第3話 遺体の調査、初めの事実
礼拝堂の地下、遺体安置室。
1000の棺が並ぶ冷たい空間の一角、930号棺に眠るコロッサ様の死体。
生きながらに心臓に杭打たれる苦しみを受けながら、眠るその顔は安らかなるものです。
ですが、その安らぎは決して私たちが勝ち取った猶予で歩みを止めて良い理由にはなりません。
なんとしても、犯人を見出さなければ……。
「この棺で杭打たれるべき本来の死者はどこに行ったのでしょうね」
決意を新たにする私の隣にてアナベルさんのこぼした言葉。
指さす先を見やれば、棺の中にはコロッサ様の薄く金を帯びた髪と異なる黒の髪の毛がこぼれておりました。
黒い髪、そういえば昨日の吸血鬼退治の担当はケアレなのです。
生来のうっかり物であるケアレであれば、棺の中身の確認を怠り、棺の中にいたコロッサ様に気が付かずに杭打ってしまうこともあり得るでしょう。
「ケアレ……」
「いいえ、彼女ではありえません。この杭を打ったのは、少なくともほかの人間のはず」
アナベルさんは言い切ります。しかしそんなはずはありません。なぜならばケアレは自身の務めを果たしたはずなのです。
院長様から預かった杭の管理名簿には、彼女のいやに角ばった文字で「ケアレ・スール」の名が昨日夕刻、杭の持ち出し者のリストに記載されています。
それに遺体安置所から戻ってきた彼女は杭を持っていなかったのです。
「彼女が杭を打った棺はこちらでしょう。クッションなく杭がじかに棺の床をついたことがこれで分かります」
929号棺を片手で立ててランタンを裏から掲げたアナベル。
その光が棺の床に開いた胡麻粒の光線は石壁にまで届いていました。
うっかりケアレはどうやら棺を打つ杭を間違えたと。
「それに、仮に彼女が930号棺を突いたとして……シスターコロッサを運んだのは、どなたでしょうか」
アナベルさんの疑問、言われてみればそうです。いくら吸血鬼を演じたことが罪深く感じたとしても、
本来杭を打たれるべき死者を押しのけ、自ら棺に入るなどということは考えにくいのです。
「そういえば遺体の後背部を確認していませんでしたね」
コロッサ様の遺体の修道装束の被り物を外したところ、後頭部に強く何かを打たれたようなものがありました。
「……悪意を感じますね」
思わずこぼした私に、アナベルも頷きました。
「間違いありません。これは私達吸血鬼が血を求め襲ったものではなく、うっかりによる偶然の犯行でもありません。
殺意をもって、彼女をこそ殺すという悪意の元行われた、人間による殺人です」
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