第37話 side 毒島

37 side 毒島アキラ



 毒島アキラはソウルワールドの王都エンデヴァーで順調に出世をしていた。

 毒沼竜の洞窟を踏破したことで王宮付き冒険者として成り上がり、鉱山経営を任されるようになった。

 王都付近の鉱山で毒島は採掘指揮をとっている。

「おら、壊せ、おらぁ!」

 ごうんごうんと魔力砲撃や身体強化のスコップで掘削している。

 魔晶石を掘り当てられれば、莫大な金になるし、魔獣を討伐しても金になる。

 今や王宮付きの冒険者だ。

 エンデヴァー第3代国王デズモンドにも気に入られている。

(イバラが〈魅了催眠〉をしたんだろうがなぁ。悪い女だぜ)

 毒島はイバラのスキルを知っている。

 イバラが複数の男を従えていることも知っている。

 その上であの女を愛している。

 鉱山指揮をしていると部下が報告に来た。

「毒島さん。また過労申請が入りました。このままではまた過労死者がでます」

「ぁーん? 過労だってぇ? 事故ってことにしとけ」

「畏まりました」

 322件目の過労死だが、事故と言うことにしておいた。

 334期、335期生とソウルワールドには次々、転移者が供給される。

 命を物だと思えば、いくらでも使い捨てにできる。

(俺の人生は完璧だ。小学四年生から確変してた。トラック事故にさえ合わなきゃ現世でもブイブイやってたんだ)

 毒島が人を殺した感触を得たのは、小学四年生だった。

(あれは確か万引きの後だったな)

 ババアがやってる駄菓子屋で『万引きしようぜ』と提案したら『僕はやらない』と逆らった馬鹿がいた。

 おもしろくなかった。

 何いい子ぶってんの?

 おもしろくねえ馬鹿がいるから、おもしろくならない。

 小学四年の毒島はそいつを『雑魚認定』した。

 ひたすらに教室で雑魚と呼びまくる。

 仲間を連れて「こいつは雑魚だよ」とレッテルを貼りまくる。

 消しゴムを投げる。手紙を回す。

 あいつウザいよな、という同調者を増やす。 クラスの連中を〈動員〉する。

 重要なのは〈動員〉だ。

 動員は空気をつくる。

 空気ができれば、弱者は〈認定〉される。

 弱者認定されればしょうがないよね、となるので、殴ってもよいということになる。

 完璧なロジックだった。

『おい雑魚。カス。俺の靴を舐めろよ。お前の靴はトイレにしまっておきました!』

『下級生に妹いるんだってな?』

『マジでちんぽでかくなったから、ヤレそうなんだよ』

『先公は見て見ぬ振りだからな。俺が最強なの。わかる?』

 後はバレないことだ。

 毒島の幸運は、注意する大人が偶然いなかったことだった。

 学校で問題を起こしたくないという大人の心性を使用した。

 そして気の合う仲間がいた。

 毒島と同じ心を持つ人間。

 人を殴ると楽しいよね?

 という点で気があうチーム。

(俺のことを心がないっていう馬鹿は何人かいたがよぉ。弱者を蹂躙したいっていうのも心だろ?)

 注意する馬鹿も中にはいたが……。

「遊んでやってるだけっすよ」

 大抵のことはこれでくぐり抜けることができる。

 実際マジでそうだろ?

『万引きやらない君』は、脅しまくっていたら自殺した。

 地方でニュースになったが、毒島が首謀者であることが暴かれることはなかった。

 楽勝。

 毒島は勝利の感触に酔いしれた。

(俺は人を殺せる)

 裁かれずに、手を下さずに殺す方法を知っている。

 つうか俺が俺でいるだけで勝手に死んでくれてるだけじゃん?

 だから鉱山経営でも上手くやっている。

 過労死?

 だからなに?

 俺の養分になってくれてありがとう。

 世界は弱肉強食だよ?

 もっとも思ってることは言わないがな。

 だって本音を言ったら怒られるじゃん?

 隠れて生きてるみてーだ。

 だけどそれももう終わる。

 世界が闘争にあけくれれば、俺が良い子ちゃんぶる必要はない。

 好き放題できるぜ。

「あとお前やっとけ」

「はい」

 毒島は鉱山を出て王都へ向かう。様々な根回しが必要だからだ。


 

 王都に出ると、様々な取材を受ける。

「鉱山では多数の死者がでています。毒島さんの采配が疑問視されていますがいかがでしょうか」

「内心忸怩たる思いです。僕の力不足です。ですが鉱山の発掘が街の発展に必ず貢献できると考えています。命をかけて! 皆様の生活のために! 心骨砕いてがんばります」

 だから楽勝だって。

(俺は人を殺せる) 

 殺せないのは竜くらいだ。

(肺活量君だけは、やばかったな)

 たまにいるんだ。

 圧倒的個人戦力を持つ奴が。

 毒島も腕っ節は鍛えている。

 人心を掌握するためだ。

『万引きやらない君』のように、刃向かってくる馬鹿は必ずいる。

 ボコして排除し、周りを毒島の崇拝者のみで固めることが重要だ。

 名声形成。

 人間の本能。

 名声を傷つける奴は許せないから排除する。 そのための力だ。

 竜を殺すとか、そういう無謀のための力じゃない。

(だからこそ『肺活量君』は徹底的に追放する必要があった。あいつはやばい。竜を単独で殺すとか俺の地位がいくつあっても足りねーだろ)

 小学四年のときの『万引きやらない君』もそうだった。

 運動神経はよかった。だから、ああいう生意気を言えるんだ。

(善人ほどいい人攻撃をしてくる。女にもててたのもムカツク。女という資源を、『ただの良い奴』に奪われてたまるかってんだよ)

 だって良い奴は人を殺せないだろ?

(なんで人も殺せない奴が、『俺が獲得するはずだった数多の女』を振り向かせるんだ?

人を巧妙に殺せる俺様が最強だろ? だったらよぉ。鉱山開拓で資金を集めて、俺は王になる資格を得るぜ)

 毒島は王座を狙っていた。

 王デズモンドはすでにイバラが掌握している。

 王都の民の心を掌握し、握りつぶせば、毒島は王座に座る目がでてくる。

 目障りなのは王女ニルヴァーナだ。

 暗殺者を差し向けたが、しぶとく生きているらしい。

「つかよぉ。同じソウルワールドの転移者なんだろ? ただ期間が早いってだけで、王だの王女だのと舐めやがって」

 役割を演じているだけじゃねーか。

 だったらその役割、俺にくれよ。

「次は軍だな」

 毒島はデズモンドから軍を借り受けている。 鉱山利権だけでない。

 順調に1万の軍隊を手に入れていた。

「姫様を削る。クーデターに暗殺。市民の人心掌握。やれることはまだまだあるぜ」

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