第3話 10日で1割


「つまり、利率は10日で1割、所謂トイチというやつですね。これが複利でルイ様の負担となります」

「……結構えげつないんだな」

「返済の方法は一度体験したかと思われますが、返済に充てる分のお金を握っていただき念じていただくだけで結構でございます。もちろん手数料などはかかりません」

「それで返済期日は?」

「基本MPを借りたその月の翌月までとなっております。ただ、別途かかる延滞料をお支払いいただけたら、3ヶ月後までは延滞する事ができます」

「へぇ!それじゃあ3ヶ月を過ぎても払えなかったら?」

「差し押さえをさせていただきます。手持ちの家具、家、服まで全部こちらで差し押さえを行うこととなります」

「それじゃあもし差し押さえる程の持ち物を何も持ち合わせていなかったら?」

「その時は臓器を、それでも足りない場合はお命ちょうだいいたします!」

「なるほどなるほど」


「……これは果たして15歳の若者が聞いてていい会話なの?」


俺はタッチパネルを操作しながら案内をしてくれるフリルから様々な説明を聞いていくが、その様子をジト目で眺めていたサキが会話に割って入ってくる。


「限度額がありまして、今のルイ様は10万ゴールドが限度額なのですが借金を行った分だけ信頼が増えて借り入れる事ができる金額も増えていきます。ルイ様にはまずはお試しで1万ゴールド分の借り入れをオススメいたします。スキル発現から3時間以内の今なら利息はゼロで借り入れをする事ができますので」

「まじか!!そんじゃお試し1万ゴールド分をいっちょ頼…ボヘぇぇぇ!!?」

「なに乗せられてんのよ!こんなのガイドオフよ、ガイドオフ!!」

「あ…」


サキに思いきりぶん殴られた俺はついパネルを手放してしまうと、サキはせめてもの抵抗を見せるフリルを軽く手で払ってガイドオフのボタンを押してしまう。

すると瞬く間にフリルの姿は煙と共に消えてしまった。


「あ、何すんだ、せっかくお得にMP借りる事できたのに!」

「ばっか!さっきの話聞いたでしょ?トイチの利率なんて法外だし、命まで取られる可能性のある借金は危ないに決まってるでしょ!」

「た、確かに…」


冷静になった俺はよく考えてみると、確かにこのスキルで借り入れをするメリットなんてほとんどないに等しい。

というか同じ額を借りるならばこのスキルに借りるよりも、誰か他の奴から借りた方がいいに決まってる。

このスキルは俺固有のものだからお命ちょうだいって言われても抵抗できそうにないが、もし他の人から金を借りたならば本当のいざという時は夜逃げしてしまえばいいだけの話だ(クズの思考)。


