手に入るなら、俺は金を選ぶ派だ。


俺はスキル『金融魔力取引』で出てきたパネルをプライムさんへ見せ、説明を始める。


「俺のスキル『金融魔力取引』は、お金と引き換えに魔力を手に入れる事ができるスキルで、魔力ゼロの俺もこの力で魔法を使う事ができたという訳です」

「ほうほう……」


眉を顰めて画面を見つめるプライムさん。


俺は説明を続けていくが、ガイド機能のフリルの事、そして借金システムについては説明しなかった。

これ以上警戒されるのは何となくよくないと思ったのと、単純に既に借金をしている事実を知られるのが恥ずかしかったからだ。


ひとしきり説明を聞いてプライムさんは顔を上げて俺に尋ねる。


「なるほどね。ちょっと気になったんだけど、君にはそもそも魔力がないというのは本当かい?」

「え、ええ、そうですよ。それはサキや親父さんも知ってるとは思いますけど」

「なるほど、なるほど。……魔力を持たないものに魔力を授けるスキル。これまで聞いた事がない、特殊過ぎるスキルだ」


コップを握って顔を俯かせるプライムさん。

先の見えない話に困惑するが、その静寂はすぐに終わりを告げた。



「……うん、そうだね、何より危険すぎるスキルだ」


「………」

「……っ何を!」「おい!」


気が付くと俺の眉と眉の間に、プライムさんが携帯していた剣の先が突き付けられていた。

身体能力お化けのサキが全く反応できないスピードだ、この人の強さは化け物じみている。


しかし俺は動揺することなくまっすぐにプライムさんの目を見据える。


「肝が据わってるね」

「……別に、最初から俺を殺す気はないでしょ?」

「ふふ、そうだね」


とか言ってカッコをつけてる俺ではあるが、内心はドッキドキだった。

すぐに反応できなかったのは普通に早すぎて何をされてるのか見えなっただけだし、殺すつもりがあったかなかったか、なんてそんなもん咄嗟に適当に言ってみただけだ。

見栄っ張りな自分の性格が人生で初めて功を奏したのか、プライムさんは剣を下ろしてにっこりと笑みを浮かべて続ける。


「魔物を倒した時の魔法、スキルの性質、それを踏まえた君の未来の可能性……話を聞いて君は国で管理すべき人材だと、僕が判断しました。だから君に与えられた選択肢は今ここで僕に殺されるか、魔術学園に入学するか、二つに一つです」

「ちょ、ちょっと待ってください!ルイがそこまで危険な男になるとは俺は思わない……」

「村長殿、彼はスキルの発現から僅か3時間足らずであの魔物を二体同時に倒すほどの魔力と魔法の力を手に入れている。これは恐らく本人の素質も関係しているでしょうが、驚異的なスピードです。もしも彼が将来、際限なく金銭を使う事ができる立場にいたとして、一つの村程度軽く破壊しうる力を手に入れると考えます」

「…………」


プライムさんの話を聞いて黙り込んでしまう親父さん。


確かに、そう考えると魔法が使えるようになった程度にしか思ってなかった俺のスキルでも十分この国の脅威になり得るのか。

しかし、


「なんで魔術学園なんですか?国が直接管理するとかじゃ……」

「うん、僕が語ったのはあくまで可能性の話だ。もちろん大いにあり得る話だと思ってはいるが、国に協力をしてくれる若者に対しそんな段階で将来を不当に制限し過ぎる事はしたくない。だがしかし、この国の秩序に協力をするつもりがない者を生かしておくわけにもいかない。まさしく危険因子だからね」


プライムさんは剣の柄をさすりながら穏やかに全て説明してくれる。

確かに言ってる事は分かる、でも……。


勿論死にたくはない、だけどこの村を離れるのも嫌だ。

サキに語ったように、まだ俺は恩を返すことができていない。

所詮カッコつけと言われたらそれまでかもしれない、しかし一度カッコつけて言ったことは撤回しないのが俺の信条だ。


とは言え断れば殺される。

プライムさんの質問は答えはYESかはいか、みたいな質問だけど、俺は…



「それに言った通り学園に入学してくれるというならば、返済不要の奨学金100万をあげよう」


「行きます!!」




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