第28話 イバラちゃんハウス 信頼 vs 魅了
イバラは魔山と共に馬車に乗り込み、各街の訪問へ向かった。
「イバラちゃんハウスを各街に開設したの」
隣では魔山が青白い顔で、ふむと頷く。
「今のあなたは毒島夫人でしかありません。王宮の信仰を得る目的ですか?」
「イバラちゃんハウスは信仰だけが目的じゃ無いわ」
「考えがあるんですか」
「私は家族を繁栄させる」
魔山は『くはは』と哄笑する。
「利己的なあなたが家族? 冗談ですか」
イバラもにっこりと笑った。
「利己的な人間がすべて利己的に振る舞えば世界は安定するわ。弱い者は淘汰され、強者だけが生き残る。だから私は私と似た存在を、【家族】を造りたいの」
「その考えには矛盾があります。強者と弱者とは相対的なものでしょう」
「は?どゆこと?」
「現在の弱い者が淘汰されたとしても、結局は1から100まで比べれば、強弱は生まれてしまう。51から100までを切り捨てたとして、次の51から100が生まれるだけです。行き着く先は破滅です」
「説教? キッショ」
「弱い人間も特性に応じて保護をするべきと思いますがね。でなければ半分ずつ破滅するだけです」
「そーじゃないのよ」
イバラはいらついていた。
結局この魔山紫苑という男もまともな側だったか。
「私が教えてあげるわ。『弱い人間が死んでくれれば、いらない人間に配分する資源を、私たちのものにできる』でしょ? 簡単なことじゃない」
「もはやただの、略奪ですね」
「略奪上等。人に優しくとかクソだわ」
馬車は王都エンデヴァーから商人の街フラクトールへ向かう。
商人の街フラクトールに降り立つと『お帰りなさいませイバラ様!』と、下着姿の女性達が迎えてきた。
「こ、これは?!」
「〈イバラちゃんハウス〉は順調なようね」
イバラは馬車から降り、煌びやかな装飾の館をみる。
桃色の外装にネオンの光を放つ館が駅前に立ち並んでいた。
魔山は喉を震わせる。
「これがイバラちゃんハウス? 夜の店ではないですか」
「ええ。王宮直属の夜の店かつ賭博場よ。これで王宮の管轄となる財産を増やしているのよ。お堅い仕事ばかりしたってたかが知れてるわ」
「賭博に娼館が王宮の管轄などニルヴァーナ姫は許さないでしょう。彼女は私より以前からソウルワールドにいる。『一桁台』の転移者ですよ」
ニルヴァーナ姫とは、現在の王宮の実験を握る王女だ。
デズモンド王と双肩を成す『一桁台』の転移者でもある。
「戦うなら勝てばいい。勝って毒島さんを王にするわ。そうすればもっと好き放題できる」
「王位の簒奪は重罪です。イバラさん。あなたは何かが欠落している。何故そこまで野心を……」
「野心じゃないわ。私が求めるのは自由」
イバラは入院生活を思い出す。
もうあんな地獄はまっぴらだった。
しょぼい男との約束だって破ってやる。
好き放題、生きるんだ。
魔山の様子が変わった。
「あなたは私が思っていたより危険な人だったか」
「同じ穴のムジナじゃなくて?」
「私も様々な人間を追放してきましたが……。あなたほどではない」
「魔山さん。私に逆らうつもり?」
魔山は全身から魔力を放ち、イバラに向けた。
娼館の前でふたりは退治する。
人前であるにも関わらず魔力を開放したのは、ふたりの持つスキルが『概念干渉系』だからだ。
「逆らうなんて滅相もない。私はあなたを『信頼』しているから苦言を呈しているのですよ」
魔山のスキル『信頼』は、『信頼関係』を結んだ人間の意思を操作できる能力だ。
精神干渉に属する能力だが、あくまで相手との信頼関係がなければ発動しない。
(人を見る目がある人間には、私の『信頼』は通用しない。私の魔力は結局は〈嘘の信頼〉だ。私の嘘を見抜く相手には『精神干渉』は使えない)
以前会ったタキナとかいうドワーフギャルは人を見る目があった。
魔山の信頼が失墜する恐れがあったから、追放したのだが……。
(姫宮イバラに人を見る目があるとは思えない。精神干渉は通用するはずだ!)
