第67話 大切な人達

パチパチと暖炉の音が心地よい音を出す。

そこに部屋にある本や痕跡を消す。


鎧の男は懐からマッチを取り出し自身の副学園長室を燃やす。

炎が広がり昼に似つかわしくない炎が広がって行く。


そうして証拠品が消えるまで彼は待とうとした。


だが…


「やはり貴方でしたか。副学園長。」


驚きはしない。ただひたすらに冷静に。

彼はソファーに座っていた。何の気負いも無しに。ただ無表情に。だがその背中からは何も感じない。強者特有の圧も。魔力の気配さえも。

何もない。本当にそこにいるのかと疑うほどだ。そう錯覚させるほど彼は…



「何故…分かった…?」


低い様な先ほどの声とは打って変わりいつもの朗らかな調子で話し出す。


パチパチと炎が燃え広がる。


「何となく。歩き方とか骨格とか。」


「なるほど…流石だね。」


「私は貴方とはあまり関わりがありませんでした。強いて言うならあの学園に入ってきた際に話した…くらいですよね。」


「そうだね。懐かしいよ。もう君も教師だからね…あのクラスを纏め、更に実力を高めさせるとは君の手際には恐れ入るよ。」


「ありがとうございます。」


副学園長もソファーに腰掛ける。


「君からは…何も感じないんだ。圧も、気配も

殺意も、何もかも。」


「俺も聞いて良いですか?」


「何かな?」


「どうしてこんな事を?私は貴方と話したのは一瞬でしたが貴方は今ほど強くなかった。一体何を?」


「そうか…もう過去の話になるね。取り敢えず

この計画の準備から話していこう。

私はとある日絶望したんだ。どうしようも無いこの世界に。そんな時だった。あの方が話しかけてきたのは。」



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「力が…欲しいか?」


「貴方は?」


「我は…アザトース。原初の神にして全ての世界の王だ…貴様が望むのなら力を与えてやろう。誰にも負けぬ程の力だ。」


「その力さえあれば…」


「この器に魔力を込めろ。大量にだ。」



「はっ。了解しました。」



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「という訳だよ。私は神と出会ったのだ!」


「随分貧弱そうな神だ。」


「フッ。馬鹿には分からぬよ。あの方のあの圧倒的な力などね。君も一目見ればあの方に心酔するよ。」


「俺は自分より強い奴なんて見たこと無いですよ。俺はその気になれば邪神だろうが神だろうがボコボコに出来るんで。そんなどうでも良い事よりなんで副担任さんを利用したんですか?」


「ほう。よく気付いたね。そうさ。ククッ。

私はあの女の母親を病気にさせたんだ。

私の魔力を流してね。神から受け賜わった魔力だ。そこからはずっと昏睡状態さ。それでその母親の症状をさも言い当てたかの様に話してやった。そうしたら面白い程素直に従ってくれたよ。」


「………」


「どうだい?これが経緯だよ。怒ったかな?」


「どうでしょう。俺は自分の大切な人以外は

死のうが消えようがどうでもいいです。まぁ少しでも関わりがある人達は助けたいと思いますが。こっちの世界に来てその大切な人達が増えた。赤目のエルフや獣人。魔王やS級冒険者達。」


「ほう。」



「だから究極の話、その人たちとこの世界の全ての命どっち取るって言われたら迷わず大切な方を取りますね。」



「つまり彼女が利用されてもどうでも良いと?」


「今日今は……ただただ貴方を殺したいですね。」


俺の発言が開始の合図となる。

お互いがソファから立ち剣を構える。


俺は学園支給の剣を。奴はアザトースから

与えられていた剣を。


決着は一瞬で着いた。


メリーが斬り飛ばされ炎で燃える。


「君は強いが私程ではない。さようなら、メリー君。」


踵を返し立ち去ろうとすると


「な、ぜ、だ…?」


変わらぬ姿で彼はソファに座っていた。

傷もなく気負いもなく。魔力の気配もなく

覇気も圧も無く。


「どうしました?」


なんて事ない様に聞いてくる。

彼に得体の知れない不気味さを感じた。


「さてそろそろ始めましょうか。」


彼の一言。だが気付けばその手には美しい剣が握られていた。刀身には「マスター大好き」と書かれている様に見える。オリハルコンの剣だ。


「その剣は…まさか全身がオリハルコンだとでも言うのか…?」


驚愕に顔を染める。

刀身や持ち手が全てオリハルコンで作られており細部にまで拘り鍛え抜かれた剣だ。


「良いだろう貴様が本気ならばこちらも本気を出そうじゃないか。」


副学園長の魔力の気配が変わる。

より濃密な魔力へと。


「これが神から与えられし力だ!!」


消えた。そう錯覚する様な程の速さだ。


遅い。


「グハッ。」


胸を斬る。足を斬る。腕を斬る。


「まだまだ!」


一瞬で傷を治癒して反撃に転じる。

たが、


「この程度か、神も弱いな。」


気付けば腕を斬られていた。


彼からは何も感じないと思っていた。

違った。何も感じさせていないのだ。

自身の力を、膨大な魔力を、スキルを、全て完全に制御しきって。



「お、お前はなんなんだ!?!!」


恐怖に歪む。神から与えられし力をこんな簡単に凌駕する存在が居てはならないのだ。


「俺は…」


斬られる。ただ無慈悲に、何の感情も感じず。


彼には深い闇があった。そこに一筋の光が差し込んでいた。





神から力を与えられし人間は、呆気なく一人の人間に殺された。








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作者の後書き〜


生きたい様に生きてたら百合ハーレム作ってたみたいです〜

の方も是非是非時間があれば。


いつも見てくださってありがどうございます。

皆様のお陰で一万pv突破致しました!!

これからも女神チートをよろしくお願い致しますっ!

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