剣と魔法の世界で俺の借金がとどまる事を知りません!ー俺はスキル『金融魔力取引』で成り上がるー
雪本 弥生
第一回 借金人生1日目
第1話 スキルの発現
借金は怖い。
きっと一般庶民の誰もが深層心理に抱いているであろうこの感情、しかし人々の多くは人生において何度か借金を経験した事があるはずだ。
借金は人々の暮らしを時に豊かにし、時に破滅させる…そんな表裏一体を併せ持つ魅惑的な仕組みだ。
そして俺、ルイは本日村の聖堂で行われたスキル発現の儀式においてその文字を読み上げた。
「スキル『金融魔力取引』?…何このスキル」
「はて、私にも分からない見た事のないスキルじゃ。しかし安心しなさい、レアスキルという事で何度か検証が行われるじゃろうが、きっと待遇はよいものに…」
「そっか。難しいことは分からないからとりあえずシスターに任せるよ。じゃね」
「あ、こら…」
修道着に身を包んだ60代後半のオバちゃんシスターに挨拶をして聖堂を飛び出た俺は一直線にこの小さな村の村長の家に向かう。
とは言っても村長の家は聖堂の向かいにあるため、すぐに玄関に着く。
しかしその間に子供達3人が俺の行手を通せんぼして待ち受けていた。
「ルイ!どんなスキルだった?」「教えて教えて!」「強いスキルだった?」
子供達は純粋な羨望の眼差しで見つめてくるが、俺は3人の頭にポンポンと手を置いて前を歩く事をやめない。
「悪いな、どうやらレアスキルが出たようで俺もよく分からないんだ。だから俺の魔法と相性のいいスキルか今日は1人で確認しようと思ってな」
「レ、レアスキル!?すげぇ!!」「確か100万人に1人みたいな確率だったよね!いいなぁ!!」
子供達がそれぞれ驚きの声をあげているのを背中で聞きながら、俺は振り向くことなく手を振って村長の家に入っていく。
玄関で靴を脱いでいると俯く俺の頭の上から声をかけられた。
「……顔がニヤニヤしてるわよ。相変わらずね」
「理想的なカッコいいお兄ちゃんムーブができたからな。見たか、あの羨望の眼差し。レアスキルなんてものも意外と役に立つもんだな」
「子供相手にカッコつけてどうするのよ。それにあなた魔力ゼロのくせして何を確認するって言うの」
「うるさいなぁ、でもレアスキルが出た事は本当なんだからもしかしたら役に立つかもしれないだろ?じゃ」
「まったく…」
俺は村長の愛娘であり訳あってこの家に同居してる俺の幼馴染でもあるサキに挨拶を済ませて、自分の部屋に篭って部屋の鍵も閉める。
そして部屋の真ん中に置かれた机の前に着席してふっと息を吐く。
「ふぅ……やったやった!!レアスキルだ!!ヒャッホーい!!」
俺は冷静なお兄ちゃんキャラをやめて普段の素の自分に戻ると、机のそばに広げていた数十冊の本を一つ一つ手に取って中身をペラペラと確認していく。
その本はそれぞれスキルにまつわる本だ。
そもそもスキルとは15歳の人間に与えられる固有の神の力とされており、聖堂のシスターはスキル発現の儀式を行うことができる。
そして与えられたスキルは『魔力増幅』であったり、『火魔法強化』であったり、その人の持つ魔法の才能に関わる能力が多い。
中でもこれまで発現例のない、もしくは現れることが極めて稀な特定スキルをレアスキルと呼び、レアスキル持ちは国においても一目置かれる存在だ。
「えーと、えーと…やっぱりスキル『金融魔力取引』なんて発現例は確認されてない!レアスキルじゃん、よっしゃあぁ!!………でも…」
俺は一瞬喜びのガッツポーズをするが一抹の不安があった。
それは俺が魔力を持たないそれなりに稀少な存在であるという事だ。
今や魔力を持って生まれる子供が9割以上を占めるこの世界において、俺は生まれつき魔力を持たずに産まれた。
だからと言って表立って虐げられる事はないものの、魔法が当たり前のこの世界で将来の選択肢が他の人より少ないことは確かだ。
軍や魔法省に入る事もできなければ、そもそも魔法にまつわる職につくために必須な魔術学園に入学する事もできない。
俺より1ヶ月早く生まれたサキは1ヶ月前、村の聖堂で『身体能力強化』のスキルを得ていた。
これは一般的なスキルではあったのだが、元々魔法の中にも身体能力強化魔法という魔法がある。
この村で一番の魔法使いであるサキは当然その魔法を扱うことができ、さらにスキルの力で魔法での強化が倍増されていると言った感じだ。
「じゃあ俺はどうなる?」
俺はサキと違って魔力がない。
サキのように元々の身体能力強化魔法にバフをかけるタイプのスキルであれば俺は扱う事ができない。
だってそもそも魔法を使えないのだから。
しかしスキル『金融魔力取引』か…。
「考えても仕方ない、か…」
俺は覚悟を決めて机に向かい合う。
俺はこれまで自らの境遇を呪い、それでもいつか魔法が使えるようになるかもしれないと思って必死に魔術の勉強を積み重ねてきた。
最初で最後のチャンスがここなんだ。
俺は大きく息を吸って、そして叫ぶ。
「スキル発動!」
『金額を入力してください』
俺の叫びに呼応するようにして出てきた板の画面に映し出されていたのは、ドットの文字で書かれたこの一文だった。
この不可思議な体験に初めて自分が魔法を使えたような感覚を覚えるが、俺は画面をタッチしたりスクロールしたりしていると、とある文字式に目を取られる。
『1金貨=100MP』
「ん?MP?……マジックポイントって捕捉で書いてある。……まさか!」
俺は周りに散らかった本たちをどかして自らの財布を拾い上げると、中に入っていた1枚の金貨を取り出してから画面に『1』と入力する。
「まさか……な」
俺は震える指をおさえて、ごくりと唾を飲み込む。
そして『確定』というボタンを押した俺は、次の瞬間目を見開く。
「あれ?俺の金貨……!」
そう、指でぎゅっと握っていたはずの金貨はそこにはなく、スキル『金融魔力取引』で出てきた画面には『取引完了!』の文字が。
そして遅れて気付く。
この感覚、いつもの俺とは違う。
体の奥から湧き上がる、何かがある。
(試してみるしかないだろ!)
俺はノートを一枚破り机の上に載せると、ノートの切れ端にひとさし指を乗っける。
大丈夫、魔術の構築式は殆ど全部頭に入ってる。
「……出てこい、火魔法、〈龍の息吹〉」
俺が恐る恐る呟いた次の瞬間、俺の視界はブラックアウトした。
つまり俺は魔法の発動が成功した事を見届ける事ができないまま気を失ったのである………俺の部屋の屋根が吹き飛んだのと同時に。
こうして俺は生まれて初めて、屋根の修理代という借金を背負う事となったのである。
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