第16話 襲来、異民族連合軍

「ひーっ!鐘がいっぱい鳴ってて怖いですー!」


 国境沿いの町ゴドア。町中に早鐘が鳴り響いている。


 年若いシスターが恐怖におののく。微笑みながら声をかける聖女マーサ。


「この鐘は敵軍が来た合図だね。守りがしっかりしてる町だから心配しなくていいよ」


 すでに彼女は戦支度を始めており、護衛の女性聖騎士2人が着用を手伝っている。聖銀の胸当てと兜、聖杖。いずれも国宝級の一品物だ。


「えっ!?マーサ様、戦いに出られるのですか?」


 驚きを隠せないシスターに笑顔を見せる聖女。


「ふふ、こう見えても少しは戦えるからね。あなたたちシスターは治療を続けて。頼りにしてるよ」


「あっ、はい!…あの、マーサ様、どうか御武運を…」


「ありがとう!任せといて!」


 聖杖を携えたマーサは護衛と共に外壁へ向かう。


 外壁前広場には町長フォウトと居並ぶ兵士たちの姿があった。


 詰め所では気弱な男に見えた町長も、今は激戦地を守り抜いてきた指揮官の顔になっている。声を張り上げ、全兵士に作戦内容を告げる。


「敵はリザードマン大部族を主体とした異民族連合軍。数は多いが、我々も万全の対策をとってある。


今回は聖女による広域防護魔法を受けられる。その利を生かし、ギリギリまで敵を引きつけ、矢を射かけ、魔法攻撃を行う。


偵察ではリザードマン大部族の王、ガルマンの姿を確認できている。戦況次第だが奴を討ち取ることも目標になる。


我々の町は兵力不足により専守防衛がやっとだった。しかし、王都からの援軍を得た今日、敵軍を殲滅する好機である。


奴らが逃走を図った際は追撃する。反撃と待ち伏せを防ぐため、あらかじめ敵兵を減らしておくことが必要だ。それまで騎兵および歩兵は門の内側で待機。


大まかな作戦は以上となる!


町を守れ!生きて帰れ!!

共に往こう!!!」


「うおおおおっ!!!」


 信頼する指揮官の檄に士気高く応える兵士たち。各部隊、分かれて持ち場に向かう。


 このタイミングで聖女マーサが町長フォウトに合流した。


「フォウトくん、私は外壁につけばいい?」


「マーサちゃん、ありがとう。打ち合わせ通り、外壁と門、それから守備兵たちへの広域防護魔法を頼む」


 聖女による広域防護魔法。通称「女神のヴェール」とも称される奇跡の技。効果範囲内において、外側からの攻撃・侵入の多くを遮断することが可能になる。


 前聖女エリカはこれを使えなかったと思われ、敵どころか味方の大半もその威力を知らない。マーサの戦場復帰初戦は敵の想定を覆すことができる。


「わかった!攻撃魔法は?」


「ああ、君の攻撃魔法は君に近づく敵だけ狙ってくれたらいい。敵軍への魔法攻撃は僕が担当する」


 彼の腰には愛用の魔法剣が差されている。


「フォウトくんの魔法を見るの、ひさしぶりね。元・宮廷魔法団長の力、楽しみにしてるよ」


「ああ、やれるだけやるさ。ガルマンの奴め、今日で終わらせてやる」


「うん、『私たち』も、そのために来たからね」


 『私たち』に反応するフォウト。


 急に声のトーンを下げて尋ねる。


「あの子の方は…どうだい?」


 マーサも合わせてヒソヒソ声になる。


「…うん、時間通りに連絡きてる。すでに指定位置にいるって」


 聖女の答えに小さく感嘆する指揮官。


「正直、驚いた。僕の偵察魔法でも見つけられないから念のため聞いたんだけど…。さすが、あの人たちの娘だけはあるね」


「でしょ!あの子すご…って、…あとは私たち次第。がんばろう」


「ああ。では、また後で」


 指揮官と聖女も配置につく。


 敵の大軍が近づき、軍旗を視認できるほどの距離になっている。


 いよいよ、戦端が開かれようとしていた。

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