二話 あっぱれ! 真剣†無双! 1

  二話 あっぱれ! 真剣†無双!


 ファーミに告白された三日後。彼女は急ピッチで家を一軒おったてて、俺達はそこに住むことになった。突貫工事の割にはかなりしっかりした建築物で、金が掛かっていそうだった。だが、俺は覚えている。ファーミは「ミニチュアみたいで可愛い家ですね!」とちょっと大き目な一軒家を前にそう言っていたことを。まぁロイヤルですこと。


 俺はフラフラと家を出て、外に。俺が頼んで風呂も付けてもらったんだけど、ファーミが事あるごとに乱入してきて、悶々とした日々を過ごしていた。そこまでされて襲わないのも逆に失礼なのかもしれないが、俺はもっと色んな女の子と出会いたいわけで。こんな若くしてルートロックしたくないのだ。


 まぁ、俺の前世はそれが原因で刺されたらしいのだが、問題ない。何故なら、これが俺の、サガだから!


「えっと……」


 持たされた金を見る。おお、結構あるな。金貨二枚と銅貨やら銀貨やらが複数入っている。俺に見合った武器を買って来いと言われたのだが、そんなん守る義理はない。戦いの道具なんて俺にはそもそも必要ないのだから。だって俺戦いたくないし。怖いし。この間は約束だからってきったはったしてたけど、絶対にやりたくない筆頭だった。


 血まみれになるだろうし、内申点稼いだりモテ要素を盛るためにやっていた剣道も恐らくしなくていいのだから、そりゃもうやりたくないってもんだ。胴着とかいくら消臭したってくせーし、汗は無駄に掻くし、強くないとモテないのでもう散々だ。二度とやらねえ。祖父の実家が剣術道場だからって安易に剣道を選んだ自分を殴ってやりたい。


「さーて!」


 この金で風俗店まで行くか。騎士のおっちゃんから教えてもらったいい店ってやつがある! 俺はその扉を、意を決して開け放った!


「ちわーっす! 一番いい娘ちょうだいな!」

「おう、自慢の剣だぜ。どれにする!」

「ってオッサンじゃーん!? え、どうして!? 俺とヌルヌルになる女の子はいずこ!? 勇気出してやってきたのに酷いよこんなの!」

「何言ってんだお前……」


 鍛冶師だろうか。頭にタオルを巻いた壮年の男性が苦い顔をしていた。というか看板で気付くべきだった。ハンマーと鍛冶台のマークがあったし。風俗店ではない。


 オッサンは溜息を吐き、籠に放り込まれている剣を持ってくる。


「剣買うんだろ? どれがいい?」

「……」


 まぁ、護身術は必要そうだし、武器はあってもいいかな。

 そう思い、細い剣を持ち上げる。だめだ、軽すぎて武器を握っている実感がない。


 では巨大な剣は? ダメだな、リーチの感覚が狂う。いざってなった時使えないんじゃ意味がない。


「あのさ、このくらいの長さで、ちょっと重めの剣ある?」

「あー、お前ジョブは?」

「ソードマスター」

「なるほどな。じゃあこれはどうだ?」


 古めかしい片刃の剣だ。持ってみると、金属の質が違うらしく、今までの剣よりも重く感じた。


「扱えそうか?」

「試しても?」

「おう」


 柄を握ると、やはり重さを感じなくなった。振るってみても、剣の重さで体が流れることもない。振り回した感じも頑丈そうだし、良い剣だ。


「じゃあこれくれ」

「まー金貨二枚なんだが、金貨一枚と銀貨五枚にまけといてやるよ」

「金貨二枚から」

「はい、銀貨五枚おつりな。剣帯いるならさらに銀貨一枚」

「はいよ」

「おう、確かに。持っていきな」


 ベルトに剣帯をつなげて、剣を提げる。うん、悪くない。このフォルムは刀というよりは直剣だったが、切れ味も悪くないだろう。というか、風の刃を使えば大抵の敵は問題なさそう。


