第34話 王都へ


「だーれだ」


 背中に立っていたのはラビだった。


「俺の呼吸感知をすり抜けてくるとはな」


「実はね。アサシンの人に鍛えて貰っていたんだ」


 ラビもまた着々と成長していたらしい。


「お兄ちゃんの役に立ちたいんだよ。えへへ。不意打ちだけど一本取ったね」


「甘いぜラビ」


 俺は〈ふき飛ばし〉のブレスを発する。


 椅子に座る俺の周囲に乱気流が発生!


 ごうぅうと音を立て、ラビは風に飛ばされる。


「きゃあぁああ!」


 壁にぶつかる寸前、俺は〈吸い込み〉を発動。吹き飛ぶラビを減速させ、壁の前にすとんと立たせる。


「もぉぉううう! あと一歩だったのに!」


「強くなってるようじゃないか」


 メイド喫茶では研修があるらしく、ラビはシーフとして強くなっていた。


 レーゼさんはにこにこと微笑んでいる。


 彼女の訓練の賜物でもあるのだろう。


「妹を鍛えてくれてありがとうございます」


「筋がいいからね。ご覧の通り一人前のシーフだ」


 ラビは俺の鳩のバッジを盗んでいた。

 なかなかやるぜ。


「そういうわけでラビに依頼を」


「駄目です」


「お兄ちゃん! わからずや! 嫌い!」


 嫌われてしまった。

 俺は途端に絶望的になる。


 ピカソのごとく顔が歪んでいった。

 ぐにゃぁぁあ……


「ラ、ラビ……。俺のこと、嫌い?」

「ご、ごめんお兄ちゃん。顔面が崩壊するとは思わなかったんだよ」


 ムニンが横で引いていた。


「ここまで顔面が崩壊する人間がいるの?」


 俺達の兄妹漫才をみつつ、レーゼさんは思案する。


「じゃあこうしよう。潜入任務はラビにやってもらう。護衛任務はアルトさんにやって貰おう」


「レーゼさん! 私は一人で……」


 ラビは何故か一人でやりたがったが、俺としては十分良い案だった。


「やります。俺がラビを守ります!」

「むううぅうう……」


 膨れるラビに、顔面をきりりと元に戻す俺。「任務は馬車の護衛だ。しっかし君たちは本当におもしろいね。ちなみに私たちのバッグにはすごい人がついている」


「誰ですか?」

「本人から直接伺うと良い」


 俺達のバッグについている人は見当もつかない。


 事態が動き出した、ということだろう。


 レーゼさんの紹介で俺達は大きな任務に向かうこととなる。

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