第12話 ドワーフギャル
俺はドワーフギャルのタキナと共に毒沼竜の洞窟・奥地へと進む。
「息が、苦しいな」
「俺にはちょうどいいくらいだ」
巨大蝙蝠が迫るも、俺は手刀で打ち落とす。
「オラァ!」
『ギャン!』
蝙蝠からは素材が捕れた。
――【〈ブラックフェザー〉を獲得しました】――
「これは?」
「奈落の瘴気でできた〈奈落の素材〉なのかな……。私の眼ではレアアイテムとみた。ごほっ、ごほっ!」
「息はできるか? 引き返すか?」
「いや。まだ行く。〈奈落の素材〉を集めたいんだ。その前に……」
タキナは蝙蝠の死体の解剖を始める。
「何をしている?」
「解剖だ。私のスキルは【錬金】だけど。ギフトに【確定ドロップ】があるんだ」
タキナはメスやペンチなどの器具を、腰のツールポケットから取り出す。
「【確定ドロップ】はただの運じゃない。精密な解剖能力なんだ。私は【解剖】は失敗しないからね。だから確定ドロップ」
タキナは俊敏かつ精密な手さばきで、巨大蝙蝠をさらにさばいていく。
――【〈瘴気の心臓〉を獲得しました】――
「やっぱりだ。奈落ダンジョンのモンスターは瘴気の心臓を持っている。奈落に適応するために進化したんだよ」
「なるほどね。ところで息は大丈夫か?」
「さっきよりは楽になった」
「そりゃよかった」
タキナの息が通るようになったのは、俺が周囲の瘴気を吸い込んでいるからだ。
(能力を開示するつもりはないが。こいつが無茶をするようなら、無理矢理連れて帰れば良いだろう)
タキナは蝙蝠の心臓を、冷却保存箱に入れる。
冷却して保存するためのアイテムなのだろう。
「保存はオッケーだ」
「進もう」
俺はタキナから貰ったたいまつを掲げる。
ふたりで奈落洞窟を進んでいく。
「タキナはなんで、奈落にいるんだ?」
「始まりのパーティで私の鑑定能力を悪用されたんだ。役に立ちたくてペラペラとしゃべった私が馬鹿だったんだがな」
「今もしゃべっているがな」
「まあ、うん。これはしゃーないっしょ。しゃべんないとやってらんないもん」
タキナは脇が甘いようだ。
「鑑定能力と確定ドロップね。ちなみに俺は〈呼吸の能力〉だ」
「……そうやって信用を勝ち取って後で裏切るんだろう? 以前やられた手口だよ」
「追放仲間ってことでお互い疑心暗鬼みたいだな。まあいいさ。嘘かどうかは時間が経てばわかる」
「弁明しないのかよ。変なやつ」
タキナもパーティで辛い体験をしたのだろうか。
「君はどんな裏切られ方をしたんだ?」
「確定ドロップのために四六時中働かされてお金はナシだよ! あとは『鑑定能力なんてただ鑑定するだけだろ』っていちゃもんつけられて……ポイ、だ。いっとくけど今日の蝙蝠の素材は私のものだからな!」
俺はタキナを見つめる。
「なんだよ。やるのか? いくらあんたが強くても丸腰だろ」
タキナが剣の柄に手をかける。
「この周囲の〈奈落の瘴気〉を吸っていたのは俺の呼吸の力だ……」
「え?」
「俺がいるおかげでお前は生きていられる。信じるか?」
「確かに途中から楽になった。毒が吸われていたんだな。だけど脅すようならあたしだって……」
「脅すつもりはない。互いに役に立つことを開示し、境界線を引き合う。信じるとか信じないとかじゃない。ビジネスライクに行けばいい」
「あーもう。わかったよ。一応あんたは道連れだ。話半分で信じるよ。ったく……。あんたのペースに巻き込まれたら、たまったもんじゃない」
「ならば俺も、お前を信じる」
「ポイってしないか?」
「なんだ? ポイってのは……」
