『スイッチ』

 結合が抜けないよう、注意深く由紀子を後背位の姿勢にさせたとき、彼女の尻に割れ目を挟んで左右対称にある、握りこぶし大のホクロが否応なく強調された。両方の手のひらをピタリとそのふたつのホクロへあてがうと、僕はいやらしくも何か由紀子を支配しているような気持ちになり、興奮の鼻息を禁じ得なかった。

「ホクロを左右同時に触らないで」

「恥ずかしいの?」

「違う。スイッチになっているの。――あたしの家の洗濯機のスイッチになっているのよ」

 行為の行われているのは僕のアパートの部屋であったから、本当に由紀子の尻のホクロが彼女の家の洗濯機のスイッチになっているのか、確かめようがなかった。

「両方のホクロを同時に触ると、洗濯機のスイッチが入るっていうの? そんな馬鹿な」

「本当なの。リモート・スイッチになっているのよ。もう一度左右同時に触れて。そうしたらオフになるから。あっ、ダメ。ペチペチと叩いたら、オンになっているかオフになっているか、わからなくなっちゃうじゃない……」

行為が済んだのち、僕は「洗濯機が心配だ」と狼狽する由紀子を急いで彼女の家まで送って行った。すると洗濯機が空の洗濯槽を、ゴウゴウと脱水していた。

(了)

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