第8話 聖なる縋と白金の光
「まだ核石に偽女神の意思が残っています!核を捨てて精霊体になっての逃走、特攻の危険がある!距離をとって包囲してください!」
油断なく味方に注意を促す公爵令嬢メイリーン。
歯噛みする女神。
(ぐ…、全部、見抜かれている…!核を捨てるしかないのか!?こんなところで千年積み上げた力の全てを失うなど…!)
聖鉄の鏃を撃ち込まれ、聖剣で割られた女神の核石。この状態では身動きがとれない。
メイリーン自らとどめに入る。
「聖縋をください!核と精霊体を同時に砕きます!」
この時に備え鋳造された聖縋を受け取る。
彼女の脳裏に、幼い自分に慈しみを注いでくれた師の言葉が流れていく。
『ふふっ、メイの怖がりさんは長所だよ。頼みの綱は隠しておいて勝つべきときだけ出せばいいの』
『あいつ、異世界から次の聖女を呼ぶみたい。そうそう、従順じゃない私みたいな聖女は目障りなんだろうね』
『あははっ、私は目立ちすぎちゃったから。今更、隠れられない。今は正面から勝負するしかないよ』
『あいつは人を喰って力にしてきた。でも、私は喰われるつもりないから。大丈夫、行ってくる!』
『しばらくお別れだ、メイ。あなたの先生になれて良かった…』
(先生…!あと少しだよ…!)
聖縋を構えたメイリーンの髪が、身体が発光を始める。
白金に輝く光が彼女と聖縋を包み込む。
「あ、あれは…神聖力の光…!」
「なんて神々しい…」
「メイリーン様が…聖女?」
兵士たちから、貴族たちから、驚きの声が上がる。
(まずい!あれを喰らうのは危険すぎる!)
女神は決断した。
千年以上、力を蓄え続けた核を捨てるなど腑が煮え繰り返るほど口惜しい。
だか、ここで消滅するわけにはいかない。
もはや、精霊体になって逃げる一択だ。
その後、自分は女神ではなく、ただの火の玉になってしまうだろう。同じ力を得るのに、また千年の時を待たなければならない。
それまでの間、最下級の精霊として生きることになる。ついぞ先ほどまで神と崇められた自分にとって耐え難い屈辱だ。
この恨み。この未練。ここにいる人間たちだけは許さない。
全員、殺す。
その手段は残されている。
自らが核石から逃れる瞬間、そこに残った最後の魔力を爆発させればよい。千年ためられた魔力の塊だ。一帯は跡形も無く消え去るだろう。
生き延びるは精霊体になれる自分のみ。
女神を騙る者は覚悟を決めた。
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