第12話
「ごめんなさい、お母さん」
今日から一週間前、翔平は友達と粟坂山へと遊びに行った。わざわざ遊び先を報告するなんておかしいとは思った。山だと聞いたときに真っ先にゴミだめのことが頭によぎったのは確かだ。しかしこの時期は息子の友人たちも遠出していたりと鬱屈は溜まっていたこと去年のことからも分かっていた。少しくらい気分を変えていつもと違う場所で遊びに行くことを告げたに過ぎないと思っていた。
何より親に嘘をついたり約束を破ったりする子だとは思っていなかった。
「危ないから行っちゃいけないって言ったよね?」
「ごめんなさい」
翔平は先ほどから同じ謝罪を繰り返す。子供の身からすれば当然だ。
聞いたところだと長尾さんの帰ってきていた息子さん――私より年上だが――が同行していたとのことだ。大人が付いていればそこまでの心配はない。そのためゴミだめに行ったことを責めるつもりは実のところあまりなかった。
「約束破ったのね」
「ごめんなさい、もう行きません」
どうしてか不思議なもので翔平が反省すればするほど苛立ちが増してくる。
「しばらくは外出禁止」
翔平は何かを言いたそうにもごもごしていたが諦めて
「何もそこまでしなくていいじゃないか。子供なら冒険くらいするだろうよ。それにあのゴミだめじゃ怪我だって精々転んで膝小僧をすりむくくらいだろうよ」
珍しく夫が口を挟んできた。翔平が生まれて間もない頃は夫も積極的に育児に参加していたが時が経つにつれ関わる頻度が減り、今ではほとんど子育てに口を出さない。
「あなたは黙ってて」
「さすがに可愛そうじゃないか。普段は『外で遊べ』って言ってるのに、それに誰かの家にお邪魔するも嫌なんだろ? じゃあ外で遊ぶしかないじゃないか」
「黙ってて。どうせまだ夏休みの宿題もやってないんだから、これを機に勉強すればいいのよ」
「勉強勉強って、そこまでしなくたって困らないよ。大学でも行かない限り」
「それは私への当てつけで言ってるの?」
結局翔平には3日ほど遊びに行くのを禁止した。どうせもうすぐ夏休みも終わる。ちょうど宿題を片付けるのにちょうどいい日数だろう。
翔平もこの友人たちがほとんどで払っている時期ということもあってすんなりと受け入れているように見える。今日も課題の一つであろう絵のため絵具を溶いている。
問題は翔平ではなかった。翔平を叱っていた時に介入してきた夫との口論。結果だけ見れば夫が折れる形で終わったが思い出しただけで腹が立ってしまう。
口を出してきたことは当然として、意見をしながら聞き入れられないとわかるやすぐに主張を引っ込め、我関せずの態度に戻ろうとする。中途半端な態度が癪に障る。
気が付くとタバコ入れに手が伸びていた。暫しの間葛藤したが結局翔平の前で吸うのはやめた。今まで考えたこともなかったけどあの子は母親が喫煙者だと気が付いているのだろうか。臭いは残さないようにはしている、だが夫が吸う以上少々臭いが残っていても訝しむことはないとは思う。
しかし最近まで毎日のように翔平を遊びに誘いに家まで来ていた子が昨日今日と来ていない。はっきりと「翔平は外出禁止だ」と伝えていないのでてっきり毎日来ると思っていたが諦めたのだろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます