第18話 双子姉妹の聖騎士

「はわわわわっ!と、尊すぎますー!」


「ばかっ!マーサ様が尊すぎるのは当たり前だろっ!」


 護衛役の女性聖騎士、双子のラナとルナが感動に打ち震える。


 彼女たちが拝む先には、聖杖を頭上にかがげた大聖女マーサ。


 聖女からあふれ出る神聖力の光は、彼女の立つ町の外壁全体を包み込んでいる。


 その広域防護魔法。通称「女神のヴェール」。


 数刻前に始まった異民族連合軍との戦闘において、聖女の秘技が発動された。


 これは言わば、一方通行の見えない壁。


 敵からの攻撃は通らず、味方からは通る。


 そんなものがあれば戦争は一方的になる。


 あっという間に敵軍の前線が壊滅。


 外壁上のマーサたちからも敵軍の大混乱が見てとれる。


「このまま退いてくれれば良かったんだけどね」


 油断のない聖女が姉妹に声をかける。


「少し、ここも危なくなりそう。二人は私から離れてて」


 驚いて首を横に振るラナ。


「そ、そんな!私たちはマーサ様を身を挺してお守りする覚悟です!お側で守らせてくださいっ!」


「そうです!命に替えても必ずお守りします!」


 聖騎士たちの言葉に、いつもは陽気なマーサも表情を曇らせる。


「そんなこと言わないで。私はあなたたちに命を捨ててほしくないの。敵に聖銀の兵器を使われたら、私は二人を守りきれないかもしれないから」


「そんな…」


「で、でも…」


 なんとしてもマーサの側にいようとする双子。


 そこへ上空から声がかかる。


「すまん、ラナさん、ルナさん。僕からも頼む。ここは下がってほしい」


 飛翔魔法で降り立ったのは町の指揮官フォウト。


「あっ!フォウト王子!」


 ラナがとっさに口にし、ルナは王族への礼をとる。


「いや、ここでは王子じゃなくて町長で頼むよ。敬礼も省略で頼む。…それで、うん、やはり聖銀の兵器が敵方にあるようだ。ライカイの自供通り『聖銀の槍』だ。それを知らせにきた」


 フォウトの情報に頷くマーサ。


「そう、ありがとう。それなら、打ち合わせ通りやらせてもらうね」


「心配だが…。君ができるというなら、すまん、任せる」


「ええ、大丈夫。賭けでも何でもないよ。必ず成功する。偽女神の自爆も完全に抑えた方法だから」


 ニッと笑顔を見せるマーサ。


「マーサ様…」


「ぜったい!無理しないでくださいね!」


 聖女を心配そうに見つめるラナとルナ。


「ありがとう、大丈夫。フォウト君も離れてて。攻撃の方は任せるからね」


「ああ、任せられた!」


 外壁上中央にマーサを残し、フォウトと聖騎士たちが離れていく。


 眼下ではリザードマン本隊が進軍速度を早めている。聖女のいる正門へ向けての急進撃。


 その彼らが守備隊の攻撃射程に入るや否や、降り注ぐ矢の雨。


 リザードマン戦士たちは大盾を頭上に構え矢を防ぐ。矢の跳ね返る音が鳴り響く。


「盾の間にスキマを作るなっ!このまま前進する!」


 リザードマン王ガルマンの檄が飛ぶ。王自身も盾を構え、左手には聖銀の槍が握られている。


「もう少しだっ!聖女を討ち取り、光の壁を消してやる!」


 ここで、王の隣で身をかがめていた参謀が警告する。


「ガルマン王!大型魔法の気配です!フォウトの流星魔法きますぞ!」


「くそっ!2発目が早いっ!者ども!散開しろっ!まとまってるとやられるぞ!」


 盾を頭上に構えたまま散り散りになるリザードマン戦士たち。


 天空から光弾が降り注ぐ。


「ぐあっ…」


 老参謀が倒れ、戦士たちも次々に倒されていく。


「人間どもめ!」


 激昂するリザードマンの王。


 だが、目標地点には辿り着いた。


 ここなら届く。


 怒りに任せて聖銀の槍を振り上げる。


 ターゲットは城門の上に立つ聖女。


 大地の加護を受けるとされるリザードマン戦士。彼らの投擲はヒト族の数倍の威力を持つ。


 それが猛将ガルマンであれば、そして聖銀の槍であれば尚更だ。


 聖女に向かって放たれる、渾身の一撃。


「死ねいっ!!!!」


 爆音と共に槍が放たれた。

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