第43話 概念干渉発現 動員 vs 呼吸



「いうことを聞かせる。俺の肉の壁にさせる! おねだりをすれば武器もくれる! 好き放題言っても誰も反抗してこねー。まあ内心で俺を嫌いと思ってるのはその面みてればわかるがな」

 毒島は兵士の一人の女性の喉を持ち上げる。 そしておもむろに頬を舐めた。

『や、やめてください』

「やめねーよ。俺の〈動員能力〉は俺より弱い奴を従わせることが出来る。世の真理だよ。戦闘力が強くたって、偉い奴には抗えねーだろ」

『う、うううう』

 兵士の女性は泣き出しても毒島は止めない。「俺の言うこと聞かないなら、殺しちゃうよ? はぁ。まーいーか。全部肺活量君のせいだからね。お前らよぉ! 全部肺活量君が悪い。復唱ぉ!」

 そのとき俺の中でレベルアップの影響が現れる。


――【呼吸能力上限値解放』

――【概念干渉】を獲得しました。


(なるほどね。ただこいつを殺すだけじゃつまらん)

 兵士達の声を思い出す。

『内心忸怩たる思いだったが』

『空気には抗えなかった』

「馬鹿な連中だ。だが馬鹿は十分ぶっ殺した」

 俺は〈概念干渉〉を解放する。

「概念干渉・呼吸領域・概念拡張」

 ぼうぅぅと俺からオーラが放たれる。

 オーラが兵士らを包み込む。

「なんだ、この光は……。まあいい。何かするまえにやっちゃって……」

 毒島がかけ声を送るも兵士達は動かない。

「何を、した……?」

 驚愕の毒島の前で、俺は微笑む。

「無双は簡単だったけどさ。お前が〈動員〉って言う概念で闘うなら。俺は空気を掌握することにしたんだ」

「お前も、概念干渉を?」

 兵士は俺を襲う手を止めている。 

「さて。はっきりさせようじゃないか。俺とお前のタイマンだ」

「ばぁか言ってんじゃねえ! 肉の壁を含めて俺の能力なんだよ!」

 そのとき毒島の部下が従順をやめる。

『毒島さん。駄目ですよ。本当にあんたが強いなら、タイマンしないと』

「あぁん? なんだぁ、お前らはぁ?!」

『タイマンしてくださいよ、毒島さん!』

 俺の武器は限界だ。

 剣一本で、100人近い人間を両断し、武器を破壊し、綻びかけている。

 部下がだった。

「お、俺は。タイマンは柄じゃねーんだよ。お前がやれよ」

『いっつも、人のせいっすよね』

「ああん?」

『仲間が死んでも。何も労いもしなかった』「弱えーのが悪いんだろうがよぉ!」

『死んだのは俺の、友達だった!』


「あーあーあー。そういう辛気くさいのいらねーんだわ」

『いら、ない?』

「だって死んだ奴みてもウケるしかねーじゃん? ここは戦場だよ? つか人生が戦場だよ? 死にました。それはそいつが弱かったからだろ? これ以上に言うことある?」

『あんたが肉の壁にしたんだろうがよ!』

「自己責任だろ。ってかなんで歯向かっちゃってんの」

『ううぅ!』

「俺には逆らえないだろ? ほら。こんなに震えちゃって。俺は王宮付き冒険者だよ? まあ会見では真面目ぶってますし。それらしいこといいますけどね」

『あたしの恋人は……』

「それが王宮のために必要?」

 毒島のレスバは絶え間なく続く。

「散りゆく命は美しいだろ」

『でも。彼が死んだのは、あなたが肉の壁にしたからで……』

「死んだ奴らは立派に散華したんだよ。クソ部下だなぁ」

『う、ぅうう……』

「俺の言うことがわかるから、俺に手を出してこないんだろ?」

 部下の女性は、震えている。

 毒島のレスバは続く。

「いやあ気持ちいいねえ。立派に死んでくれるって。ソウルワールドだから正直いっちゃうよ? 現実の戦争でもよぉ。戦争をしたがってる奴ってのはこんな気分だったんだろうな」

「俺のために人が死んでくれるってことの愉悦って、こんなに最高なんだよな」

『てめぇ、殺して!』

 毒島は部下に刃を振り下ろした。

「うーし。いつもどおり反逆者には死を与えてやった。お前らもこうなりたくなかったら、俺について……」

 だが部下を殺したことが起爆剤になった。部下達が毒島をずらりと囲む。

「おいおいおいおい。どういうことだ? みんなで謀反?」

 毒島がやっと俺を見やる。

「まさか肺活量君。なにか、したのか?」

「空気を掌握しただけだよ」

「はっ?」

 俺はここで能力を開示する。

「お前が動員した空気を、俺が掌握した。【お前に従う】という空気は相殺され、兵士が各々の倫理観で行動するようになった」

「そんな、馬鹿なことが……」

「まあお前がやっていた【動員能力】ってのはバッタみたいなもんだよ。群れで行動して赤くなる。バサークしているだけだ。俺はそれを元に戻した」

『毒島さん』

 部下の一人が声をかける。

『彼とタイマンをしてください』

「なんで俺が……」

『力がすべてなんでしょう?』

 毒島は【動員能力】によって支配していた部下によって、逆に動員されてしまう。

『前にでろよ』

『ふんぞりかえってないで戦ってくださいよ』

 俺は腕を組み、余裕の表情で毒島で出てくるのを待つ。

「晴れてタイマンだな。お得意の肉の壁にした不意打ちは使えない」

「勘違いしているようだが肺活量君。俺がタイマンをしなかったのはな。強すぎて止められないからだぜ。それにお前のそんな武器じゃあどうにもならねーだろうがよ!」

 毒島は巨大な戦斧を取り出す。

「俺の武器は、デスペラードバトルアックスだ。魔力の加護に障壁持ち。死亡再生の加護までついてる。王宮仕えにふさわしい武器だ。お前のようななまくらなんてかるーく」

 俺は折れた剣で、斬撃を放つ。

「御託はいいよ。やろうぜ」

 そのとき、俺の背後からタキナの声がした。「アルト!」

 タキナの声だ。

 ドワーフギャルが、馬車にのって俺のとなりに降り立つ。

「タキナ。どうしてこんなところに」

「あんたの武器ができた。届けに来たんだ」

「戦場まで、か?」

「あんたに死なれても商売あがったりだからね」

 タキナは布に巻かれた武器を俺に差し出す。 俺は布を剥ぎ、武器を取り出す。

「竜の肺と竜骨剣だよ」

 精神的に毒島を凌駕した。

 あとは破壊するだけだ。


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