【外伝】地方領主編〜毒親転生記

【外伝1話】味のある夢。家族の記憶

「あー、なになにこの高級ステーキ…。うんまあい!」


 キメの細かさといい、食感といい、旨みといい…。


 貧乏苦学生の僕は、こんな美味いステーキ食べたことなかった。


「あー!うまいなあ。柔らかーい!」


 いい夢だあ~。


 めちゃめちゃ味を感じる夢~。


 ナイフとフォークを夢中で動かしていると、ふと刺すような視線を感じた。


 おや、同じテーブルに性格のきつそうな顔立ちの30代半ばほどの女性と、その人によく似た中学生くらいの娘がいる。中世西洋ちっくな服装で揃いのコスプレしてるし親娘かな?


 二人も同じステーキが配膳されているが、なぜか彼女たちのフォークとナイフが止まっており、ポカンとした顔でこちらを見つめている。


「どうしました?」


 気になって聞いてみる僕。


 婦人がビクッと反応する。


「え、あっ!ああっ!アナタがそんなに食べる方だったなんて…」


 女性の娘らしき子が顔をひきつらせながら口を挟む。


「お、お父さま。今日はお腹が空いていらっしゃるのね」


 アナタ?お父さま?


 んん?


 そういう設定の夢か?


 わかった、わかった。よくわからんけど合わせてみよう。


「そうそう!こんな美味いステーキ食べられるなんて!いやぁ、僕はラッキーだなあ!」


 ご機嫌な僕に、再び目を丸くする婦人。


「え…、アナタ?『僕』って言う人でしたか?」


 不審そうな目を向けてくる。


 え?『僕』は変だったか。


 ちょっと思い出してみる。


 なんとなく、そうすると分かる気がしたからだ。


 あー、『吾輩』だったか。ついでに目の前の女性と娘も思い出した。


「えーと、吾輩だったね。…あなたはリンダさんで、リディアさんだよ…ね?」


 いよいよ、二人とも警戒の目つきになる。


「お、お父さま、どうなさったのです?家族に『さん付け』なんて」


「そうです!先ほどからアナタ、おかしいですわよ!」


 いや、おかしい扱いとは失礼な!夢のくせに!家族に『さん付け』でもいいだろうに!


 『家族』のワードが出たところで、同時に大事なことを思い出した。


「あれ?うち、4人家族だったよね?えーと、上の子…。姉のクレアさんはどうしたの?」


 瞬間、場の空気が凍りつく。


「あ!アナタ、食事中にあの子の話題を出さないでくださいっ!」


「そうです!お父さま!お姉さまは自分の部屋で食事してるじゃありませんか!」


 二人でまくし立てる親娘。


「え…?おかしくない?家族なら一緒に食べるもんじゃないの?意地悪なこと言わんでいいのに」


 バンっ!


 食卓を叩く音が響く。立ち上がったのは妻役?のリンダだ。


「アナタこそ!不愉快なこと言わないでくださいっ!」


 なんだ、その言い方!


 夢の登場人物とはいえ、ひどいやつだ。


 吾輩のへそ曲り精神が顔を出す。


「へーっ、そんな言い方するんだー。いいよ、吾輩、ちょっとクレアさんの部屋に行ってくるわ」

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