三話 リアル乙女ゲーシチュエーション!
思うんだが。人生はモテるモテないで大きく変わると俺は思う。
容姿に気を付け、磨いてきた人間がモテるのはまぁ色々悔しい感情などもあれど飲み込めなくはない。ただ、生まれ持った美貌だけでやっている人間はあまり好ましくない。
男女平等などない。俺は美少女なら許すがイケメンなら許さないという分かりやすい主義を掲げている。
故に。
「あんにゃろう……」
俺が怨嗟の視線を送っているのは、確か、ギルド『白光の剣』、リーダーのラクサス・クルフクラインとか言う細マッチョのイケメンでいけ好かない男だ。ジョブは騎士だそう。騎士は中級ジョブで片手剣と盾を装備していると本領を発揮できるらしい。回復術士の可愛い系の男の娘とムキムキの戦士とPTを組んでおり、女性に異様な人気を誇る。この男の娘とムキムキにもファンが付いており、もうさぁ。
「呪いで人を殺せたらなあ……」
「おやめなさい、嫉妬など醜い……」
「嫉妬もするさ! 俺のPT俺のこと好きなの一人しかいないじゃん!? あいつらなに、前世でどんな徳を積んでりゃああいうアイドルみたいな感じになれるんだよキッー! 羨ましい!」
「アスカちゃん、何故ユウヤ様はハンカチを噛んでいるのですか?」
「ユウヤ殿、また古典的な……」
悔しさはそこまでにして、俺は溜息を吐いて林檎サイダーを飲んだ。甘みは微妙だがスカッと爽快。
「ユウヤ君? いつも僕のことを見てくれているね。嬉しいよ!」
え、何こいつ。ラクサスが俺の肩に手を回しながら顔を近づけてくる。
「んだコラ! 近いんだよ、テメェ! 畑に埋まって堆肥にでもなれ腐れイケメンがァァァ――――ッ!」
「ユウヤ殿、それは人としてどうかと……」
だが、俺の暴言を気にする様子もなく、ふふっとラクサスが微笑む。それだけで周囲の黄色い声が深まって、俺の殺意も深まるのだが。
「照れないでよ、ユウヤ君。僕はずっと君を見ていたいんだから」
「はぁ? お前アホか。周りに女の子いっぱいいるじゃん! なんで俺?」
「僕、女の子に興味ないんだ。君がいい、ユウヤ君。とても凛々しくて、けれども道化のようでもあり……全く見ないタイプなんだ。正直そそられるよ……!」
ひぃぃぃぃ…………っ! 何だこいつ、ガチか!? ガチなやつか!? マジで!? モノホンは初めて見たけど、いやいやいや、マジで!?
おお、ファーミが俺とラクサスとの間に入ってくる。ラクサスは、見た事もないような厳しい視線をファーミに向けた。
「お嬢さん、彼との語らいを邪魔しないでくれるか。甘露な蜜月に毒でも差された気分だ。不愉快だから消えてくれ」
お前そんなセリフ言えたのか。こんな美少女に? どんな感性してんの、いや聞きたくないけど。
それでも怯まないファーミは大の字になって俺を守ろうとしている。
「だ、ダメです! ユウヤ様は私のお婿さんです!」
「違う違う、結婚してない婚約もしてない」
「何ッ……!? ユウヤ君、僕も候補に入れてくれ!」
「お前はまず性癖の壁を垂直飛びで超えてくんのやめよう? 恐怖でしかないし。俺女の子しか愛せないし」
「なんだと……ッ!? ユウヤ君、目を覚ますんだ! 女の子なんてめんどくさいだけだぞ! ちょっと優しくするだけで殺されそうになるんだ!」
「あー、それは何となく同感だけどやっぱ男を好きになるとかねーわ。いや、一応聞いておきたいんだが、友人として?」
「こいび――」
「分かった。分かったから、生理的嫌悪感で俺の剣を抜かせるなマジで。頼むって、ラクサス……さん?」
「ラクサスで構わないよ、美しい君よ……」
「ねえまって!? ホントに助けて! おい、ムーユエ! 何顔を赤くしてんだ何とかしろ! アスカちゃんも「ご馳走様です」じゃないんだよ! 取り巻きも良いのかこんなんで!?」
「だ、だ、だって、お、男同士で……!」
うわー、ムーユエ可愛い反応。何て面白い反応なんだ、平時ならからかっていたところだが話の矛先が俺なのが問題。
「イケメン同士のカップリングは熱いですぞ!」
謎の理解を示しているけど、アスカちゃん、腐ってたのか……心無しか呼吸も荒い。
「うん、ありかも。ヘタレ屑系のイケメンを攻めて養う王道騎士系……!」「これはこれで尊い……!」「美しいもののむつみあい、マーヴェラス!」「ああ、折れんばかりに二人はこれから抱き合って、宿のベッドをぐしゃぐしゃにするのね!?」「きゃーっ!」
と取り巻きも騒いでいる。何なのこれ。いや俺が「きゃーっ!?」なんだが。悲鳴をあげたいのは俺の方なんだが。
と何だかんだしていると、男の娘とムキムキが涙交じりに近寄ってくる。いや来るなよ。
「ラクサス! ひどいよ、ぼく達のトライアングルに……! ぼくを愛してくれなきゃやだよ!」
「そうだぜ、ラクサス。お前の体じゃねえと、もう満足できねえんだよ……!」
わー。何だこれ。この三角関係なに? 俺を入れないでもらえる?