「ドワーフでもか? 褐色でもか? 世間じゃエルフだの亜人だのばっかりでドワーフは足が太いだの、ムキムキだのと酷い言われようだからな」
「褐色だからドワーフだからなんだっていうんだ?」
「あんた、ドワーフ好きなのか?」
「種族がどうとかは知らん。俺は好きになったやつを好きになる。だが……。ムチムチは正義だろ。腕が太いとかもおいしいだろ」
タキナは俺に背を向けた。
「えー。こいつ珍しくないか? 世の男子は細い女子が好みじゃないのかぁ?」
「聞こえてるぞ。ってか細い女子なんてのは、ローキックで足が折れそう、としか思わないからな」
「お、おもしろいな! お前!」
「肉は正義だ!」
タキナが銀髪を揺らし俺に向き直る。
『がっ』と握手を交わした。
俺は笑顔になる。
「いっとくけど。あんたとは趣味が合うってだけだからね」
「俺もそのつもりだ。ムチムチバンザイ」
「ああ。ムチムチバンザイだ」
俺は姫宮の事を思い出す。
姫宮も眩しいふとももやら何やらを脳裏に描く。
正直に言おう。
俺は彼女の眩しい姿が好きだった。
(あ、まずい……)
途端に精神ダメージが開いてきた。
信じていた。
病院での幼い日々には俺達の思い出や積み重ねがあったはずだ。
頭ではわかっている。
何故姫宮は、俺を裏切ったんだ?
俺はつい思い出してしまい、拳を握る。
「なあ。あんた、大丈夫か?」
「いや。君が追放されたと聞いて、俺も思い出したんだ。だが復讐はすると決めている。何も問題はないよ」
「なんか、ごめんな」
「むしろ感謝をしたいくらいだ。タキナと話したから俺は、自分を客観視できた。今までは憎しみだけが溢れて……。ううぅうう!」
俺は苦しさに胸を押さえる。
「大丈夫か? 背中さするか……」
「いや。金がない。素材を集めて少しでも足しにしたい」
そのとき洞窟の背後が騒がしくなる。
『きゃあぁぁああああ』
と悲鳴が聞こえた。
声に聞き覚えがある。
「ラビ?」
白咲ラビの声だ。
洞窟を戻ると白いウサギが、蝙蝠に突かれ血を吸われていた。
俺は手刀で蝙蝠を真っ二つにする。
蝙蝠の血溜まりの中、ラビは倒れていた。
「ラビ! どうしてここに?!」
白いウサギは怪我をして息も絶え絶えだった。
瘴気は俺が吸い込んでいたし傷も浅いが、吸血されて貧血のようだ。
「お兄ちゃんが、奈落に入って戻らなかったら嫌だから。【配信】を届けていたんだ。年少者には見守り機能が着いているから」
「しゃべらなくていい」
「僕は年少者だから。奈落のような【配信外】のダンジョンにも見守り機能がついてる。だからお兄ちゃんが危険になっても。救助隊を呼べるようにって。着いてきたんだよ」
「お前が危険なら、もっと駄目だろうが!」
「心配して、くれるんだぁ……」
うさぎの姿で息も絶え絶えになっている。
早く帰って回復しなければ。
俺はラビをお姫様抱っこする。
「今助ける! タキナ。手伝ってくれるか?」
「……ったく。乗りかかった船だ。荷物は私がもつ。行く当てはあるの?」
「リスタルの丘から少し離れた大樹の根本に、ラビの洞穴がある」
「手当の道具は私が持ってる。寝床があるなら十分だ」
「助かる」
俺達は毒沼竜の洞窟深層から抜けて、再び洞穴へと戻った。
毒沼竜の洞窟の向こう〈奈落〉エリアは、まだまだ未踏だったが、ラビのためにはひとまず引き返すしかない。
俺とタキナはラビが治るまで、看病に専念することにした。
――――――――――――――――――――――
ラビとイバラにも実は因縁があります
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます