【外伝4話】父VS母娘

「アナタっ!どういうことっ?!」


「お父さまっ!ひどいですっ!」


 やはり、駆け込んできたのは妻リンダと次女リディアだった。


「あー、あれだよね?クレアに文句いいにいったのに守衛に通してもらえなかった件だよね?」


「そ、そうです!なぜ、わかるんです?」


 そりゃ、手に取るようにわかるさ。


 急に吾輩がクレアに肩入れ始めたと思った二人は、彼女に文句を言いに行ったはずだ。


 だが、今後、君らがクレアに意地悪することはできない。吾輩が守るからな。


「まー、まー。吾輩としてはクレアには安心して仕事して、暮らして欲しいんだ。彼女は機密書類も取り扱っているし。守衛はあちらに置いておくのが合理的と判断した」


「アナタが勝手に決めないでください!ここは私の家でもあります!行きたいところに行けないのは納得できません!」


 怒り心頭のリンダ。


「守衛に意地悪されたんです!あの守衛、罰してください!」


 そして、被害者ぶるリディア。以前の吾輩は次女の言うことをそのまま信じていたようだけど、とんだ節穴だったな。


 むしろ、守衛にはボーナス支給決定だ。


 さて、二人には少し冷静になってもらいたい。このままでは話し合いにもならない。


「では、リンダ、リディア。吾輩の質問に答えてくれるかい?その後に、君たちの質問に答えよう」


 ひとまず、シンプルに投げかけてみる。


「話をはぐらかさないでください!なんで、私が娘に会いに行けないのか聞きにきたんです!」


「お父さま!守衛がわたしの言うことを聞かないんです!」


 …。


 ……。


「アナタ!無視しないで!」


「だから、守衛が!」


「聞こえてるよ。……まずリンダ。僕の質問に答える気はあるかい?」


 妻の目をじっと見つめる。


 ん…、そういえば、ちゃんと見るのは初めてだな。


 現実では日本人の吾輩は、リンダの東洋人的な顔立ち、黒髪黒目に親近感を覚える。


 怒った顔しか見たことないが、笑えば少しは可愛いんじゃないか?せめて、この似合わない中世西洋式厚化粧やめりゃいいのに…。


 しばらく眺めていると、気まずそうに視線をそらすリンダ。


「あっ……。わ、わかりました。どうぞ、おっしゃってください」


 母が折れたことに次女は驚いた様子。これまで父は母の言いなりだったからな。だが、転生を自覚した吾輩はコントロールされてやるつもりはない。


「クレアは、本来、吾輩らがすべき仕事をしてくれている。ここは同意してくれるよね?」


「あ、ええ…!わかってますよ!それくらい」


 妻はさすがにわかっている。クレアが仕事するようになる前までは、簡単な帳簿付けはやってくれていた。


「お母さま!そんな仕事、誰でもできることでしょう!」


 リディアが口を挟む。母が父に同意する姿と、姉の仕事が認められることに納得できないようだ。


 ふむ、だからと言って、その態度はよろしくないかな。


「では、リディア。君に仕事をやってもらっていいのかい?『誰でもできること』なのだろう?」


 驚きの表情の次女。


「そ、そんな!意地悪いわないでください!」


 その娘を庇う母。


「そうです!やったことのない仕事わかるわけありません!子ども相手に大人げない!」


 必要以上に甘やかされて育った中学生の年頃の娘だ。多少のことは大目に見るつもりだが、少々、イラッとした。


 なので、イラついた感情を隠さず、無言で次女に向ける。


「……ひっ!」


 まともに睨まれたことがないのだろう。怯えが伝わってくる。


 まー、この状況になるまで教育らしいことをしてこなかった毒親父が一番悪いのだけども。


「いや、怖がらせて悪かったね。


ただ、さっきみたいに、人の仕事…。家の手伝いでも全部そうなんだけど。それらを見下す発言。子どもの言うことであれ吾輩は許せないから、よろしくね」


 言葉の結びは笑顔で言ったつもりだが、吾輩の目は笑ってなかったかもしれん。


「……わ、わかりました」


 涙目になりながらも渋々了承した次女。無理矢理言わせた風ではあるものの、今はこれでもいい。

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