ラクサスは向き直ると、アルカイックスマイルだろうか。にこやかな表情に変わった。
「僕は君達を愛している。その輪に、彼も加えたいだけなんだ」
「まぁ、最近マンネリ気味だし……」
「刺激にはなるかもな」
「いやそんな事情で俺を巻き込もうとするな! しっし! 俺は可愛い女の子にしか興味ねえんだよ!」
何を思ったのか、ムキムキが俺の肩に手を置く。
「大丈夫だ、オレもそうだったぜ!」
「聞きたくなかったわ! 何お前、ノンケからホモ堕ちしたの!? なんで!? いや言わなくていいけど! お、おい、ファーミ、何でもいいからクエスト受けてこの場を離れよう!」
しかしファーミは、ラクサスと睨み合っている。何なのお前ら。
「……ファーミとか言ったね。どう見ても彼は僕に惚れている」
「いやいやいやお前目がどこについてんだよ!? 全力で嫌がっとるわ!」
「いやよいやよも好きのうち、とミルパンにこんな諺があるよ」
「そんな理由快諾してたら性犯罪が横行しまくってすげえことになるだろうが俺も脱童貞したいぜ!」
「おお! じゃあ是非僕に初めてを捧げて僕を受け取ってくれないか!?」
「いやだわ! 女の子がいいんだわ! はじめてはとびっきり可愛い女の子と恋仲になってチュッチュしたいんだわ! 野郎の入る余地はねぇ!」
「は、はい! ファーミとキスしてください! 今、ここで!」
「選ぶんだ、彼女か……それとも僕か!? 君は誰とキスをするんだ!!」
もうホント勘弁して! マジで助けて誰か! しかしファーミはおろかイケメンまでキス待ちなのはもうホントさ……。
ええい、ままよ。
俺はファーミの顔を掴み、頬に唇を押し付けた。唇じゃないだって? だって唇だとなし崩し的に恋人にされそうだし……。もう片方は何億回死んでも無理。
それでも今世紀最大の衝撃と言わんばかりにラクサスが愕然としていた。顔よ。どんだけ驚愕だったんだよ。顎が外れんばかりだ。え、なんか泣いてるんだけど!
「……僕は、諦めないよ。ユウヤ君。必ず君を手に入れて見せる」
「いやお断りなんだが」
そそくさと撤退しているラクサス一行。本当に何だったんだ……そうか、活躍しているトップギルドは薔薇の巣窟だったか。そうか……なんか、酷く疲れた。
そう言えばファーミの反応は……うわっ、なんだ? 目の焦点が定まってない! ぐるぐるしている!