少しでも魔山を『信頼』してくれれば、精神干渉が通用する。
嘘の信頼を見抜かれさえしなければ、彼女のコントロールが可能となる。
「イバラさん。こんなことはやめましょう。〈イバラちゃんハウス〉など、王宮の威信を穢すだけです」
「あなた。私の自由を奪いたいの?」
イバラは魔山の魔力を受け付けなかった。
「考え直してください。イバラさん」
「 や だ 」
「『信頼』が通じていない? くっ。それでもイバラちゃんハウスは看過できない。こうなれば力尽くで……」
「だーめ♡」
イバラは魔山の耳元で囁いた。
魔山はがくりと力を失い、腕をだらりとさげる。
「な、ぜ……?」
「もうあなたの心は私の領域にある。最後だから教えてあげる。私の能力はね。【魅了催眠】よ」
「【魅了催眠】だと? 私の【信頼】と同じ精神干渉系か……? レベルは同じくらいのはずだ。ならば相殺をするはず……」
「むりむり。すでに私を抱いたでしょ?」
「女だから、なんだっていうんだ! くっ……からだが?!」
「かーわいー♡」
イバラは優しく、魔山の頭を撫でる。
そしてとどめの言葉を告げた。
「そもそもあなたの魔力は私には効かないわよ。だって私は、端から誰も信用なんかしてないもん」
「は……?」
「私が信用するのは【力】だけ。人に気を遣わない私が、どうして信頼を遂行すると思ってるの?」
抱き合いながら魔力がぶつかり合う。
魔山の魔力のオーラはイバラに飲み込まれつつあった。
「君は、反吐がでる、悪女だ。断頭台にかけられ……」
「でも、この身体は好きでしょ?」
イバラは魔山の手を取る。そして豊かな胸にかけられた。
「……くっ! おっぱいに、負けるわけにはいかな……」
「はい。あなたはおしまい」
真山の手がイバラの胸に深く沈む。
柔らかな感触に敗北し、眼から光が失われていった。
「やっぱり、おっぱいには、勝てなかったよ……」
きれいなお椀型で、Hカップはあるだろう。
ギルドを統括する立場にある魔山であっても【魅了催眠】からは逃れられなかったのだ。
「イバラちゃん万歳といいなさい」
「イバラちゃん、ば、ん、ざ……くっ!」
「以外と粘るわねぇ。じゃあ思い出させてあげよっか」
「くぅ?!」
イバラは街中で魔山を抱きしめる。
そして囁いた。
「毒島さんに種付けされた後で、あなたは必死に私を求めたよね~。種付けを上書きする種付けをがんばってたねぇ。とぉっっても、良かったよ♡」
「くあぁぁああああ?!」
魔山紫苑の精神は完全に陥落した。
精神が干渉され、傀儡のように眼が虚ろになる。
――「……イバラちゃん、万歳っ!」――
「あはは。それでいーの!」
「イバラちゃん、万歳っ。イバラちゃん、万歳っ! イバラちゃんハウスも許しましょう! ギルド長に掛け合います。すべてはあなたのために」
「ありがとね魔山さん。あなたは店長第一号にしてあげる」
「光栄です」
魔山紫苑の『信頼』の能力は、イバラの魅力催眠に敗北し傀儡と成り果てたのだった。
――――――――――――――――――――――――――
ブリーチの愛染と同じく後からわかってやばいパターンです(^^)
こいつどうやって倒すんだ? 完全に考えてるのでたぶん大丈夫です(←考えてない)
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