「ありがとう、危ない危ない。つい乗せられるところだった」

「それにしてはノリノリだった気がするけど……それより何なのあなたのスキルは!小人なんて幻の存在を使役するスキルなんて聞いた事ない!」

「そんな事俺に言われてもなぁ……ん?」


俺は腕を組んで首を捻るが、その時玄関を強く叩く音がして俺達は二人共立ち上がった。

そしてサキの部屋を出て玄関の対応にあたろうとした俺は一気に扉を開く。



「何用かな?村長は今出てるけど…」

「ルイ兄、サキ姉!!大変なの!!でっかい魔物が出てきて、ロゼもブラムも連れ去れちゃったの!!」


扉を開くと同時に涙に目を腫らした凄い形相で報告をしてくる子供、こいつはさっき俺が聖堂から出てきた時に通せんぼをしてきた3人のガキ達の一人だったはず。

確か名前はルーナとか言う少女だ。


俺はサキと目を合わせ、腰を折りルーナの頭に手を置いて尋ねる。


「分かった、俺が何とかするからその魔物はどこに、どんな奴だった?」

「でっかい鳥のような魔物で、北西の方に向かって飛んでっちゃった!ついさっきの事だけど」

「なるほど、ありがとなルーナ。ここでちょっと待ってろ」


「待ちなさい、あなたに何ができるの?あなたは大人の人達を呼んできて。私が魔物を追うから」


そう言うが早いか、サキは村長邸を飛び出して、恐らく身体能力強化魔法でも使ったのだろう、物凄いスピードで駆けて行った。

取り残された俺とルーナはその様子を見届けると、俺はゆっくりと家の裏手に回る事にした。


「え、ルイ兄!言われた通り大人の人呼びに行かないの!」

「この小さな村でサキより魔法が上手な魔法使いはいないし、サキで取り返す事が無理なら誰でも無理だ」

「そ、それでも、何もしないより……」


「言っただろ、ルーナ。俺が何とかするって。俺が必ず二人を取り返してみせる」


俺は振り向いてそう宣言すると、家の壁に立てかけてあった梯子を組み立て、一段ずつ上がっていく。

これは俺の部屋の屋根を修理するために大工のおじさん連中が使っていたものだ、まったく今日は運がいい。


俺が屋根の上に上がりきると同時に、誰にも聞こえないように呟く。


「……スキル発動」


俺は北西の方角を向きながら、俺の手の平に現れたパネルのガイド機能をオンにする。

すると追いかけるように屋根の上までやって来たルーナは声をあげる。


「ルイ兄、一体何をするつもり?」

「今までお前らには俺の魔法を隠してて悪かったな。でも確かに俺も魔法は使えるんだ、だってサキに諸々の魔術の構築式を教えたのは他ならぬ俺だしな」


俺は何となく方角のあたりをつけてから、ルーナに聞かれないように呟く。


「……1万ゴールド、借り入れるからMPをくれ」

『承知いたしました』


脳内に響くようにフリルの声が俺には聞こえるが、後ろを振り向くとルーナはきょとんと何もなかったようにこちらを見つめているばかりだ。


(やっぱりこれは俺のスキルだから、ちゃんとフリルの声が聞こえないように配慮もできるんだな)


しかし俺が感心しているのも束の間、体の奥から湧き上がるような何かを感じる。

この感覚、前の時と同じだ。


「る、ルイ兄。何かいつもと様子が……」

「〈身体能力強化魔法、視力〉」


俺は昔サキに教えるために本で見て記憶していた身体能力強化魔法の構築式を組み立て、自らの視力に集中するようにして発動した。


(やっぱり見える。……魔物はまだ空を飛んでるな)


俺は子供達を連れ去った魔物を捉え、眉を顰めてその様子を観察するが、どんどんこの村からは遠ざかっている。

巣に持ち帰ってから食おうって魂胆か。


「魔物は二体、まだ空を飛行中で、サキもあと少しで魔物の真下までくる勢いだ。だけど多分空中の魔物相手じゃ少し厳しそうだな」

「そ、それじゃあサキ姉でも助けられないの!?」


「いいや、だから俺がここから狙撃する」

「…………!!」


俺は宣言すると、いつの日か熟読していたあの本を思い出す。

小さい頃、上級魔法に興味が津々だったサキに構築式を教えてやるために読み込んだあの本、結局魔法の熟練度が足りないからとサキは途中で挫折したが俺はあの複雑な構築式だけは覚えている。


俺は右手の薬指と小指を曲げ、左手では親指と人差し指を魔物の方へ突き立てる。

あの魔法、必要な魔力の量は分からないけれど、俺にはできるはずだ。


そして呟く。


「……フリル、追加で10万だ」

『承知いたしました』


「ルイ兄、誰と喋って……」


「〈火魔法、サジタリウスの弓矢〉!」


次の瞬間、俺の左手は弓を、そして右手は一本の矢を掴んでいた。

それらは魔法でできた炎を纏い、俺の10万ゴールド分の魔力がありったけ込められていた。


(くっそ、意識が飛びそうだ。だけど子供達にあたらないように、狙うのは二体の魔物の頭!)


俺は目一杯弓を引くと、身体能力強化魔法で見据える目標の動きをじっと観察する。


そして、



「ここ!!」



俺がタイミングを見計らって指を離すと、炎を纏った弓矢はまっすぐに、風を切り光のごときスピードで魔物へ向かって放たれた。

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