第4話 修道女たちの証言

 遺体安置室を出た私たちは修道女の証言を求め、修道女の寄宿舎に向かいました。

まずは昨晩の杭打ち担当、ケアレの話を聞かなければ……。

「私、あの日探し物をしていたっす。私の前の日の担当のパシリカ先輩がなくした小銭袋。あれが遺体安置室に墜としたんじゃないかって……

私が担当する929号棺の中になんでか落ちてたっす。小銭の大半は消えてたっすけど」

ケアレの証言、やっぱり変です。ケアレの昨晩の担当は930号だったはずなのです。

「間違うわけないっす。だって自分、間違わない様にずっと929って言いながら……あれ?最初は930って……言っていたような?」

「『団子どっこいしょ』……」

「シスターケアレ、930と言い出してから会った人はいませんか?」

アナベルの質問の意図はわかります。「団子」が「どっこいしょ」に変わった原因を確認しなければなりませんから。

「パシリカ先輩に会ったっす。で……929号の棺を……調べてくれって……あ!それで誤認したっすね。自分……」

「不幸が転じて福となりましたね……」

うっかりがとんでもない幸運を彼女にもたらしたものです。彼女の記憶が先輩のパシリで上書きされていなかったら……

今頃殺人犯はケアレだったのですから。

「でも、929を突いた自分の判断は間違ってないはずっす。929号の棺には……血の付いた土の塊が見えたっす」

血の付いた土の塊。吸血鬼の復活方法の一つに、棺の中で死んだ場合に備え、棺に土を入れておくというものがあります。

吸血鬼退治をされても体から出た血液が土にしみれば、時間がかかるが復活するというものだそうで……。


 「ともあれ、後輩に自分の遺失物探しを押し付けたシスターパシリカの証言が欲しいですね」

そういうアナベルを連れ、パシリカ様の部屋に向かいます。

「キミ~やめよう犯人探しなんて、吸血鬼が犯人でいいじゃんよ~」

パシリカ様はいつものごとくに食材買い出しついでに確保している隠し菓子をついばむ最中でした。

それで首だけをこちらに向けて安易な結論をおっしゃる。なんとご無体な。

「シスターケアレに依頼した遺失物を見せて頂きたいのですが……」

「ああ、これね。なんか土でぱっちい感じだし。洗わなきゃなって思ってるけど面倒でさ、捜査ついででいいからお願いしていい?」

パシリカ様が見せてくださったその小銭袋。土と血で汚れていて……

「返してくれるのがアヤメだったら、こういうのは洗ってから返してくれるんだけどさ」

アヤメ様。様々な要因で仕事を取りこぼすことが多いこの修道院において皆の失敗を受け止めてくれる頼もしい人です。

「シスターアヤメにも小銭袋の捜索は頼んだのですか?」

「昨日、ショーが終わってすぐの時に頼んだよ。でも断られた。お客様の対応で忙しいって」

「ありがとうございました」


 パシリカ様の部屋を出て、アナベルの顔を見やります。

「シスターアサヒ、そろそろ花を見て休憩としませんか?」

「あ……はい!」

真意はわからぬままですが、その妖しい笑みに誘われるまま、二人庭園に向かいました……。

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