二話 あっぱれ! 真剣†無双! 2
近辺の森であるスライムの森。
危険難易度D。平原とかよりも危険は高いが、それは視認性による事故のためだろうと俺は思う。平原はめっさ巨大な魔物とかたまにいるものの、縄張り意識を刺激しない限りは滅多に襲い掛かってこない。
その一方、こういう森はヤバい。何かしら肉食動物の領域に差し掛かると襲い掛かられてしまう。視界も悪く、気づいたらクマにでも襲われてぺしゃんこなんて結末も珍しくないらしい。酒場で講釈垂れてた引退傭兵のおっちゃんが言ってた。
まぁ、クマなんて危険生物、このスライムの森にはいないそうなのだが。でも何かの間違いでこっちに流れてきたなんてクソ面白くもない顛末を喰らうのもごめんなので、とりあえず俺も警戒して剣の柄に手を掛けていた。それといつでも逃げれるようにダッシュの準備。
「ユウヤ君、そんなに警戒しなくても。危険度Cは恐らく間違いでしょう。スライムの森に異変は見当たりません。さ、行きましょう。報告によれば奥地とのことです」
「備えてないといざって時逃げられないだろ、俺が」
「一々言動がゲスですな……」
そう思いながら、俺は着なれないごわごわした服の感触を確かめる。
ここに来てから、ムーユエも俺も衣装を変えた。俺は学ランから黒のズボン、白い襟付きシャツにこげ茶の革のジャケットを着るようになった。やはり糸などの素材も縫製技術も現代日本よりは当然劣っていて、やはり着なれない。
ムーユエも白のワンピースに紫色のローブを。サンダルというより、ミュールだったか。そんな感じの靴はそのままだ。
ファーミは白いフード付きの外套に黒のハイウェストスカートと白いブラウス。靴はブーツのようだ。こだわりの白いタイツ愛用で、全体的に白い。
白いと言えば、アスカちゃんも白い。ものの、金色が目立つ神聖騎士にのみ許された略式の軽鎧をまとっている。たなびくマントが何とも頼もしい。
得物は、ムーユエが杖、アスカちゃんが神聖騎士用の半透明の両刃剣、ファーミが王族専用ウエポンらしい『光剣・ルクスディル』を鞘に収めている。王族専用ウエポンは何がどうという効果はないらしいが、ものっそい希少な金属で作られているらしく、売れば屋敷が七件くらい建つそうな。恐ろしい。
「むっ、女王様、来ます!」
「よーし!」
ファーミが剣を構えた。アスカちゃんが最前線に立って警戒している。俺は逃げる準備をしてムーユエに杖で殴られた。
飛び出してきたのは、三体のスライム。青いやつ、赤いやつ、黄色いやつ。
スライム が あらわれた !
コマンド
・たたかう
・まほう
▼にげる
▼ユウヤ は にげる を えらんだ !
▼しかし ムーユエ が まわりこんで いた !
「ってお前が立ちはだかるんかい!」
「さっさと倒しなさい。雑魚でも経験値は経験値です」
「このスライムが可哀想じゃないか? 自分達は必死に生きているのに、なんでこんな仕打ちに遭うんだろう! なわばりに勝手に入ったのは人間だというのに!」
「あ、ユウヤ様、そっちにスライムが!」
「え? ぐおおおおっ!?」
鳩尾に飛来するスライム。い、いてええええ! え!? 痛くね!? めっちゃ痛くね!?
