第13話 ラビ

【兎の洞穴部屋】に戻った俺達はラビの看病を始めた。


 兎の洞穴は居住空間になっていて、水道やキッチン、ベッドなど一通りの設備があるのが幸いだった。


 俺はひとまずラビをベッドに寝せる。


「洞穴部屋があって良かったな」


「ソウルワールド挑戦者の年少者特権で、ごほ、ごほっ……。特別にこの施設の座標を教えて貰ったんだ」


「生きて来れたなら良かった」


「僕は力になれないけど。今だけは子供で良かったよ」


 ラビは自分が子供であることに負い目を持っているようだった。


「タキナ、看病のこととか色々教えてくれるか?」


「ったく。しょーがないね。といいつつ、すでに行動は完了しているよ」


 ドワーフギャルのタキナは、お湯を沸かしたりタオルを絞ったりしてくれた。


「はぁ、はぁ……」


 ラビは凄い熱だった。

 俺がおでこに触れると、うさぎの身体が光り出す。


「ま、魔法が。アバターが解けちゃう……」


 衰弱したことでうさぎの姿がプレイヤーの姿に戻っていく。


 うさぎの姿はラビ自身が選んだものだった。


 うさぎから現れたのはやはり……。


 現世の病院で一緒だった、白咲トワだった。


「やっぱり。トワだったんだな。どうして隠していたんだ?」


 うさぎのラビからトワに戻ったのが恥ずかしいのか、布団で顔を隠そうとする。


「ごめんね、お兄ちゃん。隠れていたのはせっかくのソウルワールドだから。邪魔をしたくなかったんだ」


「邪魔だなんて、そんなことは……」


「ううん。僕は身体が弱かったから。ソウルワールドでは歩けるようになったけど、車椅子のときの感覚がまだあってね。よく転ぶんだよ」


「気にしねーよ」


「……少しだけパーティに所属したこともあったけど。ついて行けなかった。『役立たずのうさぎ』って言われたよ。でもこの洞穴があれば生きていけるから。ごほっごほっ……」


「しゃべんなくていい。俺達がついてる。ってか君、大きくなってないか?」


 布団に寝せながら俺は、トワ(ラビ)が記憶の中の姿より成長していると気づく。


「こ、こ、これはねお兄ちゃん……」


 俺の疑問には、タキナが応えた。


「ソウルワールドでは魂が意思にひっぱられることもあるみたいよ。ラビは子供だったんでしょ。だから成長したのかもね」


「知ってるのか、タキナ」


「スキルやクラスに応じてアバターを望む人もいるんだよ。私だってそう。生前はヒョロガリバンギャだったからね。頑丈で物作りができる種族を望んだらドワーフが出てきたってわけ」


「タキナも色々あるんだな」


「もちろん本体をみせるつもりはないけどね」


「構わないよ」


 タキナの情報は、重要なものだった。

 トワがラビになって、うさぎの姿になったのもアバターの影響なのだろう。


「タキナは今の姿のままでいたいのか?」

「そりゃね。ヒョロガリだった自分よりは、ずっと好きだし?」


 タキナは胸を押し上げてみせる。

 タンクトップの上からでもわかる、魅力的なドワーフギャルの肉体だ。


「あんまり俺をからかうなよ?」


「あっはは。可愛い。もしかして年下?」


「元は高校生だよ」


「あたしは大学生。ま、君は強いから。気兼ねしないでいーよ」


 年上なので緊張するが、前より打ち解けた空気になったので、前進ということにしよう。


「ぅ、ぅぅん……」


 ラビがベッドで息を吐く。

 タキナが「汗かいたのかもねぇ」と立ち上がる。


「服、着替えよっか」

「お願い、します……。でも恥ずかしいから。どうかお兄ちゃんにだけは見せないで」


 タキナがラビに触れると、全てを理解した。


「……なぁるほど。アルトは、ちょっと洞穴から出てって」


「あん? なんでだよ」


「デリカシーなさすぎ」


 どういうことだ?

 首を傾げていると、タキナが訝しげに眉をひそめる。


「あんた。ラビとは知り合いじゃないの?」


「知り合いっていうか、病院では弟分だったんだ。車椅子を押して散歩したり。本名まで知ってる仲だからな」


「タキナさん。これには事情が……!」


 ラビがタキナに耳打ちする。

 ごにょごにょと話すふたり。


 タキナがなるほど、と合点がいった顔となる。


「アルト。やっぱ出てって」

「やっぱりかーい?!」


 俺は洞穴からでる。

 ラビが、なんとなく成長している風はあったが、追い出された理由はわからない。


(車椅子で病院を回って、虫とか取って喜んでたからな。弟分だと思っていた)


 髪も短かったし。

 僕っこだし。


(女の子とは薄々思っていたが。そんなはずはないはずだ。そんなはずは……)


 長く待たされたあと、タキナの呼ぶ声。


「いーよー」


 俺は洞穴の部屋に戻る。

 ベッドに座って居たのは……。


「お、おにいちゃ……」


 うさぎの姿ではない。


 顔を真赤に染めた白髪の美少女だった。


 着替えついでに、タキナが軽く髪を整えていたためか、余計に艶っぽい。


「やっぱこの子、逸材だよ」


 ショートカットに櫛をいれたことで、雰囲気がガーリッシュになっていた。


 また、成長をしたことで、女性らしい稜線がみてとれる。


 ブラウス姿でベッドに寝込んでいるだけなのに、あまりに眩しかった。


「トア?」

「今は、ラビって呼んで……」


 確かにトアだ。

 だけど今のトアは女の子にしかみえなくて……。


「女の子、だったのか?!」


「イバラお姉ちゃんのことがあったから。男の子ってことにしてた。ごめんね、嘘ついて。事情が……、あったのだけど」


「そんなことはどうでもいい」

 

 俺にはわからない。

 彼女が何故男の子のフリをしていたのか……。


 わからないことだらけだ。

 俺にわかることは、ラビのあどけなさ、可愛さだけだった。


 このとき俺達は……。

 もう一度、出会ったんだと思う。 



【白咲ラビ(トワ)ラビットシーフ レベル3】


HP 38

MP 80

TP 88

攻撃 10

防御 30

魔攻 70

魔防 70

素早さ 300

運命力 900

体格 3

移動 15


【バイタル】グリーン

【スキル】透明化

【アビリティ】シーフ、隠密。

【ギフト】深層配信(※)。住居確保(※)


※深層配信と住居確保は年齢が低い転生者に、保護のために付与される。



――――――――――――――――――――――――

本当のヒロイン来ました。いやバレバレでしたが。



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