「ゆ、ユウヤ様に、ききき、キス、してもらっちゃった……! ユウヤ様に、キス……! ふぁああああああああ~~~~…………」
すとんと椅子に座り、どこか宙を見始めるファーミ。チューだけに? いやしょうもな、俺しょうもな! って初心すぎんだろ、いや初心ともまた違うような気もするけど。
「ふむ、これが日本で言うところのヘヴン状態でありますか。実物を見るのは初めてでありますね」
「そんなオープンスタンスな解釈でいいのか、アスカちゃん……」
「……何でしょう。ユウヤさんとラクサスさんの絡みを思い出すと、胸の鼓動が激しくなるのは……どういう……」
「ムーユエ、頼むからそこで止まって。泣いちゃうから俺が」
なんにせよ。理解できないものは恐怖でしかないなと思った、昼の一幕だった。
本日のクエストはレイドクエスト。複数のギルドが請け負い、協力して事を為すという仕事内容……なのはいいんだ。うん、察しのいい人ならもう既に気づいてるだろう。
「なんでいるんだ!? これC~Bクラスの依頼って聞いてっぞ!? お前らBもしくはAランク相当じゃねえか!」
ラクサスの連中も何故か……ここにやってきていた。PTが三組。俺達、紅い髪の二人、そしてこいつら。にこやかな笑みを崩さず、ラクサスは微笑みを浮かべる。
「嗚呼、運命のようだね。愛しい人と、こうして巡り合う。素敵だと思わないかい?」
「全く。これっぽっちも」
「お前ら仕事しろよな……」
どうでも良さそうに、大柄で長髪の男性が片手で振り回せる小型の斧を手に溜息を吐いていた。こいつはまともそうだ。ラクサスは放っておきながら紅い髪の青年に俺はついていく。
「な、なあ。あのラクサスとかいうやつヤバくねえ!? こっちずっと狙ってんだけど!」
「あーそりゃご愁傷さん。お前、ユウヤだろ? 最近レインボースライム片付けたとかなんとか。やるじゃん。オレはテルウィン・スワイア。クエストで集めたものを行商しつつ、クエストとかその売上金とかで生計立ててる。あっちは妹のリューア・スワイア。リューア!」
最前線で哨戒していた背の低い女の子がこっちにやってくる。異様に薄着だ。へそなんか出して。黒いインナーが胸元を覆ってて、その上に白いマントで着飾っている。紅い髪はロングで、顔は非常に可愛くて愛嬌があり、懐っこそうな印象だった。得物は槍だった。投擲もできそうな短い部類の、オーソドックスな朱色の槍。
「どしたの、お兄ちゃん」
「紹介しとこうと思って。こいつ噂のユウヤだってさ」
「あー! クズのユウヤね!」
「え!? 俺の二つ名クズなの!?」
「……悪いな、リューアはオブラートに包めねえんだ。でもまあ、お前が普段女の子を盾にしてるのは聞いてる。ま、逃げられるんなら逃げるわな、オレも同感」
両手を上げて肩を竦める彼に大いに同意。逃げて何が悪い。俺よりも適任がいたらそっちに普通は投げるんだぞ。
しかし、リューアちゃんはそうではない主義らしく、小ぶりな胸を張った。小さいけどちゃんとふくらみがある。
「お兄ちゃんは強いのに軟弱なの! 追加で魔物を倒して素材を剥げば儲けられるでしょ?」
「ヤダね。日銭稼げりゃそれで良いだろ」
「そうそう、戦わなくて済むんなら遠慮なく薬草とかキノコとか集めるぜ」
俺とテルウィンは顔を見合わせ、ニッとお互い笑いあいながら、熱い握手を交わした。
「気が合うじゃねえか、ユウヤ。オレのことはウィンでいい」
「おー、よろしくウィン」
「ぶー、お兄ちゃん騎士にもスカウトされたことあるのにもったいなー! ユウヤもレインボースライム倒したんでしょ? 二人とももっと強くなりたい! とかない?」
「全然」
「味方が強いんで任せたい」
「このダメンズ……」
リューアちゃんはがっくりと肩を落とす。にしたって可愛いな。まだ幼いけどムーユエよりは将来性がありそうでよろしい。
俺の顔を覗き込んで、くるくると俺を眺め上げて、うん、とリューアちゃんは微笑んだ。
「うーん、性格はアレだけどカッコいい! ユウヤ、今度一緒に食事にでも行かない?」
「お? デートか? いいよ、行く行く」
「やった! 言ってみるもんねー! うんうん、子孫とか残すならこういうカッコいい顔と交わるべきよ、子どもの商品価値的に!」
なにか、物凄くゲスな考えをしているようだが、まぁ何となく一理あるような気がする。命は平等ではない。容姿が端麗かそうでないかで人生における難易度は天と地ほどの差がある。どちらも同じ命だろと言われても、容貌に優れる優れないがある時点で同じ命ではないのだ。人類はより優秀で、より理想的な子孫を残さんがために行動する。
なんとなく思うのが、俺そこそこ見れるようなツラで良かった、ということだ。サンキュー、オトン、オカン。
ぽむ、と俺の肩に手が乗る。凄まじい力が俺の肩を握りつぶさんと極まる。
ウィンはただにこやかに俺に迫っていた。何か夜叉のようなオーラも同時に感じる。あ、シスコンの方でしたか……。
「貴様……妹をよろしく頼むぞこの野郎」
「言ってることとやってること違くねえ?」
「相性はいいように思うが、同時にこうも思う。オレと同じ屑とくっつけて果たしていいものかってなぁ……!」
振り下ろされる斧。寸止めする気なのだろうけども、俺は反射的に剣を抜いて応じた。火花が鳴り散り、初撃はこれで終わる。
防がれたことに固執することなく、ウィンは凶悪そうに笑って斧を再び繰り出してきた。心が冷えていく感覚を覚えつつ、冷静に捌きつつ、気だけを発して距離を取る。
「おっと、切りかかるのかと思ったぜ。相当打ち込んでんな、お前」
「ま、練習は数えきれないほどやったけど。……やめてくれ、マジで。しんどいんだ」
「まだ納得しちゃいないんで、付き合ってもらうぜ、未来の弟君」
そう言動をかわす。ムーユエが「遊んでないで目標を見つけなさい」とのお小言を頂いたがお前はこれが遊んでるように見えてんのか。
剣を交えたことで、納得できたこともある。なるほど、強い。斧という重量がどうしても付きまとう武器を使う。それは重みを感じない剣を使うこちらに、一見すればアドバンテージがあると思うが、それは違う。
重い武器は威力において安定性がある。振りは遅くはあれど、いざ命中した時の威力は剣よりも優れていることはアホでもわかる。腕に走った若干の痺れがそれを裏付けている。
プラプラと宙で手を振って、握りなおす。一呼吸――置いた瞬間に迫って来た!
吸った空気を吐きながら俺も否応なしに剣を振り上げてその一撃を受けて立つべき――
――だったのだが。
刹那に俺の剣とウィンの斧を指で挟んで止めた男が一人。地面に放り捨てられた盾が転がる。
「やめよう。美しい君と、麗しい君が戦う理由など、僕はどんなものでも許しがたい」
ラクサスがそう言いながら、俺とウィンが手にしていた武器から手を放す。不服そうにウィンはラクサスを睨んだ。睨まれたラクサスは涼し気な笑顔で肩を竦めている。
「うっせえんだよホモ野郎が……。にしたって、英雄騎士様は気が多い。オレに言い寄ってたと思ったらあっさり鞍替えか」
「僕はまだ君も諦めたつもりはないよ」
「あー、マジで気色悪いわ。気がそがれちまった……悪かったな、ユウヤ。どんだけのもんか見たかったんだよ。合格、妹もってけもってけ」
「ならラクサス持ってってくれ」
「それだけはノーサンキュー」
そう愉快そうに笑うウィンだったが、溜息を吐かざるを得ない。まさか真剣で人相手に戦うとか。ないわー。ナンセンスだわー。言葉というコミュニケーションツールを持っている人類という世界で最も賢い生物が殴り合い宇宙。猿にまでさかのぼってんのか。
「あのなあ、ウィン。いきなり切りかかってくんなって」
「悪かったって。今度なんか奢ってやっから」
「んじゃ串焼きとサイダーな」
「お前、安上がりだなあ。もうちょっといいもん食え」
「僕も行っていいかな。大丈夫、親交を深めたいだけ。性欲はちょっとしかない」
「「ちょっとでもあるのが嫌だわ……」」
「仲良しだね。ちょっと嫉妬するよ」
「ってお兄ちゃん、いつまでやってんの! 討伐対象出たわよ! 群れで!」
討伐対象……はて。俺はウィンと顔を見合わせる。
「って、今回は何を討伐するんだっけ?」
「そういやリューアが取ってきてたから何だったのかは知らねえ」
「僕も知らないなあ。君らが行くって知った時とりあえず受けちゃったから」
「「お前やっぱり性欲ちょっとしかないとか嘘だろ!!」」
「君ら凄いシンクロ率だね」
「って漫才してないで! ほら、来たわよ!」
ムーユエたちが何かデカい獣と戦っているが、俺達三人に向けて二頭のイノシシが地面を荒く蹴り上げて臨戦態勢。
「あー、これね。ロックブレイクボア。名前の由来知りたいか?」
「名前でどんな馬鹿でも一発だろ」
