第41話

41 竜には竜を



 俺は騎士隊長のゼルムから命を受け、特務遊撃隊長としてラビの救出の許可を貰った。

「ゼルムさん。本当にいいんですか? 俺はもうニルヴァーナ軍です。俺一人だけ、身内の救出に向かっても……」

「お前がシスコンなのは知っている。それに言葉と行動が合ってないぞ」

「はっ!」

 俺はゼルムに掴みかかっていた。

 ラビのことになると平静を失ってしまう。

「捕らわれた仲間を救うのも任務のうちだ。あんな小さい子だからといって、斬り捨てるようなことは俺達はしない」

 騎士隊長ゼルムとは始めはそりが合わなかったが、共にいるうちに『実はいい人の典型なのでは』と思うようになる。

「もっとも、この砦から王宮まで力尽くで攻め入らないとだめですけどね」

 王都の周囲は万を超える兵士が城門を守っている。数千ほどの兵士で、城門を突破しなければならない。

「ただの戦争ではない。転生者に魔術、スキルまでもが飛び交う〈異能力の戦争〉だ。ちなみに俺はレベル40のパラディンだ」

「団長でレベル40ってことは……」

「お前が頼みってことだよ」

 ぼんと肩を叩かれる。

「やるだけやりますかね」

「ふっ。暗い顔をしていると思ったが。本来のお前は、調子に乗るところがあるようだな」

「一発ギャグとか噛ませますよ」

「やってみろ」

「平等院鳳凰堂、平等院鳳凰堂……。尿道院! 放尿ど……」

「もういい! さっさと持ち場につけ!」

 といいつつゼルムはちょっと笑っていた。

「俺の勝ちっすね」

「早くいけよ!」

 俺は戦線に合流する。

 時間が過ぎ去っていく。

 ゼルムが号令を発する。

 戦線の波が走り出す。

『ごおおぉおおおうううううう!』

と砂塵を吹き上げ、軍団が肉の波となって駆け出す。

 足音が地鳴りとなる。

 人の波が押し寄せ、武器が舞い、砕けながら、ぶつかり合う。

「竜だ!」

 誰かが叫んだ。

 俺もまた叫ぶ。

「ならばこちらも竜だ!」

 俺の声はよくとおる。

「竜はどこだ?』

 敵軍の声が帰ってくる。

「俺が竜だよ!」

 跳躍し、空を飛ぶ翼竜と対峙。正面からドラゴンブレスを吹かしてやる。

『ギャオオォオオウウウウ!』

 翼竜程度、奈落竜と比べれば敵ではない。

 俺の発する業火のブレスで、翼竜は消し炭になった。

 流れにのって王都を進んでいく。



『ブレスダンス』

『阿吽の呼吸』

『』


『呼吸回復』



 俺は武器を選ばない。

 戦場はさらに俺をレベルアップさせた。

 呼吸回復によって、酸素を回復エネルギーに変えることが出来るようになる。 

 俺の前に、見慣れた兵士が立ちはだかる。 穏川さんだ。

「神裂アルト君。いまなら、引き返せる!」




 


 デズモンド派とニルヴァーナ派での内戦だ


「なあ。なんでデズモンドを支持するんだ?」


「わからない。わからないんだ、何も……。従うことが楽なんだ」




「誰もデズモンドを支持していない。民衆のためにならないことばかりをしてきた。それなのに。奴らは力を集めることには長けているから……」


「王宮の弾圧は続くんだ」


「じゃあ殺せばいいじゃないですか」

「そんなこと。そんなことできないから、困っているんだ!」


「正義も悪もわからない。大きなものに逆らえば殺される」


「逆らわなくたって緩やかに首を絞められて殺されるだろ?」


「追放者だからよくわかるよ」


「でもよぉ。おかしくなった王様とまともな姫様だったら、俺は姫様をとるぜ!」





「常識で考えるんだ!」


「クーデターを起こしたのはニルヴァーナ姫だ! 落ち着いて考えるんだ」

「それは違いますよ、穏川さん。ニルヴァーナ姫は風聞を流された。追放されたからわかるんですよ」

「ニルヴァーナ姫は悪魔の手先じゃないか!」

「ああ。そういうことになってるんすね。中世の魔女狩りと変わんねー。声の大きな人間の意見に流されてる」

「駄目なのは君の方だろう! 肺活量君!」

「その名前で呼ばないで貰えます?!」

 ぼっ、と穏川さんが流血する。

 俺は倒れる男を、足で踏んだ。

「どうして、僕は、こんなことになったんだろうな。ただ従っていただけ。長いものに巻かれていただけだ」

「あんたはついていく相手を間違えた」

「死にたくない。死にたくない」

「変なこというな、あんた。俺達はもう死んでるだろ? だったら気にすることなんか何もない」

 とどめをさす。

「あんたが間違えたのは、忖度だけで生きてたからだ」

「生きるのが下手な、君に言われるなんてね」

「俺だって反抗的なだけじゃないっすよ。面従腹背だってわきまえてる。それで駄目なら、キレるしかないだろ?」

 小悪党なので、即死させてやった。

 不意打ちで俺の背後に斧が飛んでくる。

 呼吸感知で回避する。

「よぅ。はいかつりょう、くぅん!」

 巨大な戦斧を担いだ。

 毒島アキラがいた。

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