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 俺はまず、バシャール・エアクラフトの方から調査を開始した。社員は社長が1名だけ。本当に零細だ。数ヶ月かけて1機のライトプレーンを作るくらいが関の山だろう。だが、ここ最近どうもライトプレーンを一気に数機分作れるくらいの材料を買い付けている。


 そして。


 それを「発見」した瞬間、俺は思わず声が出るかと思った。


 例の社長は、どうやらノーヴェル・ライト教団の信者のようなのだ。あからさまに公言してはいないが、SNSの交友関係を調べると信者を数名フォローしている。さらに、教団のイベントが開催された同じ日時、同じ町に彼がいたことを示す投稿がある。彼の地元からは結構離れているのだが……


 ということは、もう一つのガンマ線バーストの件も、こういった人的な繋がりがあるのかもしれない。俺はガンマ線バーストを研究している国内の機関を虱潰しにあたってみた。


 ビンゴだった。


 ガンマ線観測衛星からのデータを解析している、とある大学の研究者が、ノーヴェル・ライト教団の信者であることをほのめかせている。


 というわけで、これら三つが見事に繋がった、の、だが……


 いったい、これは何を意味しているのだろう。これらが繋がることで、果たして何が起こるというのだろうか。


 結局、一番知りたいことは、わからない。


 煮詰まった俺は、気分転換にネットのショッピングサイトを開いた。「おすすめ」にSF小説が二つ。そういえば最近ここでSFの電子書籍を買ったんだっけ。しかし、その「おすすめ」の二つというのが……ウェルズの「宇宙戦争」と、セーガンの「コンタクト」だった。

 思わず苦笑する。これはまたえらく古典的なヤツをおすすめしてきたな。「宇宙戦争」は言わずとしれた、タコみたいな火星人が地球に攻めてくる話だ。そして「コンタクト」は、宇宙にいる知的生命から地球に電波の形で送られてきた設計図通りに移動装置を組み立て、その知的生命に会いに行く話……


 ……ん?


 この二つがヒントとなって、俺の脳裏に一つのシナリオが浮かび上がる。あまりにも荒唐無稽だが……これなら全て説明がつく。そして、その仮説が正しいとしたら……


 その時だった。


 CIAの俺の友人から電話だ。どうも、「ノーヴェル・ライト教団」がテロを画策しているフシがあるらしい。といっても確証はないし、どういう種類のテロなのかもわからない、という。


 どうやら俺の仮説は当たりそうだ。だが、連中の裏をかくには、連中が何をやるつもりなのかを確定する必要がある。


 しかし……


 それが一番知りたいことなのに、わからない。


 どうすればいいんだ……


 とりあえず、こんな時は基本に返ることだ。俺はまた「カレイド」の学習データに向き合う。だが、そこからは何も読み取れない。ヤケクソで、俺は「カレイド」に聞いてみた。ノーヴェル・ライト教団はいったい何をするつもりなんだ? と。


 だが、ヤツは何も答えてくれない。俺のモットーである、Discover the Discovery を執拗に繰り返すだけだ。


 うるさいなあ。そんなのは分かってんだよ。なんせ俺のモットーなんだからさ……と、悪態をついたところで、俺は気づいた。


 ヤツの返答の、最初の Discover の "c"と"o"の文字の間が、なぜか微妙に空いている……これではまるで……


 Disc over the Discovery


 ……というようにも読める。

 まさか……これは、何かのヒントなのか? だけど、「発見の上の円盤」って……どういう意味なんだよ……


 ん……? Discovery ……?


 その瞬間。


 脳裏に走った閃きが、唐突に俺を理解へと導く。


 そうか……わかったぞ。この "Discovery"は、「発見」じゃないんだ……!


 NORAD(北米航空宇宙防衛司令部North American Aerospace Defense Command)の知り合いの番号をスマホの電話帳で探し、俺はそれを震える人差し指でタップする。


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