第2話 借金人生の始まり
「ひどいんだぜ、親父さん。俺に30年かかってでも必ずこの屋根の修理代を自分で払えって言われてさ」
「…………」
「30万ゴールドらしくて、15歳の誕生日に30万の負債を抱える青年って恐らく俺が初めてなんじゃねえかな」
「…………」
「でも俺はへこたれないよ、だって初めて魔法が使えたんだからな!プラマイで言ったらギリマイナスくらいで済んでる」
「マイナスなのはマイナスなんだ……じゃない!!なんであなたが私の部屋にいるのよ!!」
机に向かって集中して勉強していたサキが切れた。
村長邸の屋根が吹っ飛んだというこの平和な村にしては中々の大事件が起こってすぐ、俺の部屋に駆け付け俺を看病してくれたのはサキだった。
部屋の惨状を目にしてサキがすぐに消火活動をしてくれなければ、屋根だけでなくもっと被害は拡大していたであろう。
対する俺は命の恩人でもあるサキをしり目に、サキのベッドで横になりながらタッチパネルをいじっては勉強しているサキに借金の愚痴をこぼしていた。
「そんな事言われてもな、俺の部屋は現在立ち入り禁止だし今日でこの家の人達からの俺の好感度は地に落ちたからな」
「だからって私の部屋に居候しないでよ!あなたが魔法を使えるようになったかどうか知らないけど、私は魔術学園の入試の勉強で忙しいの!」
「勉強なら俺が教えてやろうか?5万で」
「はっ倒すわよ!幼馴染に吹っ掛ける額じゃないでしょ!分かってるわよ、あなたなら魔術学園程度の試験なら首席で合格できるでしょうけど」
ぷんすか文句を言いながらも俺の頭の良さは認めてくれるサキ。
確かに俺は魔力がない事から昔は外に遊ぶ時間を削って四六時中勉強に励み、サキによく勉強を教えていたものだ。
そういえばサキの夢は魔術学園に入学してこの国の魔法騎士団に入る事だったな。
サキはハアと息を吐いてペンを置くと、ニヤニヤとパネルをいじる俺に声をかける。
「しかしあなたどうして魔法を使えるようになったの?言ってたレアスキルが関係しているの?よく知らないけど」
「あぁ、俺は金と引き換えに魔力を買う事ができるようになってな。最初だから加減が分からず魔法が暴走しちまったが、1金貨、つまり1万ゴールドで屋根を吹き飛ばすくらいの十分な火力は出せるみたいだな」
「聞いてもよく分からないけど、それじゃあ……あなたも魔術学園に入学する事ができるんじゃないの?」
「……確かにできるかもな」
俺はサキの言わんとしている事を悟り、ベッドから起き上がってサキの向かいに座る。
「でも俺はこの村を離れるつもりはないよ」
「なんで!……ずっとあなたの夢だったじゃない」
「第一俺にはそんな所に入学できる金も無いし……それに身寄りのない俺を拾ってくれた親父さん達への恩返しもできちゃいない。俺が魔法を使えるようになったからすぐこの村を捨てるなんて、俺の中で礼儀が通らないんだ」
「………またカッコつけて」
「ふん、そうかもな。でも俺一人でも魔法の研究はできるんだ。俺はこの村で恩返しをしながら細々と一人で俺の魔法を極める事にするよ」
俺はにっこりと笑みを浮かべて宣言すると、机の上に置いていたマグカップを手に取って口に運ぶ。
しかしサキは納得しない顔で俯くと、すぐに顔を上げて問いかけてくる。
「それで、あなたの『金融魔力取引』だったかしら?一体どういうスキルなの?すごく特殊なスキルっぽいけど」
「言っただろ?俺の手持ちの金と引き換えに魔力を買う事ができるスキルで……」
「そこまでは分かったわ、でも例えば今のあなた、手持ちのお金が一銭もないあなたは魔力を取引する事ができるの?」
「ん?そんなのできるわけないだろ、だってお金がないと……あれ?」
俺はサキに言われて、試しに『1金貨』を画面に入力してみた。
普通に考えて手持ちに一切お金を持っていない俺が魔力を買い取ること等不可能……しかし画面には先程までとは違った画面が表示されていた。
「『警告、お金が足りません。借り入れをしますか?』ってさ」
「え?借金みたいな事?ここはよく考えて……」
「そんなの借り入れるに決まってるよな」
「は?……馬鹿ああああ!!」
躊躇なく『はい』のボタンを押した俺をノートでひっぱたくサキさん。
それだけにとどまらず向かいに座る俺の方へ駆けより、パネルを覗き込んでくる。
「なんで借金に躊躇ないのよ、あなた!!もし返済できなかった時のリスクとか、利率とかもっと調べてから……」
「べ、別に1万くらいなんだからいいだろ?最悪焼き土下座すれば許してくれるだろ」
「思ったより覚悟決まり過ぎてたこの人!?ちょ、待ちなさい、それでもやっぱり説明はちゃんと見なきゃだめよ!」
サキは俺からパネルをひったくるが、眉を顰めてうーんうーんと唸っている。
俺もサキ画面を覗き込んで内容に目を通していくが確かに文字が多くて理解するのが難しい。
そこで俺はとあるボタンを見つけた。
「サキ、この『ガイド機能』ってのを使えば分かりやすいんじゃないか?」
「確かに、一回押してみましょうか」
そう言ってボタンを押す俺とサキ。
すると次の瞬間、勉強道具が放置された机の上で煙が上がる。
「え?」
「どうも、私が案内役のフリルです!ご利用ありがとうございます!」
ぺこりと、スーツ姿の少女は礼儀正しくピッシリと背筋を伸ばしたまま45度のお辞儀をする。
その少女は顔を上げるとニコッと眩しい笑顔を向けてくれるが、俺とサキはしばらく反応する事ができなかった。
なぜならその少女は机の上で、マグカップ程度の身長の、幻の種族とされていたはずの小人だったからである。
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