「似合ってるぜ! ウチの娘貰ってほしいくらいだ!」

「おお、美少女ならいいぜ」

「二十五歳にもなって本ばっか読んでる変わり者だが……成長しなくてなあ……いつまでも可愛いままなんだが、ありゃ大丈夫なんだろうか」

「さ、さあ?」


 初対面の俺に言われても。


「そんじゃ、ありがとオッサン。メンテしにたまに持ってくるわ」

「おう、壊すなよー」


 そそくさと出ていく。うーん、この金で風俗行けるのかな。


「おっ、意外な人物でありますな。剣を買ったのでありますか、似合っているでありますよ!」

「あー、アスカちゃんじゃん」

「ちゃ、ちゃん付けはやめてください、これでも年上なんですよ!」


 小さめの、白銀の鎧をまとった女の子が不貞腐れる。茶色のセミロングの髪に、日本人っぽい肌の色が何ともなじみ深い。不貞腐れているとさらに年齢不詳感があるのだが、実力は確か。ちなみに十八歳なので、二個上だ。合法ロリの類だろう。


 昨日クエストに同行した時に分かったが、剣の実力もあるし疲れている人間には回復も掛けてくれる。一人はPTにいて欲しいだろう万能なやつ。


 おかげで労せずクエストはクリアできたものの、俺が戦わないと経験値が入らないだろということでムーユエから殴られるのだった。俺も戦ってたじゃん。前衛に出て敵の気を引いて回避行動。あれ怖いんだよ? まぁ、そそくさとアスカちゃんの陰に隠れるようになったのだけども。


「訓練でもなさいますか?」

「いやー、訓練なんて汗臭いのはノーサンキュー。俺はアスカちゃんに守られてたい」

「あ、あはは……。女王様も変わったお方を好んだものです。しかし、見ておりましたよ。サイクロプスを両断するところを。見事な手並みでした。しかも初めて使う剣であれほどとは! 尊敬します!」

「どーも。いやー、ソードマスターなら大体できるんじゃねーの? いや知らんけど」

「いやーあんなのがゴロゴロいたら冒険者など必要なくなるでしょう」


 うんうんと頷いているアスカちゃんだが、うーむ。


「そういやアスカちゃんも日本人なの?」

「日本人……え!? ということは、まさか!? ユウヤ殿も!?」

「おー、やっぱり。俺は東京の出身」

「自分は福岡であります! いやー、自分はうっかり鉄骨が降ってきたらしく……ユウヤ殿は?」

「なんか女の子に刺されたらしい」

「えっと……女王様を弄ぶと胴体が泣き別れるが、よろしいか?」

「やめてやめて。俺は美少女の誰に対しても本気なだけだから」

「いや想像しうる限り最低すぎる答えですぞそれは!」

「その変な喋り方もやめていいんじゃない?」

「騎士として生きていくために、この喋り方はマストなのでありますよ。ユウヤ殿も、国父になられるのであればもっとしっかりしてください」

「ならんて。いやー、姫様も味見したいんだけどねえ」


 早業だった。


 剣を差し向けられる。あっという間の出来事に即座に俺の体は反応し、剣を抜いて鍔迫り合いのカタチとなる。


「……さすが、ソードマスター! 最低ですが剣の腕は認めましょう」

「いやいやいやマジ勘弁して。俺切ったはったは苦手なんだよ」

「好きではないのは伝わりますが……その腕、眠らせておくには惜しいですね」

「嫌だ! 神聖騎士の方が何か強そうだし、俺はアスカちゃんの背後に隠れるぜ!」

「堂々とそんな情けないことを言わんでください……」


 アスカちゃんは可愛い顔を顰めながら納刀していた。俺の行動が理解できないらしいが、至極明快だと思う。俺自分の手で極力生き物なんざ殺したくないし。俺も剣を収めながらそう思った。


 ファーミを守った時は約束があったから致し方なしだったが、そうでない場合でまで戦いたくもない。だって怖いじゃん! すっげえいやじゃん! 血とか触りたくないじゃん!? 分かってくれるよな、きっと。うん、嫌なんだもん。それに勝る理由なんかねぇ。


「さーて、アスカちゃん。俺と一緒になんか甘いものでも食べに行かない?」

「肉が食べたいです!」

「わぁ、野性味あふれてるなあ……」


 そんな純真な顔で肉食いたいとか。もっと可愛い物おねだりしてよ頼むから。


「く、クレープとかどう?」

「肉を巻いてある奴ならば!」

「あー、うん。もういいやそれで」


 どこまでも肉食系なアスカちゃんにとりあえずそう返して、二人して街を行く。


 慈しみの街、レガリア。


 治癒の泉という湯治系スポットに近いために、お忍びで貴族やらが存在。それを守るために騎士もそこそこ派遣されてはいるものの、冒険者の仕事を奪うような数ではない。結果、両者が半数くらい両立している、賑わいを見せている街ではあるらしい。


