第5話 庭園での一息
「おや、アサヒと奇術師様」
庭園ではちょうどアヤメ様が花と菜園の作物の世話をしているところでした。
咲き始めた秋花の綺麗な景色に息をのみつつ、ベンチに腰を下ろします。
「シスターアヤメ、院長について知っていることはありますか」
アナベルの質問に、アヤメ様は一つのため息とともに答えました。
「院長は常日頃、運営のための事務仕事を一心に行っています。我々がそのお姿を見ることがあるとするなら、それこそ先日の手品のような時くらい……」
これは本当です、院長は常日頃から多忙であり、院内の式典や全体で行う催しの時以外、お姿を見せないのです。
「あと、院長はこの修道院で誰よりも吸血鬼を恐れています。正直ふもとの人里でも昨今は本気で必要性を叫ぶ者はわずかな高齢の方くらいの吸血鬼退治を今も続けるよう命じているのは、院長です」
院長は吸血鬼を恐れている。それは今朝がたの恐怖や昨晩、まともな証拠見聞もなしにアナベルを犯人と断じ隔離した態度から見ても明確です。
実際に犯行を行いえたのかはとにかく、動機が今一番明確に存在するのは院長で間違いないでしょう。
「……なるほど、ありがとうございます。」
一通りの話を聞いた私たちは足のけだるさが抜けるまでベンチで過ごしました。
時折アナベルが見せる少しほほを赤らめ、まるで年頃の女性が意中の者にするような笑み。
それを見るたびに私の心に恐怖とも異なるぞくり、という感覚がこぼれるのを感じました……
「ふふふ……不死の魔物も心臓がときめいてマントがゾクゾクしてきますね……」
「シスターアサヒを誘惑なさらないでくださいね。ここは修道院なのですから」
そんなやり取りをかわしつつ、庭園の整頓されたきれいな花壇を楽しんでおりました。
「次は院長の話を聞きに行きたいですね」
庭園を去った私達は今朝がたに向かった院長室に向かいます。その中でアナベルさんが気になることをこぼします。
「誰がやったか、はほぼ確定です。あとは具体的な犯行がどう進んだのかの調査ですよ」
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