第2話 真実究明の始まり

 昼の雲が流れ去り、空が紅に染まるころ、この修道院では一つの日課が行われます。

葬儀の為運び込まれる近隣の村の亡骸に、聖別した杭を打つ。そう。吸血鬼退治の儀式です。

今宵杭が貫いたのは……まさに昼、アナベルの呪いの儀式にて吸血鬼として振舞った……

コロッサ様の胸でありました。


 無論、吸血鬼退治の儀式は土着信仰に厚い人々を納得させるための儀礼にすぎません。

その杭が生者を捕らえるなどということは、万に一つとあってはならぬことなのです。

騒ぐ皆を一喝にて鎮め、院長様はコロッサ様の首筋に並ぶ二筋の線上の傷を示し仰せになりました。

「アナベル様。貴女を最重要の容疑者とし、刑吏の到着まで身を院内に留め置かせていただきます。

院の者の同伴なく部屋を出ぬように。」

「どうぞ、そのように……ふふっ」

抵抗なく異端魔女の類を留め置く牢に連れられるアナベル。

その姿を見て私の胸に、承服しかねる感情が吹き上がるのを感じたのであります。


 思い立てば動かずにおれないのが私の性分。私は確認しなければならぬことの為、就寝の鐘の跡というのに寝所を抜け、

奇術師アナベルの牢にいたのです。

「問います。コロッサ様を殺めたのは本当にあなたですか」

「違うと言われ信じるほど、信仰者は頭が柔らかくないでしょう?」

昼間の黒魔術を高笑いとともに弄ぶ吸血鬼の残忍な笑み。しかし確信しました。

この方は、コロッサ殺しの犯人ではないということを。

「いくら院長様のご判断としても、私は貴女が無実だというのなら、最後までそれを信じます。……ですから」

「犯人捜しを手伝え、とおっしゃるのですね……いいでしょう。望むところです」


 翌朝、朝の日課を終えた私は早急に牢のアナベル様を伴い、院長に直談判をすることにいたしました。

「姉妹、コロッサ様の死の真相を明らかにするまで、葬儀を待って頂きたいのです……」

しかし、当然の回答であるはずの院長の「なりません」の返事は何やら揺らいだものであったのです。

「とにかく……死者の安寧を壊すような…真似は……」

「ケルディーア・アンダーソン」

アナベル様の唱えた呪文。

それは恐怖にとらわれた院長に打たれる杭のごとくとなったのです。

「承知しました。今日一日の猶予を与えます。それまでに犯人を見出して見せなさい」

言質を抑えた私たちは、早速現場へと赴くのでありました。

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