【本編最終話】ずっと、穏やかなティータイム

 偽女神が倒された王国記念日から、もうすぐ一年。


 この一年で王国は新たな時代に突入した。


 国王に第一王子フォウト・ケヌテ9世が即位。


 宰相には革命の立役者であったメイリーン白騎士団長が指名された。


 新国王と新宰相の指揮の元、王国の改革は急ピッチで進められる。


 まず、偽聖女、偽女神を見抜けなかった教会組織は、大聖女マーサを中心に再編された。


 混乱の元凶であったライカイ元宰相、ミセラサ元王子、偽聖女エリカは処刑。


 前王は遠く南の地での隠居となり、元王妃マターノは息子ミセラサの死罪後、ほどなくして牢内で亡くなっているのが発見された。


 罪人に与した者たちも正しく罰せられ、財産および領地をすべて没収。反抗する貴族勢力はあったものの、徹底した情報公開により全てを知った世論が許さず。


 ホウゲン大将軍の近衛大隊、メイリーン宰相の白騎士団、シリュー隊長の衛兵隊を中心とした圧倒的武力に鎮圧される他なかった。


 没収額が非常に大きく、国家財政が潤うにとどまらず。その有効活用により商業の活性化、福祉や教育の拡充が一気に進んだ。


 リザードマン大部族を壊滅させて以降は外敵も鳴りをひそめている。


 一度、魔物大発生の兆しが見えたが、先んじて遠征軍により殲滅。


 かつてないほどの活況を見せる王都。


 とある日の王宮、鏡の廊下。


「ソフィちゃん、ここ入って、だいじょうぶなのー?」


 7、8歳ほどの二人の少女が手を繋いで歩いている。


「だいじょうぶ、だいじょうぶ!わたし、こう見えて王女なんだからっ!」


 胸を張るソフィ。


 父が王位に就いたことにより、7歳の彼女にも王女という肩書きがついた。


 そして、今日はその特権を濫用(?)しての王宮探検。


 目的地の宰相室の前にたどり着いた。


「じゃじゃん!ここが私の従姉妹で、救国の英雄と名高いメイリーンお姉ちゃんのお部屋だよっ!」


「え…、でもソフィちゃん。お部屋の前に守衛さんいないよ?えらい人のお部屋の前は必ず守衛さんがいるって」


「うん、なんかお姉ちゃんがジンインサクゲンって言ってた。お姉ちゃん強いから護衛さんいらないんだって」


「そ…、そうなんだ」


「じゃ、行こー!メイお姉ちゃん、入るよー」


「えっ、ソフィちゃん、ノックくらい…」


 勢いよくドアを開けると、広い窓と壁いっぱいの本棚。立派な机、センスのいいシンプルな椅子。そこに座るは妙齢の女性。


 その彼女、メイリーンが大きな口でサンドイッチを口にする瞬間だった。


 ソフィとメイリーン、目が合う二人。


「…ほぇ?」


「あーーっ!また食べてるーー!」


「むぐむぐ……。大丈夫、これ、3時のおやつだから。…んぐっ。いらっしゃい、ソフィちゃん。お友達もお入りください」


 お茶を口にして、笑顔で迎え入れる。


 緊張しつつも、自己紹介する少女。


「あのっ、ソフィちゃんと同じクラスのララですっ!あのっ!大ファンです!」


「ふふっ、ララちゃん、可愛いですね。私はソフィちゃんの従姉妹でメイリーンです。あっ、美味しそうなチョコレートあるの。みんなで一緒に食べましょう」


 サイドテーブルに山のように積まれたお菓子から一箱を取り出す。


「わわわっ!すごい!これ限定のだ!ママが一回は食べたいって言ってたやつです!」


「そうなの?いっぱいあるから一箱お土産に持っていっていいですよ」


「あ、ありがとうございますっ!…あっ、このチョコの箱に手紙ついてますよ」


 よく見ると箱に洒落たメッセージカードが添えられている。


「あら?送ってくれた人のかな。そこのテーブルに置いておいてください」


「ここですか?…お手紙いっぱい」


 目を丸くするララとソフィ。


「男の人たちからばっかりだー。ねえねえ、ラブレター?」


「んー、どうなんだろう?交際申し込みのが多いかなぁ。全部、お断りしてるけど」


「なんでなんでー?」


 少女の質問に遠い目をしながら答えるメイリーン。


「最悪の婚約者からやっと解放されたところなのに、今更、誰ともお付き合いしたくない…ってとこかなぁ」


「あー…、あの王子ね…」


 ソフィが納得して頷く。父の政敵でもあったミセラサ元王子。先日、処刑になったが、その生前の悪行は国民に知れ渡るところだ。


「でっ、でも!メイリーン様、可愛いのにもったいないですっ!」


「ほへっ…?可愛いって?…へっ、私?」


「お姉ちゃん…」


 どうにも女性としての自覚の薄い従姉妹に呆れる少王女。


「どちらにしても、私は今の暮らしがいいんですよ。あっ、ケーキ食べましょう」


 自らケーキを切り分ける女性宰相。


 使用人を置かないのは、人目を気にせずお菓子を食べられなくなるのが嫌だからとは極秘事項である。


 ティータイムの午後、穏やかな時間が流れる。


 幼少時から政敵巣食う王宮に飛び込み、水面下の戦いと研鑽を重ねてきたメイリーン。


 その努力の甲斐が実り、目の前の少女たちが伸びやかな学生時代を過ごしてくれている嬉しみ。甘いケーキと共にしみじみと味わうのであった。


「…メイお姉ちゃん、なんか考えながら食べてるみたいだけど、それケーキ3つめだよ…」


「むぐ……ほぇ…?」



fin


⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎

これにて、当初の予定通りの完結となります。最後まで読んでくださってありがとうございました。とても励みになりましたm(_ _)m

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る