 貴族が通うという土地柄、水道などの整備はきちっと行われており、火事があった際にすぐに消せるよう、水路も巡っている。特産は豊かで美しい水質で育つ農作物。中でも米は、ここウェーランド一の品質らしい……ということを、ムーユエは言っていた。


 けどあいつ、俺の「可愛い女の子が多い町教えて!」という問いに答えを返さない。恐らくあいつ、よく知らないんだな、と勝手に思っていた。女神の癖になぁ。美少女が住まう土地とか俺が神様なら絶対最初に覚えるぜ多分。


 まぁ、そういう感じの場所であるがためか、軒を構える商人も露店も多い。


 その中からクレープの屋台を発見し、俺は林檎とクリーム、アスカちゃんはバッファロー炭火焼の切り落としを選んで口に運んだ。アスカちゃん嬉しそう。肉の脂で唇がてかてかしてるのが何か艶っぽい。


「美味しいでありますね!」

「そ、そーね」


 おかずクレープかぁ。いつか挑戦してみようかな。俺の中ではどうしてもクレープは甘いものであるという固定観念がある。


 ふむ、歩いてみて思ったがこれはデートに当たるんじゃない? アスカちゃんはムーユエとは違って常識的に小さいだけだし。小柄に当たる部類で、おっぱいもそこそこあるし。


「これデートかな!」

「むごっ、けほっ、けほっ……! な、何を言い出すのでありますか!」


 真っ赤になってむせかえるアスカちゃんだったが、俺はかつてない青春っぽさに涙すら流さん勢いだった。


「年頃の男女がこうして並んで買い食いしてるのは立派なデートだぜ! テンション上がって来たぁぁぁぁ――――っ!」

「ムチャクチャなことを仰いますね、ユウヤ殿……。そう言えば気になっていたのですが、ムーユエ殿とはどういう関係なのですか?」


 思い返してみる。


 ムーユエ。なんか月の女神だとか言ってた気がするが、見た目は美幼女。とても神秘的な面立ちで可愛いのだが、こちらを杖で殴打したり電撃浴びせてきたり鎖で拘束したりと字面だけ見ればとてもドS。でもああいうのが責められると意外とマゾだったりするんだよな。まぁ、彼女もいけなくはないけどさすがに手に金属のワッカかかりそうだし。ここだとどうなんだろう。手錠は金属製なのかな。


 どうでもいい思考を横にやって、俺は率直な感想を述べた。


「なんか俺を戦わせようとしてる最悪な奴だ。あんなペタ胸に加勢してもいい事ないぜ。俺と一緒にいればハッピーラッキーこんにちはベイビーということで子供も増えるぞ!」

「うーん、この……。公然わいせつ魔は普段の業務なら取り締まって指導するのですが、姫様が強くそういうことをするのはダメだと仰るので……」


 おお、ありがとうファーミ。こんなところで女王の威光を感じることになろうとは。まぁいい方向に転がってスペシャルラッキー!


「んでさ、アスカちゃん。魔王の進攻ってどれだけ深刻なの?」

「うーん……魔王自体の噂は聞かないのであります。ただ統治がされておらず、魔物が暴れまわっておるのですよ。各地で災害級の被害を呼ぶ、龍災厄なども発生しておりまして……」

「龍災厄?」

「飛竜……ワイバーン種ではなく、ドラゴンの進攻なのです。通るだけで絶大な規模の被害が出ておりまして……。まぁ悪いことばかりでもなく、ドラゴン進攻の後は土地が豊かになるのだとか。とまぁ、色々とありますが、ここレガリアは大体平和であります」

「大体?」

「魔王は神出鬼没らしく、ここにも出現するそうなのです。ですが、魔王を倒すことで魔物の進攻を止められると前々王の言葉があり、国民が盲目的にそれを信じており……。正直、魔族の中からまた新しい魔王が生まれるだけなのでありますけどね。確かに、魔族の王を撃ち滅ぼせば、勢いは減らせるかもしれませぬが……あ、内緒ですよ?」