「何すんじゃコラテメェ! 死ね! 死ねぇええええええええ――――ッ!!」
咄嗟に抜刀しスライムを串刺しにした。あ、倒しちゃった。
大した敵ではないらしく、ファーミもアスカちゃんも一発貰った俺に対しキョトンとしていた。その反応傷つくわ。
「ユウヤ君、スライムの攻撃なんて怖くないでありますよ。よっぽどのことがない限りは死なないであります」
「いや痛いよ! 真面目に喰らってみてびっくりしたよ! 意外と強いよスライム!」
「まぁ、軽鎧すら付けてきてないですし……その装備は舐め腐っているでしょうさすがに」
「大丈夫、アスカちゃんって言うメイン盾がいるから俺はひたすらに逃げるか隠れるを選べば勝手に戦闘が終わっている」
「こんな男に報酬を配分するのは嫌なのですが……」
「まぁ、一応倒せるだけの力は持っていますし。非常用戦力としてなら大丈夫ではないかしら」
「なるほど、ムーユエ殿。そういうつもりでいれば疲れませんな」
俺の株価が暴落しているらしいが知ったこっちゃない。俺は戦いたくないのにここまで引きずられてんだから、むしろ感謝してほしい。
「にしても、キングスライムはどこにいるのでしょうか……」
「ムーユエ、なんか便利そうな魔術とやらで探知できないのか?」
「あまり私が介入する事態になるのは避けたいのです」
「おー、俺も一緒一緒。ムーユエ、ナカーマ」
「一緒にしないでください。私は女神としての結論」
「俺は俺としての結論だから、きゃっ、お揃いだねっ! っておやまあ、そんな大きく杖を振りかぶらないで。死んじゃう死んじゃう、さすがにさ。うおっ、あぶねっ!?」
「この男は神経を逆なでする天才ですね全く……!」
月の女神も俺の魅力の前にクラクラらしく、片手で頭を抱えている。すまんな、俺の魅力が溢れすぎてて。
「ん?」
またスライムだ……あれ、なんか、色んな色のスライムが集まりだしている。
「……! 姫様、おさがりを……! こいつら、合体する模様です!」
「え、マジで!? スライムの性交なんか見てもなあ……」
「いやいやユウヤ君違う違う、そっちじゃないそっちじゃない。男の子が持ってるマンガによく出てくる硬くて熱いやつですから」
「チ○ポ?」
「ロボットです! いい加減ぶん殴りますよ!」
「殴ってから言うなよぅ……」
なぜかお腹パンチされた。いや、男の子が持ってるマンガに出てくる硬くて熱いやつじゃん。確かにロボットは硬くて強く、熱いイメージがあるけど……それって古き良きスーパーロボット系じゃないの? リアルロボットはあれ熱血とは真逆をいってない? つかロボット漫画って実は少ないんだぞ。
様々なスライムが二十種類くらい混ざり合い、輝きを放つ。まばゆい輝きに目を眇めつつ、その行く末を見守る一同。
「いやアスカちゃん、今のうちに攻撃すればよくない? ほら、メッチャ無防備だよ?」
「いいえ、合体行為中は攻撃するべからずと騎士の法にも書いてありますので」
「え!? 騎士の法作ったやつパープリンなの!? 今隙だらけじゃん!」
謎の風習があるらしい。そういえば熱血ロボット系も主人公が変形とか合体しているところに茶々を入れる敵をついぞ見た記憶がない。俺はオタクな幼馴染みのせいでそれなりに詳しい部類。アスカちゃん割と好きなのかな、ロボットとか。
剣を抜き放ち、握りしめるファーミが後ろに隠れようとしている俺の方を向いた。
「ユウヤ様! そろそろ合体が終わりそうです!」
「じゃあファーミは俺と合体始めない?」
「え! 良いのですか!? しますします!」
「いやそんなバカ高い剣放ってこっち来ないで! ほら、拾ってきて拾ってきて!」
「いや、これは……! 漫才をやっている場合ではありませんよ! レインボースライムキングです! 危険度はB! 気を抜くと死にますよ!」
言われ、全員に緊張が奔った……俺以外の面子に。
俺はよく分からなかったので、緊張の面持ちのムーユエの方を向いた。
「こいつそんなに凶暴なの?」
「全属性の魔術を使います! 体力も集まった数と元々の体力で倍になるので……体力二十のスライムでも、二十匹集まれば……体力四百! B級の魔物は百五十程度なので……倍以上……長期戦か、超高火力で圧死させるか、どちらかを見据えなければ……!」
ムーユエはそう呟き、杖を構える。彼女にできるのは拘束と致命傷にならない電撃、それと治癒。戦闘時はあまり役に立たない。
「ユウヤ君、お願いします! 姫様をお頼み申し上げたく!」
「え!? なに、アスカちゃんならやられないでしょ!」
「B級格を一人で相手をするのは厳しいのです! 自分がやられたら女王様を、どうか、お願い致します! 自分がやられたらお逃げください! 女王を――いえ、ファーミを、絶対に守ってください! 約束してください!」
「や、約束……?」
「ユウヤ君!」
あまりにも迫真の顔だったので、俺は頷いてしまった。
「あ、ああ……」
「ありがとう。では、参る!」
光力でなのか、魔力でなのか、アスカちゃんの剣が輝いている。透き通るような白い剣だったのが、今や白光が薄暗い森をまばゆく照らしている。
「ホーリーストリームッ!」
豪! と烈風と共に輝きの奔流が剣を振り下ろした先――レインボーキングスライムに飛来する。破壊的なそれは周囲の木々を抉りながら飛んでいったが、スライムは更にこちらに前進し、蒼い魔法陣が浮かぶ――
「くっ!」
咄嗟に剣を防御に回した彼女だったが、生じた水の槍に押し流されて浮かび、木に激突した。音もなく崩れ落ちる彼女――鎧が仇となる。あの重さの鎧だ。致命傷にはなるまいが、叩き落とされた時どれほどのダメージがいったか。想像するまでもない。
やられる絶対的な前衛を目にし、さすがに俺も逃げたくなった。
でも、その一撃でファーミが腰を抜かしている! すぐさまムーユエがアスカちゃんの治癒に回っているが、あれではファーミが――
――約束を破ったら、どうなると思う……?
駆け抜ける嫌な予感。徹底的に裏打ちされた経験が、約束を守らねばと焦燥感を生じさせていく。俺は剣を抜いた。抜きつつ、レインボースライムに迫り、一閃を重ねて、瞬時に七回の斬撃を五回当てて、ファーミを引っ張って後ろに投げた。
スライムはブルブルと震えていた――魔法陣が複数浮かぶ。しかし、直線的にこちらを狙うだけの魔術など、避けるのはたやすい。アスカちゃんもファーミが一直線上にいなければ避けていたはずだ。放たれる魔術をかわし、回避の勢いを殺す。
魔術の撃ち過ぎで姿かたちを保っていられなかったのだと思う。スライムは分裂しだした。
ならば迷うことはない。一匹一匹は容易いのだ。ぶつかったら痛いが、それだけ。
――一呼吸置いて、アスカちゃんがやったように剣に光力を込め、刃を振るう。
研ぎ澄まされた風の刃が二十あまりいたスライムの尽くを打ち消して、スライムの核という素材が周辺に転がり、その中の虹色の核が俺の目の前に転がっていた。が、急に光力を込めた反動か、俺は片膝をつく。しんど。
「……レベル1のソードマスターが……B級の魔物を、独力で……!? ユウヤ君、君は……一体……?」
「あーもー疲れたぁああああああああ――――…………。もう俺何もしないからなー! 俺頑張ったもん! ファーミを守る約束もこれっきりだからな、アスカちゃん! はいもう無効ー、そんなに守りたけりゃ強くなって自分で守ってくれ! 以上! ムーユエ、もう俺帰っていい?」
「いや……女王様が投げ飛ばされて気絶しているから、貴方がおぶって帰りなさい」
「気絶してる人間って重いんだぞ……? そして幸せな感触を堪能してもいいのか?」
「女王様とその騎士を救った英雄には、相応しいご褒美だと思いますよ。ねえ、アスカ」
「……返す言葉もない……。自分は、守り切れませんでした……」
「そんな時もあるじゃん! 気にしない気にしない! さ、帰ろ。レインボーキングスライムだって報告してギルドからふんだくろうじゃん報酬をさ!」
「それはそうですね」「一理あります。戻りましょうか」
「えっと、この虹色の核持ってかえりゃいいのかな」
「ですね。……ユウヤ殿」
すっかり、ムーユエの治癒魔術を受け、復活したアスカちゃんが微笑みを浮かべてこちらを見上げてくる。
「あり、君じゃなかったの?」
「いえ。ユウヤ殿……女王様が惚れただけはあると、認めましょう。カッコよかったですぞ。でも、そういうところをたまーに見せるのも良いのですが、もっと見せて頂ければ……ちゃんと惚れてあげます」
そう微笑みながらこちらの顔を覗き込んでくる彼女は何だかとても綺麗で、俺は思わずそっぽを向いた。ふふっ、と楽し気な声とふわっと香った甘い匂いが尾を引きながら離れていく。
「よし、アスカちゃん。この流れはホテル行く流れだよね? お、俺、初めてだけど……優しくしてね……いてっ、いててっ、何故ムーユエが俺を殴る! え!? 嫉妬!?」
「アホに対する適切な処置です」
何故か功労者の俺はぶん殴られてしまったが。
ま、死人が出なくてよかったじゃん。ジョーデキジョーデキ。
レインボースライムを倒した後のことは、何かとてもスゲーことになっていたらしい。
まずクエストの詐称疑惑について。詫び金が金貨十枚。そして討伐報酬も上乗せされて計金貨十五枚を稼ぐことができた。功労者である俺が使おうとしたのだが、大半を冒険者ギルドに預けることになった。冒険者に金など渡したら酒と食事代に消える。そういったことを失くす一環として、冒険者ギルドは銀行のようなことも行っているそう。
次に、俺の経験値。レベルが八に跳ね上がり、一気にスキルが増えた……らしい。イマイチよくわからんが、魔力も使えるようになったのだとか。そこらへんはカッコよさそうなので習いたいというと、ムーユエが教えてくれることになった。
最後に、この問題だ。
「頼む、B級の依頼なんだが、あんた受けてくれ……!」
「嫌じゃぁぁぁぁ――――――――っ! この間はたまたまだっつったろ! そんな危険なことするわけねえって! 馬鹿かあんた!」
俺に向かってB級の依頼がギルドご指名で届くようになってしまった。全て無理だと突っぱねているが、何だかんだC級の任務は大体受けれるようになっているらしく、レインボースライム前の俺達より持ってこられる難易度が違っている。依頼内容も、ここレガリアよりも先のファセットの街とかちょっと強めの魔物がいるところにまで出張しなければならない。そんなのノーサンキュー!
「くそ、俺は薬草集めとかキノコ回収とかそう言うのがしたいんだよ……! 命危険なやつはぜってえ嫌じゃ!」
「ユウヤ殿のちょっとカッコいいトコ見て見たいですぞ」
「無理! 俺は働かない、出ていかない、買い物だけするような男になりたいんだ!」
「一々屑というかゲスというか……」
「そこがユウヤ様の味です!」
なんで得意げなんだろう、ファーミのやつ。しかしそれに突っ込まないな、アスカちゃん。前なら嫌味のひとつくらいは零すはずだったのに。
とりあえず、今日もアスカちゃんの作った食事を摂る。
「……ねえ、アスカちゃん。野菜とかって……」
「男なら肉を喰らうべきです!」
「いやいやいやいや!? ステーキにビーフシチュー肉と玉ねぎオンリーとハンバーグって! どうなってんのこれ! 肉と玉ねぎしか摂取してねえじゃん! 体壊すぞ、俺ら日本人なのに! せめて米をよこせ米を!」
「なら自分で作るとよいのです」
「あーもー……」
俺は葉野菜とトマトのサラダを作り、米を何となくで炊いてみる。上手くいった。ホカホカの柔らかい白米に卵と油と塩と酢を混ぜたマヨネーズっぽい何かを掛けた野菜を頬張りつつ、肉もちゃんと食べる。
何事もバランスだよ、バランス。
ファーミもムーユエも野菜を大量に挟んでおり、アスカちゃんは若干不服そうにしながらもそれらを食べていた。いや、味はいいんだ、味は。美味いんだけどさぁ。やっぱバランスだ。
「明日はどんなクエストに行きましょうか!」
夜の毎食後、ファーミはそんなことを言うのだが……。
「討伐」
「討伐」
「外出たくねえ……」
ムーユエにシバかれながら、今日も一日が終わっていくのだった。
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