第7話 先代聖女の愛しき想い出

「メイリーン様、次は魔法学の時間です。聖女マーサ様がいらっしゃいました」


 老執事が家庭教師の来訪を伝える。


「あっ、マーサ先生!お入りください!」


 少女がパッと笑顔になる。お菓子と読書が大好きな公爵令嬢メイリーン9歳。


「メイ!こんにちは!」


 入室してきたのは聖女マーサ。歴代最高の神聖力を持つとされる今代の聖女。


 わずか6歳で聖女に選ばれて以来20余年。類稀なる癒しの力に加えて快活な性格と美貌。王国内において並ぶ者ない人望を集める大聖女だ。


「マーサ先生、今日はうれしそう」


 メイリーンがニコニコ子供らしい笑顔を見せる。


「メイは鋭いね!わかっちゃう?」


 マーサもニッと笑顔で応える。


「先生、まさか好きな人ができたとか?」


「あはは、メイもそういうの気になる年頃か!じゃ、今日は大事な話をしよっか!」


「うんっ!」


 メイリーンは執事に申しつけて人払いする。二人だけの大事な話をするからと。


「お部屋の周りの護衛さんもいらないからね!先生すごく強いから安全だし!」


 彼女のお願いする仕草を可愛い孫のように感じる老執事。


「そのように取り計らいます。どうぞ、マーサ様とごゆっくりお過ごしくださいませ。マーサ様、お嬢様をよろしくお願いいたします」


 深々と頭を下げて退出した。


「先生、これで大丈夫だよ」


「ありがとう、メイ。あなたは聡い子だ。気づいてたんだね」


 念のため周囲に音声遮断結界を展開するマーサ。


「うん。今日は、あの精霊いないよね。いつもは先生に隠れてくっついてくる」


 メイリーンの言葉に聖女は目を見張る。


「…そう。その精霊が何かわかる?」


 少女が頷く。


「うん。少なくとも…、いいものじゃない。たぶん女神様のフリしてる精霊。とても、とても力の強い」


 マーサは教え子の完璧な回答に息を呑んだ。


「いつからわかってたの?」


 ここで初めて思案顔になるメイリーン。


「んー、いつからかなぁ…。最初からなんだけど、大聖堂での祭祀のときだったかなぁ。わたし、すごく小さかったから忘れちゃった。ただ、これ悪いやつだー、隠れなきゃーって」


 こらえきれず吹き出すマーサ。


「あはははっ!『これ悪いやつだー』『隠れなきゃー』って!あはははっ!」


 笑われたメイリーンはキョトンとしている。


「え、先生、そんなに面白かった?」


 マーサは教え子を愛おしげに見つめる。


「うん。メイは大物だよ。私より、ずっと」

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