毒のリンゴは蜜の味
七々扇茅江
〈 1 〉 孤独の白雪姫
私、
世間一般的に見て毒親と呼ばれる部類の人間に育てられ、当然そんな親に育てられた“普通”ではない私は社会に受け入れられることもなく残酷にも“仲間はずれ”にされて育ってきた。
寂しくはない、これが私にとっての“普通”だから。
(高校入ったらもう少し環境がマシになると思ったんだけど………なんか、ね……)
人がまばらになった放課後の教室で窓を見ながら一人黄昏れる時間が唯一の癒しだ。
周りからは私は厨二病の変人だと映るだろうけど今更だ。
教室の中はいつの間にか私含めて3人ほどになっていた。
「ねね、このリップマジ可愛くない?」
「かわ〜!でもお前みたいなブスが使うと半減だけどね」
「ひっどお!そういえばさ、これのCM出てた女優、白羽さんに似てたよね」
急に出てきた私の名前に思わず振り向く。
「あーね、なんか日本的美人ってカンジ?」
「あー……。なんか白羽さんって美人だけど名前がね………顔と合ってないっていうか」
「黒髪ロングだし………あとなんかキツそうじゃん?近寄りがたいっていうかね」
「ちょ!聞こえてるって!いま睨まれたよ」
(またなんか言われてる。まあいつものことだし気にしないけどさ………そんなビビるくらいなら最初から言わなければいいのに)
もちろん睨んだ覚えはない。
幼稚園生の頃からこう言われてきたから慣れたけど。
「あ、早く帰んないと!小田センと帰んなきゃいけなくなるよ」
「えーやだあ〜!帰ろかえろ!!」
最終下校時刻を告げるチャイムが鳴る。いつのまにか時計は午後6時を回り、外は暗くなっていた。
(私もそろそろ帰らないと)
私は鞄を取り、急ぎ足で教室を後にする。
門が閉まってしまうと、担任を呼んで一緒に門まで行かなければならなく、面倒くさそうだからだ。
(今日は夕食何にしよっかな……流石に連日カップ麺は健康に悪いし……肌も汚くなる)
そんなことを考えながら電車に乗る。
(彩菜さんも居ないしストレスの原因は減ったけど若干ニキビ増えちゃったからな……)
彩菜さんとは、私が小学校2年の時に継母として家にきた父親の浮気相手だ。
当時21歳でパパ活を通して、娘の私から見てもダンディなイケおじの父と出会い、実母が亡くなった半年後に家に来た。
美人でスタイルも良いが、性格がかなりキツめで継母として家に来てからは夫との関係の邪魔になる私を排除しようといびり倒していた。
多分、私が出ていった今は二人でご幸せに暮らしているのだろう。
私は電車を降りて、人通りの少ない道を歩きだす。
すると、後ろから声をかけられた。
「あの、すみません」
「はい?どうしました?」
振り向くと困った様子の若い男性が立っていた。
「実はこのアパートに帰りたいんですけど道に迷ってしまって……」
(“リジエールミリュー田中”って同じアパートじゃない!?)
見せられた地図を見て私は驚く。
「分かりました、ついてきてください」
「ありがとうございます、助かります。僕、地図って読むの苦手でして……」
「そうなんですか?私もあまり得意ではありません。あ、このアパートです」
彼がアパートに入るのを見届けてから少しした後、私も中へ入る。
(そういえば隣の部屋、前は山田さんが住んでたけどプレートが小林さんに変わってる)
ソファで休んでいると、インターホンが鳴った。
『あの、すみません。今日引っ越してきた小林です。挨拶に参りました』
ドアーを開けると、さっき道案内をした男性が居た。
私たちはお互いの姿を見て固まる。
「あ、えっと……こんに、こんばんは。白羽と申します。よろしくお願いします」
「はじめまして……?この度207号室に引っ越して参りました小林と申します。どうぞよろしくお願いします」
お互い少し気まずくなりながら挨拶を交わす。
「あの、これ良かったら食べて下さい」
「ありがとうございます」
「姉がお世話になっております」
「え?」
信じられない言葉に私は耳を疑う。
「
「そうでしたか……彩菜さんにはお世話になっておりました」
彩菜さんの名前を聞いて、浮かべていた他所行きの笑顔が引き攣るのを感じる。
そんな私を察したのか、小林さんは気まずそうに帰っていく。
一人きりの部屋で、私は作った野菜スープと市販のオートミールを食べながら物思いにふける。
(やっぱり彩菜さんの弟さんってことは……
私の考えすぎだといいけど……)
彩菜さんは所謂“悪女”だった。
気に入らない人にはとことん嫌がらせをして精神攻撃を仕掛けてくる。
小林さんがわざわざ私の部屋の隣に越してきた、ということはなにか彩菜さんが企んでいる可能性もあるのだ。
(なんか疲れたな………これから大丈夫だといいけど)
使い終えた食器を洗い、私はベッドにダイブする。
いつの間にかそのまま眠っていた。
毒のリンゴは蜜の味 七々扇茅江 @Dollyrose
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