第35話 襲撃
俺達は王都へ向かう馬車に乗り込むことになった。
ラビは派遣メイドとして。
俺は護衛執事としてである。
執事とメイドの格好だがラビは王都への潜入が本当の任務だ。
「レーゼさんは、大きな話を動かしているみたいだな」
「うん……。私の任務はメイドとして王宮をみることだけど。これは表の話。裏の部隊が私たちの知らない場所で動いているみたい」
俺達は迂闊に会話しているように見えるが、俺の呼吸能力で防音しているので、会話が周囲に漏れることはない。
呼吸能力は戦闘力はもとより、隠密にも使えるようだ。
「【大きな流れ】が動き出したみたいだよな。なら乗っかるしかねえよな。しっかしこの多数の馬車はなんなんだ?」
「ニルヴァーナ姫様が乗ってるみたいだよ」
ニルヴァーナ姫は王都エンデヴァーの現在の姫だ。最近はよく地方へ赴き、領主への会合を行っているらしい。
俺達の拠点のあるリスタルの街へもわざわざ出向いてくれていたようだった。
「それで護衛、ね。大変だな」
「王都は分裂しているみたいだよ。ニルヴァーナ姫の穏健派の勢力と、新たに出来た毒島派の勢力がぶつかり合っている」
俺は殺意が湧き上がってくるが、どうにか抑える。
「チャンスだってことだろ? 奈落を彷徨って待って待って……。舞い降りてきたんだ」
ラビは俯きがちになる。
「僕がお兄ちゃんを守るから」
「俺のセリフだろ?」
軽口をたたき合っていると、街での会合に来ていた王都の一団が戻ってくる。
わらわらと歩く一団の中心にはドレスをめかしたニルヴァーナ姫が歩く。
「さーて。張り切って護衛を」
執事姿の俺の前に、騎士団長が立ちはだかった。
「お前ら新参執事共は端っこの馬車だ! 出る幕はねーよ」
「そっすかぁ。わりゃりゃりやした~」
「貴様やる気はあるのかぁ?!」
「りゃりゃりゃーす!」
殴ってくる騎士だが、俺は余裕で回避。
「うぇーい。あ、姫が馬車に乗る! 仕事に戻ってくださいよ」
「クサマァ!」
滑舌の悪い騎士を尻目に俺はおちゃらける。「ひどいねえお兄ちゃん。でもすっきりした」
「俺らは末端で結構だ。任務はラビの潜入と偵察。俺は護衛だからな」
合計8台の馬車が王都へ向けて走り出す。
中心の馬車にはニルヴァーナ姫が乗る。
俺達は執事とメイドの詰め所として、最後尾の馬車に乗った。
「ここに失礼しても?」
顔をヴェールで隠した編み込んだ髪の貴婦人と、縦ロールの髪をしたお付きのメイドが俺達の隣に乗り込む。
「どうぞ、どうぞぉ」
「ありがとうございます」
俺、ラビ、貴婦人とお付きメイドの四人が最後尾の馬車に乗った。
走り出す王都への一団。
「いやぁ。揺れますねえ」
貴婦人もお付きのメイドも、服の上からでもわかるナイスバディだった。
「お兄ちゃん。目線をずらしなさい」
ラビの眼が怖いので俺は目を背けようとするも。
「目のやり場がねーよ」
呼吸操作してラビにしか聞こえてないので、雑な口調でも大丈夫だ。
「もぅ。私を見なさい」
俺はラビをみやる。
白髪のショートカット。ちょっと赤い頬。目尻の睫が深い。
可愛い。
ラビもまた、小さいのにメイド服の稜線は女の子らしくて……。
(目のやり場ねーな)
馬車という密室は、悶々としてしまう。
悶々としたり、うたた寝をしながら、二時間ほど経った頃だった。
俺は呼吸感知で異変を察する。
「お兄ちゃん!」
ラビも勘づいたようだ。
「逃げるぞ!」
俺は貴婦人を、ラビはお付きのメイドを連れ、馬車から飛び出した。
地面を転がり危機を予め回避。
危機察知は正確だったらしい。
眼前では、前方の馬車が遠隔魔法で爆撃されていた。
ひひひぃいんっ!
