第3話 聖女VS勇者

 半狂乱になった聖女エリカは「女神様」の名を口に出した。女神に選ばれし自分を害すれば、加害者たるメイリーンも死を免れないと。


 メイリーンは淡々と返答する。


「そう、エリカ様のような、他人を平気で陥れ罪を重ねてきた聖女でも女神様は守ってくださるのかしら?」


 彼女は聖女エリカへの歩みを止めない。


「あなたは聖女でありながら些細なことで使用人や役人をクビにし処刑してきました。私は救出作業と後始末に忙殺された。そんな聖女など害でしかありません」


 メイリーンの瞳は静かな怒りでゆらめいている。


 明確な怒りを向けられることなど聖女になってから一度もなかったエリカは怯えた。


「私は聖女なんだから!ちょっとくらい好きにしていいでしょ!女神様っ!あの女を殺してっ!」


 前方に差し出されたエリカの掌から光が放たれる。


 聖女に与えられし能力、神聖攻撃魔法。鋼鉄の鎧すら貫通する必殺の一撃。


 エリカの間合いに近づいていたメイリーンに直撃かと思われた瞬間、


「むんッ」


 彼女の前に素早く躍り出たシリュー隊長が光を叩き斬る。光は霧散して消えた。


「ありがとう」


 メイリーンはシリューに短く礼を言う。


 殺せると確信した一撃をあっさり防がれたことに混乱するエリカ。


「な…なに?なんで…!?あんた、なんなのっ?」


「聖女の地位にありながら当代随一の勇者を知らないなんて勉強不足ですわ」


 メイリーンはシリューに目配せする。


 シリューは軽く頷くと、瞬時に聖女エリカの懐に潜りこんだ。


 同時に顔面への強烈な掌底を叩き込む。


 聖女の鼻が潰れ、歯が宙を舞う。


「がっ!あがっ…がっ…」


 顔から流血したエリカが苦悶の声をあげ、地面をのたうち回る。


「また神聖魔法を使われたら危険です。首を刎ねなさい」


 端的かつ冷徹な指示を出すメイリーン。


 衛兵たちがエリカの身体を押さえつけ処断に入る。


「う…ごわいごわい!しにだぐない!女神様っ!女神様っ!」


 両脇を衛兵に抱えられ、後ろから頭を押さえ込まれた瞬間、エリカの身体が発光し始めた。


 空間に共鳴するような女性の声が響き渡る。


(その者を殺してはなりません)


 エリカの身体から溢れ出た光が空中で人を形どる。


 やがて、それは美しい女神の形となった。


「おおっ!女神様だ!」


「女神様っ!」


 固唾を呑むように成り行きを見守っていた貴族たちから感嘆の声が漏れる。


(女神…。やっと出てきましたね)


 メイリーンは浮かび上がる女神を睨めつけた。

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