第9話 それぞれの頼みの綱

(人間よ!奥の手は隠しておくものだぞ!もう逃げられん!)


 勝ち誇る女神。爆破術式を起動された核石が微かな振動を始める。


「やはり自爆ですか。どうして、あなた方のような魔法生物はワンパターンなのでしょう」


 聖縋を構えたまま、嘆息するメイリーン。


(もはや起動は止められぬ!破壊しようとした途端に爆発だ!我は生き、お前たちだけで死ぬのだ!)


「まるで勝ったかのように考えるの、やめるといいですよ。行動パターン分かりきってるのに打開策用意してないわけないです」


 彼女の冷静な返答に不安のよぎる女神だが、悪い予感を振り払う。


(ふ、ふははは!なにを強がりを。さあ!時間だ!骨も残さず消え去るがいい!)


 急速に光エネルギーが収束する。核石が激しく揺れる。


 ここにきて周囲の人々も異常に気づく。


「な、なんだあれは!」


「メイリーン様、あぶないっ…!」


 構わずターゲットの核石へ聖縋を振り下ろすメイリーン。今こそ師との約束が果たされるとき。


『頼みの綱は最後、勝てる時までとっておけばいいんだ』


「そう…、先生!頼みの綱!ちゃんととっておいたよ!」


 ありったけの神聖力を乗せたインパクトの瞬間、空間は白金の閃光と轟音に支配される。


 音に紛れて人の声、絶叫も微かに聴こえてくる。


「メ…!ありが……メイ…!さ…くせん…せ…こう…!」


「せんせ…!!…ん…せい!!………!…!」


 全てが光に呑まれる中、離れ逃がれる女神の精霊体。人の拳ほどの火の玉が光と音の中を踊り狂う。


(あははははっ!やったっ!やってやったぞ!爆発したっ!死んだ!我から全てを奪ったやつら!ざまーみろっ!)


 光が晴れれば、あとは一面焦土が広がっているはず。そうしたら余すことなく勝利の余韻に浸ってやろう。


 …。


 ……?


 いや、おかしい?


 なんてことだ!ここは建物内だ!柱も壁も天井も無傷!


 標的の人間どもすら無傷!爆発での怪我人すらいない!


 なにより、目の前には憎き女、メイリーンが立ち尽くしている…!


 クソッ、光っただけで不発に終わったんだ!


 思うも束の間、激痛で身を締めつけられる。


(う…ぐっ…!な、なんだ!?霊体の我が痛みを受けるわけが……ぐ…き…消え…る………)


「メイっ!よくやったあっ!背、めちゃくちゃ伸びたじゃないかあ!」


 女神の霊体を鷲掴みにして立っていたのは、白金色の光を身に纏う美しい女性。


 太陽のような、懐かしい笑顔。


 先代聖女マーサ。


 待ち望んだ人の胸に、メイリーンは飛びこんだ。

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