「だな。岩破壊するほどの突進威力ゆえ、だ。危険度はCランク、群れってんでBランクレイドだ。一体は任せるぜ、英雄騎士様」
「請け負うよ」
「行くぞ、ユウヤ!」
「頑張れ頑張れウィーン! そこだ、そこだ、リューアちゃーん!」
言ってると胸倉掴まれる。
「た・お・す・ぞ。オレと、お前で。一体くらいは! 仕事を受けるなら最低限はこなせ、いーな? 未来のリューア貰うってんならこの約束守れ」
「……わーった。最低限の仕事はする」
「それでいい。よし、動きを止める! とどめを頼むぜ!」
ちらっとムーユエ達を見る。ファーミは心配だが、アスカちゃんに手練れだろうマッチョと男の娘がいる。問題はないだろう。こっちはこっちで集中しなきゃ、やられかねない。岩をも砕く一撃を喰らってたんじゃたまんねえ。
飛びあがって、ウィンは斧の重量を活かし頭部にそれを叩きつける。ごくごくシンプルな攻撃だが、破壊力は充分で、こちらを狙っていたイノシシの四肢がふらつく。その場をバックステップで引いたウィン。さすが、察してくれるとは。
ウィンが跳んで引くと同時に駆け出していた俺は剣に光力を纏わせ、風の刃にして首を刎ねる。頭と胴体が泣き別れ、ボアは絶命した。不思議と、命を奪っても悲しくはならなかった。興奮もしない。意外に俺って冷たい人間なのか。
ひゅうっ、と軽く口笛を吹いたのはリューアちゃんだった。
「さすがBランクの魔物を仕留めるほどのウデマエ! あのロックブレイクボアが一発だなんて! しかも肉も毛皮も全然いけそうじゃない! ほら、お兄ちゃん! 剥ぐわよ!」
「へいへい。お前らも手伝ってくれるなら素材の取り分わけてやるぜ」
「俺はいいや。解体よく分からんし」
「教えてやるって」
「なら覚えとこうかな。必要になるだろうし」
「だろ? なんでも勉強だけはしとけ。知識ってのは自分が占有できる財産だからな」
ウィンと一緒に、肉や毛皮、骨や牙などお金になるものを剝ぎながら教えてもらい、少し勉強になった。
最低限の仕事はする、か。まぁ約束してしまった以上は仕方がないことではあるか。
その後、俺はリューアちゃんとデートとなった。白いロングワンピースというオシャレをしてきた彼女に帽子などをプレゼントしつつ、軽食を出す喫茶店(のような何か。紅茶は扱っているがコーヒーはないようだ)で俺とリューアちゃんはパンケーキを食べていた。口いっぱいに頬張って、なんだかリスみたいだ。
「ん~! 甘くてもっちもちね、ここのパンケーキ!」
「うん、ハチミツがうめえ……! メープルシロップもいいけど、ハチミツだよなあ」
「めーぷるしろっぷ?」
「ほら、木を傷つけたら樹液出るじゃん? すっげー甘い樹液を出す木があんの。それを加工したやつね。楓の木だけど、探せば似たようなのどっかにあるかな」
「へー! 物知りなんだ! あ、そのいちごちょうだい!」
「どーぞ」
あしらわれていたいちごを渡すと、目を輝かせて頬張っている。ここのいちごは少し大振りだ。にしたって可愛い。感情表現が素直だから、とても愛らしい。
「うーん、美味しい! えへへっ、お兄ちゃんはケチでこういうのくれないんだよねー。オレの分はオレの分、って主義らしいわ。ま、お兄ちゃんは宵越しの金は持たない主義だから苦労してそうだけど」
「あ、貯金や行動は別なんだね、二人とも」
「とーぜんよ! あんな底のない財布何かと一緒に生活してたらこっちまで堕落するんだから! お金は大切! ちゃんと貯金しないとね! で、たまに贅沢! こういう風に!」
「ま、それが普段あるべき姿だよなあ……」
俺はムーユエが勝手に決めたせいで、一日に銀貨一枚しか使えない。とはいえ不自由があるわけではない。一日食って飲んで宿に泊まったところで銅貨8枚くらいだ。朝昼晩で銅貨五枚、宿泊費で銅貨三枚といったところ。他だと相場は変わるだろうけど。
「にしたって、意外よねえ」
「なにが?」
紅茶を飲みながら、リューアが人差し指を立てる。
「ユウヤみたいに顔が良いなら、もう既に彼女いそうなもんだけど」
「あー、俺なんかクズで浸透してるみたいだからなあ」
「前のロックブレイクボア戦もカッコよかったけど。一撃必殺! 我に切れないものはない! って感じで! 闘技場とかで戦っても稼げるんじゃない? いや、でもなんか、ユウヤを見てると甘やかしたくなるというか……年上なんだけど、それを感じさせないというか。買い物に来たらおまけをあげたくなるというか……」
