第45話 毒島の一生


 戦争終結から。一週間後。

 毒島は断頭台にあがりながら、一生を思い出していた。

 毒島のパワハラで部下が自殺したのが、始まりだったと思う。

(心底気持ちいいって思ったんだよな)

 飲み会の席で自殺させたことを自慢すると、他人が畏怖の眼でみてくるようになった。

 効力感があり、気持ちよかった。

 それからだ。

 パワハラで自殺させることに快楽に覚えるようになったのは。

(逃げ切るはずだったんだ)

 現世では幾度となく訴えられた。

 法の眼をくぐり、弁護士を買収したり、様々な手を打った。

 世界には法がある。

 だが法とは、抜け穴をみつけてハックするものだ。

 だからソウルワールドは天国だった。

 法律がない世界。

 ここは仮想世界で殺し放題。犯し放題だ。

 だって闘いこそが人生だろ?

 いい人のふりをしてな。

 現世の法廷での、毒島は表だけは殊勝だった。

『誠に遺憾と感じております』

『誤解に感じる発言をし、自殺に至るきっかけの一部に関与した可能性があるように思われますが、亡くなった方のご冥福をお祈りします』

 素直に謝るのは嫌だからな。

 めっちゃ曖昧な感じで、自殺した奴が悪い感じに言っとこ。

 遺族にはキレられたが、まあいいだろう。

『冥福をお祈り』しとけば反省したって思われるからさ。

 すみません、でした。

 すみません、でしたぁ!

 もうしません(します!)

 だけど、毒島が繕うことに対して見抜いてくる奴もいる。

 追求してくる奴がいるんだ。

(肺活量君みたいな奴だったなぁ。まあそいつもヤクザをやとって家燃やしたけどな)

 敵は排除する。

 非は絶対に認めない。

 人のせいにしてやるぜ。

 そうして生きてきた。

 断頭台にあがった今も、あがいてやるぜ。

(さーて。なんか話して口八丁で逃げ切って……)

 断頭台の上で毒島は、民衆を見おろす。

 だが声がでない。

『あいつが戦争を引き起こした扇動者だ』

『部下を肉の壁にしたって噂だぜ』

 誤解だよ。

 俺がちょっと脅せばついてくる奴がゴロゴロいるだけだよ

 そう言いたいのに、声がでない。

「むぅ、むううぅう!」 

 舌が痺れる魔法か何かをかけられている

「ソウルワールドの法が整備されました。あなたの犯罪には名前が付きます」

 断頭台にあがる毒島の背後には、メイド服の眼鏡の女性が立っていた。

「むぅ、むぅううう!」

「あなたの罪は戦争扇動罪、不当使役罪……。これは部下を肉の壁にしたことですね。強姦罪、王権簒奪を企んだ罪、ですね」


「■■■■■■■■■■■■■!」

「■■■■■■■■■■■■■!」

「■■■■■■■■■■■■■!」


 断頭台の元からは、断罪の声が聞こえる。

「ああ。この刑ですか。あなたに断罪をわからせるための刑罰ですよ。中世的で野蛮ですが法は法です」

「むぅううう! むぅううう?!」

「何故舌が痺れているかって? そりゃそうですよ。動員能力で精神を掌握されたらたまったものじゃないですからね。ちなみにあなたの存在で被害に遭った人間の総額は120000です」

 12万人。

「12万人分の恨みを受け取る必要があります。これも中世的で野蛮ですね。ですが無法から法を、一から育てるというのは難しいのですよ。歴史上の刑罰を辿らないと、育ってくれないのです。」


「■■■■■■■■■■■■■!」

「■■■■■■■■■■■■■!」

「■■■■■■■■■■■■■!」


 毒島には罵倒の言葉が無限に浴びせられる。 12万人分の恨み。

 精神はもはや崩壊しかけていたのに。

「これがあと一週間続きます。安心してください。ご飯やお世話はされますよ」

「さ、さらし首、じゃねえかよ!」

「ええ。そうですよ。ああもう。痺れが溶けてきちゃいましたね」

「可愛そうだとは思わないのか?」

「十分、甘い汁を吸ったでしょう」

「弱肉強食、だろうがよぉ!」

「あなたは人の憎しみを買ったという点で、弱者の肉なのです」

「肺活量はどこだよぉ! あいつが、全部あいつが……」

「アルト様なら、ニルヴァーナ姫の王宮仕えとなりました」

「なん、だと……?」

「この命令を下したのも彼です。一週間悔い改める。安心してください。死体は丁重に弔います。死者になればどんなにドス黒魂も綺麗になりますからね」

 レーゼフェルンの背後からはメイドが現れ、舌を痺れさせる魔法をかけた。

「ごゆっくり、悔い改めてくださいね」

 一週間の地獄の中、12万人の罵倒を受け精神崩壊したのち毒島はその一生を終えた。



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