9 どら焼き

口に貼られたガムテープは舐めたりカーペットに擦り付けたりして緩めることも出来た。


風呂桶に放置された時もそうだが、後ろ手に固定されるため、常に腕が痺れたり感覚が無くなったりする。


風呂桶よりは体制が自由なので少しはマシであるが

幼いため時間の感覚も乏しい。

これが12時間の出来事だったのか、3日の出来事だったのか厳密にわからない。


私が繋がれた食卓で母と祖母とかおりの3人が食事をすることが1度あった。


私は空腹で悲しい上に自分の上で楽しそうに食卓を囲む3人を見て空腹のために腹が抉れそうなのか、悲しさで胸が抉れそうなのかわからなかった。


何時間か何日かわからないが

泣く元気もなくなった頃、昼間にかおりと2人きりだった。


繋がれたわたしの先にどら焼きを食べているかおり。


まだ言葉を話しもしないし理解には乏しい幼児。


必死に、「ちょーだい」とお願いし続ける。

大袈裟かもしれないが、このときにかおりがくれたどら焼き半分がなかったら私はもういなかったかもしれない。幼少ながらそれほど生命活動の危機を感じていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る