その世界の後始末

第15話 聖女隊、辺境の町へ

「あー、そうそう!そこ、シューってやって最後はピタッ!…うん、いいね!」


「え…、マーサ様、これでいいんですか?」


 年若いシスターが年上の聖女から回復術の教えを受けている。傷の治療を受けているのは、この町の兵士。


 年上の女性、マーサは遠目に分かるほどの美貌の持ち主。この国境沿いの町では場違いに浮いている。


「だいじょーぶ、だいじょーぶ。難しく考えなくていいんだよ。私たちの使う回復術は女神様の御業だから。魔力をシューっと集めて、ピタッと止めるイメージで。人の力はきっかけ、あとは女神様が癒してくれるの」


「そ、そうなのですね!わかりました!シューっからのピタッですね!」


 聖女は別のシスターに声をかける。


「うん!いい集中力だね!ただ、魔力はそんなに使わなくていいよ。あなた自身が疲れちゃう。最後は人本来の自然治癒力に任せよう!」


 シスターたちを指導しながら、自身も兵士たちの治療を進めていくマーサ。


 ここ辺境の町ゴドアは異民族襲撃に対抗する前線基地になっており、兵士たちの死傷が絶えない。治療を待つ列は、まだまだ長い。


「あ…ああ、痛みがなくなりました。あ、ありがとうございます!聖女様!」


「こちらこそ、町を守ってくれてありがとう。怪我は治せたけど今日は早めに休んでね」


 笑顔で見送るマーサ。


 顔を赤くした兵士は礼を言って立ち去った。


 彼が兵士詰め所に戻るや否や、仲間たちに取り囲まれる。


「おおっ、マーサ様どうだった!?お話したか?」


「ああ…、『町を守ってくれてありがとう』って…。あんなキレーな人に見つめてもらえるなんて…」


「だよな!あと、めっちゃいい匂いした!近くにいるだけで癒される…。また怪我したい!」


 盛り上がる若い兵士たち。


「町長、ありがとうっ!聖女隊を呼んでくれた町長のお陰だな!」


 礼を言われた町長は照れくさそうに頭をかいている。


 気の弱そうな30代半ばほどの男性。先ほどまで前線に出ていたようで、古びた革鎧を着用している。


「い、いやぁ。聖女が復帰したって聞いて、だめで元々で王都に手紙を送ったのさ。そうしたら、すぐ来てくれてね。怪我人が増えてたから本当に助かったよ」


「あー、本当にそうだ。前の聖女エリカは王都に引きこもりで全然、来てくれなかったからなぁ」


 話題の偽聖女の名前が出て、別の兵士が不満げに文句を口にする。


「エリカのやつ、偽者聖女だったのも納得だぜ。


にしても、聖女隊の訪問依頼って結構な順番待ちって聞いたことあるけど。ずいぶん早くに来てくれたんだな」


 口を挟む古株の兵士。


「この町は防衛優先度が高いからだろう。あとは王都出身の町長がマーサ様の知り合いだったのもあるかもな」


 若い兵士が町長に詰め寄る。


「し、知り合いだったんですか?町長、王都にいた頃のマーサ様、どんな感じでした?」


 剣を手入れしながら質問に答える町長。


「いやぁ、僕が王都にいたのはだいぶ昔だからねえ。あ、でも、マーサちゃんは当時から可愛くて人気あったなぁ」


「お、『マーサちゃん』って!町長もマーサ様のファンじゃないですか!奥さんに怒られるんじゃないかなぁ」


「お、おいおい、からかわないでおくれよぉ」


 町長がいじられ、兵士たちが笑う。


 長年、この町を守ってきた者同士の絆の深さ。


 穏やかなひと時。


 と、けたたましく早鐘が鳴る。


 敵襲を知らせる合図。


 町長以下、兵士たちの顔つきが変わる。


「行くぞ!みんな!出陣する!」


 各々、使い込まれた武器を手に取り、詰め所を飛び出していったのだった。

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