それはスキル・買い物上手の副産物なのだろうか。リューアちゃんはぶつぶつと何か考えているらしかったが、どうでもよくなったらしくお茶に戻った。俺は頼んでいたミルクを紅茶にぶち込んで、砂糖をたっぷり入れてそれを飲んでいく。ここ、ミルクポットとかおいてないんだよなあ。単品でミルクも注文しなきゃミルクティー作れないもんよ。
信じられない、といった風にリューアちゃんは俺を見ていた。何だよその顔は。
「俺なんか変なことした?」
「なんでお茶にミルクを!? 信じられないわ! せっかくの茶葉の風味が台無しじゃない!」
「ま、飲んでみ」
俺のカップを手渡すと、訝しげにそれを持って、リューアちゃんは自分の方に傾けた。目を見開き、何回か瞬きした後、それを置いて顔を近づけてきた。
「すっごく美味しい! なにこの飲み方! 凄いじゃないちょっと大発見よ!」
「大袈裟な。ミルクティーって言う、俺の国では古くから存在する飲み方だぞ」
「わたしの国にはなかったわ! うん、この飲み方、流行りそう! 茶葉もこれ用に調合してみようかしら!」
「コク深くて煙たい香りの紅茶がおススメだよ。ミルクで割るなら少し苦いくらいでもいい」
「それ紅茶を煮だして作るような国で流行りそうだわ! ふっふーん、早速色々と商品開発したくなってきた……! デートにこれてよかったわ! 目の保養にもなったし、お腹もいっぱいだし、新しい商品の兆しが見えたし! ユウヤといるといい事ばっかり!」
「そりゃどーもで」
そんなやりとりをしてると、通りかかる見覚えのある気品ある姿。なのに可愛い。相変わらずノーブルな魅力全開のお方だ。ファーミがこちらを見つけて駆け寄ってくる。
「あー! ユウヤ様、ズルいです! わたくしともデートしてください!」
「機会があったらね」
「モテモテね……って、んん? なんか、この上品な子、どっかで見た気が……確か、城で…………ってえええええ!? ファミロフォン様!? え、なんでこんなとこいるの!? いや、なんか……雰囲気違くない!?」
「今は、ファーミです! ユウヤ様と一緒に過ごしたくて、王位、捨てちゃいました!」
「うええええっ!?」
リューアちゃんは目を白黒させていた。そりゃそうだ、こんなトンデモ有名人、身近にいるとは思わんだろう。女王だったか姫だったか俺はそこらへんをよく知らないのだが、ロイヤルなキャラは初めてなので色々衝撃を受けている。出会った当初は朝食にケーキを要求していたのだが、さすがに一般的ではないだろう。ここでの甘味は庶民の贅沢というか、ワンランク上の食い物だし。しばらくして俺と同じものが食べたいと駄々をこねて普通になったんだけど。
「い、いやー……びっくりしたぁ。で、この男は女王様でも満足できないって?」
「だって、俺色んな女の子とイチャイチャしたいんだもん……これは俺の夢だ」
「ふーん。じゃあ、わたしは年下枠ってことで! よろしくね、ユウヤ!」
「……よろしく、リューアちゃん」
「ちゃん、って呼ばないで。呼び捨て。ね? わたしそんなに子供じゃないし!」
「そっか。リューア、よろしくな」
「わ、わたくしも! わたくしも是非!」
「ファーミ、そういや城はいいの?」
「良いんです。わたくしの弟は優秀ですから!」
むん、と大きな胸を張るファーミ。思わず見てしまうが、軽くチョップが入った。リューアだ。
「ガン見しない! 女の子と接する時はデリカシーが大事なんだから! ま、ちょくちょくデートして教えてあげる!」
「それは助かる! 俺の幼馴染もいっつも俺はデリカシーないとか言ってきて散々だったからな……俺はただ女の子とHなことしたいだけだというのに!」
「じゃあ帰ったらしましょ!?」
「い、いやー……また今度ね!」
「聞きしに勝るヘタレ屑野郎ね、ユウヤ。そう言う方が調教し甲斐があるわ!」
「せめて教育って言ってくんね? なんか年下の女の子に責められるのも興奮しそう」
微妙な顔をするリューアとニコニコ笑ういつも通りのファーミに微笑み返す。
ラクサスという脅威は生じてしまったけど。
こうして何かと世話を焼いてくれて甘い物にも付き合ってくれる年下のガールフレンドが出来たので、まぁ、良しとするか。
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