主人公への電話
もしもし、あの。
相談に乗って頂きたくて、そのいいですか。
実は、仕事をしたくないんです。
悩んでいるんです。
今って、働かなくても生きていける方法なんていくらでもあるじゃないですか。なのに、競争して、勝つとか負けるとかに一喜一憂して。
何かに支配されている気がするんです。
社会人なんて最初こそ楽しいですよ。でも、最初だけじゃないですか。ある程度、ルートが決まり出したらできることなんて限られてくるし、与えられる役目だってほぼ確定だし。
消化試合みたいな感じですよ。
あぁ、いや別に、僕は出世コースから外されたわけじゃないんです。むしろ、かなり気に入られてて、たぶん、このままいけば同期の中で一番だと思います。給料もそこまで悪くないし、会社の中での評価も高いし、毎日楽しいです。
でも、自分の実力なのかなって、思っちゃうんです。
運が良かっただけなんじゃないかって。
そういうのを振り払うために、女の子と遊んだり、まぁ、そのとっかえひっかえみたいなことはしました。朝までお酒を飲んだりっていうのもよくやりましたよ。
まぁ、ほんの一時ですよね。そういうのは、どこかで安定して、妥協するのも悪くないみたいな思考に落ち着くもんなんですよ。
親が結構お金持ちなんで、もらったお金も沢山ありますし、貯金もかなりあります。
大丈夫なんですよ。
もう、社会から出ても、文句を言われることはないんです。
同期には、負けたとか言われるかもしれません。でも、実際負けてないですし、負けたこともありませんから。
僕が最初から一番で、最後まで一番だったのは事実です。そこに僕がいなくても、僕が一番であることは変わりません。だって、実力不足の人間ばかりですから。
同期の中で、早々にやめた人間がいましたけど、あれと同じではないんですよ。
僕は違うんです。
僕は目的をもって、ちゃんと計画を立てて、哲学とかをもって、思考を巡らした上での結論なんです。
彼とは違うんです。僕の決意は、そういうあれではないんです。もっと、意味のある過去からの蓄積とか経験値からなる結論なんです。
だから、この仕事がしたくないという悩みは、逃げるわけではなくて成長なんです。もっと先の未来を見据えて、今やっている行動の意味を見直して、正しい時間の使い方をしようという謙虚さなんです。
絶対に間違いのない正解の考え方ができているんです。
それに、ただ仕事をやめるという未来もあるんですけど、もう一つ、もっとすごい所で自分を磨きたい、挑戦したいっていう未来もあるんです。
そういう、夢もあるんです。
人間って、いつか死ぬわけじゃないですか。そして、それから逃れることはできないわけじゃないですか。ということは、どこかで一度立ち止まって、無駄なく生きているかをチェックして軌道修正するべきなんですよ。特に偉人は、自分が死ぬ年齢に目安をつけて、そこから逆算して、どうすれば満ち足りた生き方ができるかを計画したそうです。僕は偉人ではないけれど、そうやって思考方法を学んで自分に活かしたいと思っています。ずっと、同じ仕事で満足していて、成長することを逃している人間もいますが、そんな場所にいたくないんです。同じ括りにいたくないんです。仲間だと思われたくないんです。挑戦もせず、我慢もせず、すぐに諦めて逃げた奴らとは違います。僕は残って戦い続けた上で、自分の成長に疑問を持てるくらいに高い意識をもって毎日を過ごしているんです。昨日よりも、少しだけ成長できたかどうかを考えて、できていなかった時に、それを分析してこれからの未来の質を少しでも良くするために頭を巡らせているんです。なんとなく生きているんじゃなくて、自分の中に高い基準を設けて、それをクリアできるような一日を毎日イメージして過ごしているんです。そうやって、自信を身に着けていく限り、僕は自分に満足できます。その上で、その姿を人に見てもらいたいと思っています。客観的に見て、僕は凄く上手くいっています。大抵の人が失敗するところで、ちゃんと成果を出して、この場所に立てています。それはきっと、僕が臆病で、だけど人並み以上の勇気を持っているからだと思います。もちろん、才能も必要ですけど、その上で努力を怠らない。これがすべてですよ。