「よし、アスカちゃんがそう言ってたってファーミに言っちゃおう」

「い、いや! それだけは勘弁して頂きたく!」

「じゃあ俺とエッチなことしようぜ」

「……良いのでありますか? 自分、割と……本気になったら凄いでありますよ……?」


 豊かな胸元を開けて迫られると、思わず体が避ける。


「い、いやー……また今度よろしく!」

「ムーユエ殿の仰る通り、チキンで口ばかりのヘタレ屑野郎ですね……。刺されるのも納得です」

「あ、てめっ、男の純情弄んでんじゃねえよ!」

「乙女の純情を踏みにじろうとしてましたよね? ね?」

「あ、はい、すみません。俺が悪かったです……」

「ユウヤ君は本当に顔だけはカッコいいのですよ」

「あ、殿じゃなくなった」

「殿を付けるほど尊敬もしてないので。挙句に年下ですし。君で充分でしょう」

「こんにゃろう……!」


 いつか襲ってやる。


 クレープをきっかり食べ終え、俺達は拠点に戻る。ムーユエが本を読んでいたが、視線をこちらに向け、その本を閉じた。


「剣は買ったようですね。似合っていますよ」

「けっ。風俗行かなかったことを感謝してほしいもんだぜ」

「「どうせヘタレていかなかったでしょう」」

「まぁ仲がよろしいですこと!」

「そのお嬢様っぽいツッコミは何なんでしょう、ユウヤ君……」

「まぁ結構です。ファーミさんは先に酒場に行きましたよ。クエストを選んでいる頃でしょう」

「よーし、今日もニコニコ薬草採取! キノコでもいいぞ!」

「討伐系を頼んでおきました」

「ふふん、別にいいもんねー。俺はファーミとアスカちゃんに守られながら生きるのだ!」

「ゲスい、ゲスいですぞ、ユウヤ君……。もう少し、君を守ろうとかそういう心構えはないのでありますか?」

「そんな男気はそこらへんの川に捨てた」

「いや直ちに拾ってきてください! 大事ですぞ男らしさ!」

「なんでえ、男女平等とか叫ぶ割には男には男らしさ求めるの変だろ。お前らのだーい好きなセクハラっつーんだよ覚えとけアスカちゃん」

「く、この……!」


 口だけは達者な俺に勝てないアスカちゃん。真面目ちゃんだから扱いやすい。


「どうでもいいので行きましょう。バインド」

「さ、行こうぜ」

「ば、バインドにもはや抵抗すらなくなってきておりますな……」

「目的地まで歩かなくていいから、慣れたら意外と快適だぜ?」

「慣れというものは恐ろしいであります……」


 渋い顔をするアスカちゃんに微笑み返しつつ、引きずられていく。最初は異様な目で見られていたが、三日もすればそれもなくなっていった。


「よォ、また引きずられてんのかお前」

「うるせえ、ほっとけ」

「今日は鶏肉安いから後で見ておくれ」

「へいへーい」

「意外と人には好かれているのですね」

「嫌でもつながりができるしな。というかなぜ俺を毎度買い出しに行かせる」

「それは貴方のスキルが発動しているからです」

「スキル?」


 気づけば、俺のポケットからカードを抜き取り、項目を読んでいる。


「スキル・買い物上手。おまけやら値引きやらをしてくれるそうですよ」

「え!? それが俺のスキルなの!?」


 なんかしょぼくね!? メチャクチャしょぼくねぇ!?


「他に、剣の才、光力限界突破、武器補正・剣などがありますが、この買い物上手のスキルが今のところ別格レベルで高いですね」


 確かにお得に商品買えるけども! おばちゃんも姉ちゃんも兄ちゃんもおじさんも何故か気味悪いくらい親切にしてくれるけども! おまけも貰ってるけどもよ!


「しょぼすぎだろそれは!」

「まぁ、うん。でも家計のやりくりは簡単になるかと。日本でもこんな感じだったのでありますか?」

「あー、うん。特売の情報は友達を通じて俺のところに来てたし、商店街で買い物することが多かったから結構おまけも……」

「生前からのスキルらしいですね、ということは」


 でももうちょっとかっちょいいスキルが欲しかったりするんだが。こう、魅了とか! イケメン御用達! みんな俺のしもべになるとかウハウハじゃん? そうしたら都合のいい身体だけの関係も増えそうじゃん? つまり俺がハッピー。


「見てくださーい! 見て見て見てぇ!」


 そんなけたたましい声をあげながら我らが女王……いや、元女王、ファーミが駆け寄ってきた。羊皮紙を手にこちらに駆け寄ってくる。あ、パンツが見えた。


「目つぶし!」

「ほぎゃああああああああ――――――――っ!? 目がぁ、目がぁぁぁぁ!」


 眉間にアスカちゃんのつま先が刺さるっていてえええええ!


「そんな古典的な叫びを……」

「他に例えようがないわ、この痛み……! いででで……!」

「ゆ、ユウヤ様! コラ、アスカちゃん! ユウヤ様に何をするのです!」

「女王様、彼はただのゲス野郎です。このくらいの扱いが相応かと」

「どうゲスなのです?」

「自己保身と女性を孕ませることしか考えていません」

「自分を大切にすることは良いことです! それに、子どもを作ることを考えてくれているってことは、酒場で訊いた『レス』って男女の営みがない状態にはならないということ! さすがです、惚れなおしましたユウヤ様! 国父に相応しく、そしてそのモチベーションも高いだなんて……!」

「せやろ?」


 この世界でレスとか聞きたくなかった俺がいる。まぁその辺はどうでもいいし、褒められているのでデカい面しておこう。


「お黙りなさい、ユウヤ君。女王様、お願いします、お考え直しを……」

「一度決めたことを翻すのはよくありませんし、なにより! わたくしはユウヤ様が好きなのです! この三日間でさらに愛が深まりました!」


 何故にドヤ顔? というか、この三日間で俺何やってたっけ……。買い物、スライム退治(俺が逃走、ついでに薬草集めをこなす)、んで歯を磨いて寝るくらいしか思い当たらないのだが。後風呂乱入(された側)とか。ファーミの胸は形もいいが何より大きいんだよなあ。白くて、すべすべしてそうで、柔らかそうで……。


「あの、そういえばなのですが、愛する人鎖で引きずられているのは良いのですか?」

「よくはありませんが、ユウヤ様が慣れていらっしゃるのでまぁ大丈夫かと」


 ホント、慣れって怖いね。


 目はとっくの昔に復活しており、ファーミの素敵アングルをさりげなく視界に収めつつ、俺は立ち上がった。


「で、ファーミ。どんな依頼みっけてきたの?」

「これです!」

「どれどれ……」


 ――『キングスライムを討伐せよ! 討伐したスライムの数だけ報酬が増加! 難易度:C』


「どうでしょう! スライムを倒すだけでお得な報酬が!」

「いや、女王様。キングとはいえスライム討伐だけでランクCなのは不穏ですぞ。なにか、他に強靭な魔物が潜んでいる可能性も……」


 ちなみに、クエストランクは危険度で決まる。


 この間のスライム退治はEランク。キングスライムは知らんけど、まぁ、アスカちゃんの口ぶりから察するにDから上は厳しいだろう。Cは確か、一般人には危険レベル。一般人がギリギリ受けられるのもD~Cくらいらしい。Bは名のある面子じゃなければ受けることができず、Aは超危険とのことだそうだ。


「でもアスカちゃん、この子持ってきちゃったんだよ……。認可のスタンプ押されてあるし」

「えへ」


 くっそ、あざといが可愛いから許す。


「まぁ、C程度であれば自分が対処しますが……女王様、その勝手に決めて頂くのは、辞めて頂きたく……」

「えー……? ダメなのですか、アスカちゃん……?」

「……ま、まぁ、今回は良しとしますが」

「ヘタレめ」

「君に言われたくないです、ユウヤ君」


 舌鋒を飛ばし合う俺達だが、ぽむ、と両手を合わせて、


「では、参りましょー! おー!」


 と、至極元気よく片手を挙げるファーミに対し。


「はいであります!」

「仕方ないわね」

「助けて……」


 三者三様の反応を見せ、俺はアスカちゃんとムーユエからしばかれるのだった。理不尽な。

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