第3章
第13話
一昨日お昼ご飯を食べている途中急に気持ちが悪くなった。
あの日は午前中に宿題をやって午後からまた翔君の家に行こうと思っていた。翔君のお母さんが言うには翔君は夏休みの宿題が溜まっているらしい。真面目っぽいのに勉強は苦手なのは変わっていると思う。
最初は「翔君まで遊びに来なくなる」ことを裏切りだと思ったが、他の友達とは違って仕方がないところもある。それに今残ってる友人も翔君くらいしかいない。だから毎日のように翔君を誘っているがそのたびに翔君のお母さんに断られている。
一昨日も「今日こそは宿題ももう終わっているだろう」と思い急いで昼食を掻き込もうとした。そこまではいつも通りだった。
箸を手に取りそうめんを一口、二口とすすり、麦茶を飲んだ時初めて違和感を覚えた。
(味がしない)
コップを見てみるとしっかりと濃い茶色の液体がゆらゆらと揺れている。
次にコップの中身を一気に飲み干してみた。
味の有無の前に急に吐き気がした。喉よりもっと下、胸元が詰まるような、焼けつくような痛みが走りテーブルにうつ伏すように吐き出した。
まだ麵の形を残したそうめんと飲んだばかりの麦茶がそのままテーブルの上に広がった。ツンとした酸っぱい匂いをきっかけに激しくせき込み息が出来なくなった。
そこから先は意識が混濁としてあまり覚えていない。どれが現実でどれが夢だったのか。少なくとも夢の中では何度も死んでいた。もしかしたらこれも死んだ僕が見ている夢なのかもしれない。
もしそうならもっと楽しい夢を見せて欲しいものだ。
枕もとの時計を見ると6時。カーテン越しの外の様子からそれが午前なのか午後なのかはわからない。朝にしては暗い気もするし、夕方にしても赤くない気がする。
もっとわからないのは本当に今がまだ夏なのかということだ。
寒い。身体が震えるほどに寒い。
しかし身体の内側、肉と内臓の狭間からは熱した鉄のように暑いのだ。纏っている毛布を剥ぐと濁った部屋の空気が皮膚をチクチクと刺してくる。
目が覚めてから数分経っただろうか、時計を再度見るともう二時間も経過していた。意識が連続していないことと見ている景色に変化がないせいでまた少し眠っていたらしい。
最期の食事がいつかは覚えていないが空腹は感じない。ただ多量の汗と熱のせいで喉の渇きがひどい。
布団から体を起こそうとしたが腹部が痛んでうまくいかない。一度体を横向きにして腕の力で起き上がろうとすると、力を込めた瞬間酷い眩暈がしてぽてっと枕に突っ伏してしまった。
声を出そうにも粘ついた唾液が喉にへばり付き声が出ない。
「んんっ」
咳ばらいをすると強い咳が出た。咳払いも意味はなく、のどに痛みだけを残し相変わらず満足に声は出なかった。
気管支が炎症を起こしているのか呼吸のたびに喘鳴がする。
お父さんが「病院に連れて行こう」と言っていたがお母さんは「夏風邪よ、あまりにひどくなるようだったら連れて行きましょう」と止めてくれた。
病院には行きたくない。駐車や薬が怖いわけでは無い。あの待合室の匂いはとにかく嫌いだ。
いい加減喉の渇きも苦しくなってきた。しかしそれと同じかそれ以上に面倒という感情もある。
(もう少し寝てからでいいか)
何十時間も寝ていても病み蝕まれた身体はあっという間に睡眠へと落ちて行った。
先程までの喘鳴が嘘のように彼の寝息はあまりにも静かだった。
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