第44話 タキナ合流。~竜の肺と竜骨剣~


 俺は右手に竜骨剣を抱える。

 懐には〈竜の肺〉を篠場せる。

 竜骨剣は奈落竜の背骨を素材にした、乳白色の刀身で、巨大な鉈の形をしていた。

 柄には球体がはめ込まれている。

「魔晶石と骨髄液を融合させたんだよ。常に瘴気を供給できるようにしたからね。呼吸適応に合わせて瘴気経験値が入るようになった」

 毒島が斧を振るい、タキナに斬りかかる。

「しゃああ!」

 俺はタキナを守るように白い鉈でバトルアックスを受けた。

「折れそうな剣だなおい! 骨でできてるとか受けるぜ!」

 だが使っている俺だけはこの竜骨剣の凄さが伝わってくる。

 骨と鉄が日本刀のように編み込まれている。 さらに宝珠の骨髄液からは魔力が供給され瘴気を放っている。この瘴気が竜の骨の素材に染みこみ、剣そのものの再生を可能にしていたのだ。

「呼吸乱舞」

 俺は肺一杯に空気を吸い込み、身体能力を向上させる。

 毒島の背後には、動員された兵士が群がってくる。

『毒島さんのために』

『毒島さんのために』

『毒島さんのために』

「まだだ! まだ俺の動員能力は生きている! 俺を信じてついてくる人が居る!」

 俺の〈空気の掌握〉と毒島の〈動員能力〉は拮抗していた。

 半分は目覚めて手を出さずに見守っていた。タイマンを望む声があがっていたが、もう半分は毒島の〈動員〉に従っている。

 俺は竜骨剣を振るい、動員された兵士を縦横両断していく。 

 断末魔、迸る鮮血!

 吹き上がる臓物!

 関係ない。

 クソヤロウについたんだから死んで当然だ。「皆、(俺のために死んでくれて)ありがとうー 人の心のないこいつを、俺は皆の思いを受けて倒す!」

 毒島のバトルアックスが、竜骨剣に打ち付けられる。

 ぼっ、と剣の一部が砕けた。

「はんっ! 脆い剣だぜ……」

「砕けたようにみえたか?」

 骨から瘴気が吹き出す。

 瘴気が刃の表面で結晶化。コーティングが施され、黒光りする。

「固くなった、だと?」

「竜骨剣は、壊れれば壊れるほど成長するようだ」

 鉈めいた剣をバトルアックスに打ち付ける。 毒島は隙だらけだ。

 俺は脇腹、肩、腿を切りつけていく。

 いずれも致命傷に至る傷だ。

 どぼぉ! 毒島から鮮血が吹き上がる。

 勝敗は明らかだった。

 だが簡単には殺さない。

「はぁ、はぁ、はぁ、ナン、デ……? ナンデダヨ?! なんでお前がこうも強い?」

「お前のおかげだよ。修羅場をくぐることができたからな」

「俺、じゃない。俺じゃ無いんだ! 全部、あの女が……」

「周りを見てみろよ」

 毒島を囲むのは兵士の眼、眼、眼だ。

「動員能力、だっけか。動員による恐怖支配だっけ。俺は空気を掌握することで解除してやった。化けの皮が剥がれたな」

 毒島を圧倒したことで、兵士達の恐怖支配は終わっていた。

 すでに場を離れ、投稿するものもでてきている。

 デズモンド王の派か、ニルヴァーナ派かでわかれてはいたもののどちらにつくかの信条さえも、能力によって歪められていたとしたら……。

「悪かったよ。肺活量君」

 流血した毒島は、謝罪の体制に入る。

「俺は君のすべてを奪ったんだ」

「ああ。だからお前のすべても奪うよ」

「よーくわかるよ。痛みやつらさ……」

 俺はどくじまのおでこを切り裂く。

 流血しやすいので薄皮一枚だけだ。それでもどくどくと血が流れた。

「このとおりだよ。こんなに俺は、可愛そうだろう?」

 動員能力とは他人の心を引きつける力だ。

 さっきまでは恐怖によって兵士を率いていたが、今は同情によって心を傾けようとしている。

「こんなに俺は流血して……。もう十分だろ? いてえし。いてえしよぉ」

 なるほど。

 可愛そうぶっていると言うことだ。

 悪者になるのは俺一人ってわけだ。

「わかった。許そう」

 俺は背を向けて去ろうとする。

「かかったな。馬鹿め!」

 予想をしていたが毒島は、背を向けた俺のふいをつく。

 狙ったのは俺では無くタキナだ。

「きゃああ! こっちくる!」

「仲間を殺して、お前の心を折る! 精神的に揺らげば〈空気の掌握〉も緩むだろう!」

 毒島の考えは合理的だ。

 タキナをやられれば俺の精神は動揺する。

〈空気の掌握〉が緩めば、兵士らは再び毒島の指揮下に入るだろう。

 だが俺は、わざとふううちを引き出させたのだ。

「もう、決めているんだ」

 振り向きざまに竜骨剣をさらに振るい、毒島へ斬撃を浴びせる。

 みねうちであばらを折った。

「がっは!」

 殺さなかったのは、死を与えることが復讐にはならないからだ。

 ただ殺すだけではない。

 大勢の前で恥をかかせる。

 毒島は強さを見せつけ、イキリと恐怖で人を支配してきた。その心を折るためには、命を奪うだけでは足りない。

 弱さを知らしめる。

 心を徹底的に折るんだ。

「レーゼフェルンという人が、この世界に法を生み出そうとしている。お前は殺されるんじゃない。法によって裁かれるんだ」 

「この、人殺しめ」

「ここは戦場だろ? 合理的に考えろよ」

「空気読めてねーのはお前だろ。ソウルワールドは無法地帯なんだ。好き勝手に生きて良い場所なんだよ。現世はめんどくさかったからな。いちいち法をハックしないと、人殺しさえもみ消せねえ。ここなら自由にやれると思ったのに……」

「生憎だな。お前は空気を読んで生きてきたんだろうが、俺は呼吸使いだ」

「なん、だと?」

「流れは俺にあるってことなんだよ」

 俺の背後には、ゼルムの部隊がずらりと並んでいた。

 俺が毒島部隊300人を引きつけたことで、戦場を優位に進めていたのだ。

 毒島がやっていたことは一人の意思に従わせるだった。

 だが俺はゼルムらと共闘し戦場を駆けていた。負ける要素なんか始めからなかったんだよ。



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