僕は、これからも自分自身を疑い続けて、その度に新しいことを発見したり、退屈に負けないように前に進み続けます。だから、仕事を嫌いになったとかじゃないんです。前向き退社をしたいんです。もっとポジティブに考えてもいいんじゃないかって本気で思うんです。本質から目を背けて、時間だけ消費すれば良い社会人だと思っている人たちと違って、僕は先に目を覚ますことができました。成果がすべてだとは言いませんが、余りにもやる気論とか情熱論に身を傾け過ぎた人たちが多く、彼らは無能過ぎます。僕はそんな凝り固まった空気に、自分の考えをもって立ち向かっているんです。脳死で、なんでもかんでも従う人たちと違い、僕はちゃんと自分を持っています。僕は、僕が最初に持っていた情熱を失いたくないだけなんです。いつからか、僕はどこにでもいるような僕になってしまうのかなって、不安になるときもあります。迷うことだってあります。でも、僕は僕なんですよ。僕は僕から逃げることができないんです。僕を満足させるのは、女の子でも、後輩でも、上司でも、部下でもなんでもないんです。僕だけなんです。僕の成長が、僕を唯一満足させてくれるんです。だったら、僕は諦めないことだけを胸に秘めます。もがけるならもがきますし、たとえ、それが僕に苦難の道を歩かせることになっても僕は覚悟を決めます。僕にしか進めない道があるなら、僕はその道を真っすぐに進んで見せます。歩みを止めたくないんです。だって、僕は今、僕に凄く期待をしているからです。もっと、遠くに行ける。もっと、高みを見ることができる。もっと、沢山の人に出会える。もっと積み上げられるはずだって、僕を見ているもうひとりの僕がいるんです。ちょっと変わってるねって、人から言われることがあります。それで悩んだこともあります。どうすればいいんだろうって、人に相談してウザがられたりして、ほら、ちょっとできる感じが出ちゃうと、人って倦厭しちゃうじゃないですか。なんていうか、嫉妬されることって相談しにくいっていうか。その、まいっちゃいますよね。僕が僕であることをやめられないばっかりに周りを不快にさせちゃうんです。でも、僕は僕から離れられないし、僕にできることが増えていくのを止めるのは、ただ可能性にブレーキをかけているだけでもあるし。だから、今の僕に、本当に合った環境に身を置くべきかもしれないって、思ってるんです。自分のことを見つめなおして、自分が本当にやりたいことに正直になって、裸の魂で考えた結果でもあるんです。最初に言った通りで、仕事をもうしないっていう思いもあります。でも、ずっと話している通りで、新しいところで戦ってみたい、自分の願いにもっと正直に生きて、命を燃やしてみたいっていう気持ちもあるんです。何か赤く灯っている強い思いを感じてしまうんです。働くのをやめたいっていうのはつまり、こんな仕事が続くなら、このまま距離をとった方が幸せだっていうのと、もっと自分を近づけたくなるような仕事や、やりたいことにこの身を預けたいっていう思いの二つがあるってことです。僕は、どこか自尊心が低いのかもしれません。繊細で傷つきやすいのかもしれません。もしかしたら、他の人と違って、精神的な欠陥があるのかもしれません。だから、空気が読めなかったり皆を怒らせてしまうことがあって、謝っても謝っても何が間違っていたのか分からないから、また人間関係で失敗をしてしまうんでしょう。でも、この強い気持ちを失うことって、利益になんでしょうか。僕は損だと思うんです。僕は、僕の中にある、自分を試したいっていう純粋な願いに背を向けることはできません。やっぱり、僕は、この大きな社会の中で僕を探したいんです。仕事をやめるとか、働くってなんだろうとか、そんな小さなことで悩んでいるわけじゃないんです。確かに、言葉にはしましたけど、その本質は違うんです。今、目が覚めました。僕が悩んでいることはもっと大きなことなんです。僕は僕の人生に満足したいんです。途中で足を止めるような生き方をしたくないんです。今、この瞬間の気持ちを忘れたくないんです。僕を裏切りたくないんです。お願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます