第4話 天才
ルイという男は天才だった。
ダンジョンで亡くなった父の知り合いの子供という事でうちに居候をしているあの男は幼いころから一人異彩を放っていた。
常に周りを遠ざけ、書庫で一人本を片手にお茶をすするその姿は当時の私から見て大人びて見えた。
加えて魔術の構築式を幼い頭でほとんど全て理解し暗記する能力に長けており、当時の本人は自慢することもなかったが誰もがルイの能力に驚嘆していた。
それでも私が声をかけると常に笑顔で何でも教えてくれたあの男は、私にとって身近な憧れの存在でもあった。
しかしそんな日々は5歳の誕生日の日に唐突に終わりを告げる。
そう、ルイには魔力が存在しない事が判明したからだ。
あの日の事は今でもよく覚えている。
人目もはばからず泣きじゃくり、私や父に八つ当たりをするその姿を見て初めて、本当のあいつは私と何ら変わらない5歳児なのだという事が分かった。
そして同時に気付いた。
今まで大人びたように振る舞っていたのは、一人でも平気なのだとあいつなりに気を遣って、カッコをつけていただけなのだと。
あいつの本性とは、ただの見栄っ張りだったのだと。
******
私は鳥の魔物を追って村を一直線に駆けていた。
正直ルイのスキルについて話を聞いた後で、まだうまくルイのスキルの事も飲み込めていない。
「だけど……魔法、使えるようになったのね……」
小さい頃からずっと見てきたあいつは、5歳の頃挫折を経験しながらもひたむきに魔法の勉強には励んでいた。
村の子供達にはカッコをつけて天才アピールをしているようであったが、部屋に散らかる本の山はルイの努力をあらわしている。
そういう点では運よく努力が報われたルイを祝福してあげたい気持ちはある。
しかし……
「……なんで一緒に来ないのよ、バカ」
ルイはこの村を出るつもりはない。
もちろん私がちゃんと学園の試験に受かったらの話ではあるが、このままいけば私は10年以上も一緒に暮らしてきたルイと離れ離れになってしまう。
ルイに魔力がないと分かった時から覚悟していた事ではあるが……やはり寂しくないと言ったら嘘になる。
だけど私は知ってる、ルイはただのカッコつけじゃない。
カッコをつけると決めた事は、それこそ自分の命がなくなると確信できるギリギリまで、どれだけ自分に不利益が降りかからろうとやり遂げようとする、まじもんの阿呆なのだ。
「ここね。……うーん、結構遠いわね……」
私は足を止めて上空を見上げると人間の大人のサイズ程の大きさの鳥が飛んでいるのが分かるが、だいぶ空高く飛んでいるようだ。
身体能力強化魔法で視力を強化してよく見て見ると、鳥が掴んでいる子供達は辛うじてまだ意識がありそうだ。
「これは……やっぱり巣に降りてくる時を狙う?……いや、それじゃあ遅すぎるかもしれないし…ちょっと無理した方がいいか」
私は逡巡して一先ずの対応を決定すると、両手を天に向けて両足に魔力を集中する。
(全力で飛べば、私の魔法の射程内に……ギリ入るとは思う。いや、やるしかない事なんだ!)
私はもし失敗した時の事を考えて思わず一瞬迷ってしまう。
しかし私以外にできる人はいないんだ、やるしかないと改めて覚悟を決めた……その時だった。
「「ギエッ……!!」」
「…………!!」
突然上空の魔物二体の頭が吹っ飛んだ。
いや、その刹那に見えたものは確かに魔法の炎が纏われた矢だった。
あの大きさの魔物、決して楽な敵ではない。
私なんかが使う魔法よりももっと高度な魔法だった。
そんな魔法を使いこなし、魔物を二枚抜きだなんて。
矢が飛んできた方角は間違いなく、村の方から……
しかし私はそんな思考を一旦振り払って魔物の手から放たれた二人の子供を助けるべく、落下地点を予測して身体能力強化魔法で強化したジャンプ力で一気に飛ぶ。
だけど私はどれだけ振り払っても頭の中に浮かんでくるあの男の顔に向かって、言わずにはいられなかった。
「……やりやがったわね、あなた。あとで絶対説教3時間してやる!」
******
――同刻
馬車から鳥型の魔物二体の首が吹き飛ぶ様子を眺めていたその男は、魔物へ向かって伸ばしていた指を下ろす。
「どうやら、私が手を下す必要はなかったようですね、村長殿。あなたの村にはあれほどの上位の魔法を扱える者がいるのですか」
「……い、いえ、そのような者は私の村には……」
「なるほど……それは興味深いですね。楽しみが増えました」
男は腕を組んでにっこりと微笑むと前を向く。
それを隣から見た初老の村長はしきりに汗を拭い、御者へ道案内をしながら指示を出していく。
馬車はルイ達の住む村へまっすぐ向かっていた。
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