と、馬の悲鳴があがり、がらがらがらと馬車が倒れていく。
「そんな……。姫様が……」
ラビの目線の先にはニルヴァーナ姫の乗る馬車があった。
ドレスの姫は炎の中、倒れ伏している。「これは〈魔法砲撃〉だ」
爆炎は遠距離からの魔法砲撃だと理解。
俺は咽せる煙の中、経験値を獲得しつつ、索敵をする。
敵は〈爆撃の魔法使い〉だけではない。
煙の向こうからは、武器を持った襲撃者の集団が突っ込んできていた。
「うおぉおおおお」
「お命ぃ、貰い受けるぅ!」
ニルヴァーナ姫の命を狙っているのだろう。
斧、剣、槍、弓矢や銃器まである。
だが飛び道具の対策はできている。
「ラビ。貴婦人を守るぞ」
「〈
ラビには一緒に過ごす中で俺の能力を開示している。
俺の周囲には呼吸の膜ができていた。
無数の弓矢の雨が飛んでくる。
ラビはヴェールの貴婦人とメイドを庇いつつ、俺の背中に隠れる。
「ブレスフィールド」
弓矢の雨は俺達に直撃する寸前、ひうんひうんと逸れていった。
「こおおぉおおおおおおおっっ!」
すさまじい呼吸によって気流を操作。
攻撃を逸らしたのだ。
銃弾程度の威力までは逸らすことが出来る。「襲撃だああぁ!」
鎧の騎士団が蛮族に応戦する。
よーし。囮は任せたぜ。
俺は爆炎の匂いを辿り、爆撃の魔法使いを索敵する。
(いた)
アーツクラフトを起動。
「真空呼吸〈ボイドブレス〉】
俺は爆撃使いの射線を抉るように真空にする。
ソウルワールドでは魔法の存在により【銃、魔法、近接戦】での、相性の闘いが成立している。
魔法は結界で銃を防げる。
銃は遠距離から剣士を打ち抜ける。
剣士は結界内部で魔導師を斬れる。
三すくみの相性があるのだ。
爆撃使いまでは距離があり、襲撃者と騎士団が戦闘をしている。
前衛がぶつかり合う間に、爆撃使いが俺達に殲滅をしかけつもりだろう。
こちらも魔導師はいるが、すでに接近されている。
戦局は不利のようだったが……。
「ラビ。いけるか?」
「大丈夫。鍛えてきたんだ。いけるよ」
信じることも愛なのだろう。
「いくぜ。ボイドブレス!」
「うん……。ボイドナイフ!」
ラビはナイフを構え、投擲する!
真空状態にした空間を、ラビのナイフが飛んでいく!
音速で飛ぶナイフは、魔導師の結界に阻まれた。
魔導師の結界は銃をはじくことができる。
だがナイフの質量は銃弾よりも遙かに重い!
結界にはひびが入った。
『!』
息が乱れる魔導師。
俺は容赦はしない。
「もう一発!」
今度は俺がナイフを投擲。
〈真空の空間〉を通って、銃弾並みの速度で飛んでいく。
それは大口径のバズーカのような威力を宿していた。
ばぎぃいんと結界が破ける音と共に、爆撃使いの頭部が爆散した。
ラビの手は震えていた。
ラビに殺しはさせまいと俺自身が手を汚すことにしたのだが……。
「俺が怖いか?」
「怖く、ないよ。むしろ守ってくれたんだから」
「あんがとな」
「ううん。いつかは身につけないといけないと思う。覚悟をしないと。お兄ちゃんのためなら……」
「まだ、はえーよ」
頭をぽんぽんすると、ラビの震えが止まった。
「貴婦人の護衛を頼む。俺は片付けてくる」
俺は超身体能力にブレスバレット、ドラゴンブレスで戦闘に乱入!
近、中、遠と万能の力で、襲撃者を一掃した。
接近と同時にブレスバレット。ぶぶぶぶとサイレンサーの銃撃じみた音で、空気弾を乱射し牽制。
乱戦突入後は『あっっ』と声を出し、全体攻撃で周囲の人間の鼓膜を破壊。
手刀で襲撃者の心臓を貫いていく。
唖然する騎士団を横目に、10名ほどを手にかけた。
「片付きましたか」
賊を一掃したのちヴェールの貴婦人が、現れる。
騎士団長が跪いた。
「ご無事で何よりです!ニルヴァーナ皇女殿下ぁ!」
「なん、だと?」
俺の馬車に乗っていた貴婦人がヴェールを降ろす。
ヴェールを纏っていた貴婦人が、本物のニルヴァーナ皇女だったのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます