小屋の外

 私は扉を開けて外を眺めていた。

 生い茂った葉によって太陽からの光は少なく、暗い。しかし、それがいい。森の香りが損なわれることなく充満している。鼻から息を吸い、口から出す。汚い人間の要素を追い出して、私の手垢がまだついていない自然が体の中に入ってくる。

 格別だ。

 ここに住んで、何度も経験し、何度も楽しんでいる。しかし、やめられない。

 もはや、薬物だ。

「あの、ここに住んでいる方ですか」

 二十メートルほど先に黒いスーツに身を包んだ女性が立っていた。肌は黒く、唇が厚い、白い淵の眼鏡をかけている。身長は百八十センチほどだろう。離れていても分かるほどに目つきが鋭く威圧的な空気をまとっていた。

 この森にはいらない存在だ。異物である。

 それは、私にとっても同じことだ。

「さきほど、ここの管理人と話していたのは君だな。内容はすべて聞こえていた。私に何か用があるんだろう」

「えぇ、話が早くて助かります」

 女性は足元を確認するようにこちらに向かって歩いてきた。足音一つとっても、非常に品がない。地面を掴んでいるというより、踏みつぶしているような角張った力の入れ方。この森を拒絶していることが動きに現れている。

 失礼だ。無礼極まりない。

 これ以上、歩かせるべきではない。

 私は外に出た。

 地面は優しい。私の足の形に合わせてくれる。やはり、この森を出て町に行く気など全く起きない。これが本来の人間のあるべき姿だろう。

「何故、家から出たのですか」

「君が近づこうとしていたから、私が出れば、歩く距離が少なくて済むと思っただけだ」

 咄嗟にそれらしい言い訳が思いついた。今日は頭の回転がそれなりに良いかもしれない。

「家に近づけたくないということですか」

 女性の目には、黒い穴のようなものが見えた。そこから吹き出してくる悪意によって、私は責められているような気分になる。もちろん、何もしていないので謝罪などするわけもないが、どうしても気になる。

 染みついている習慣のように思えた。

 私だけへの敵意という感じは受けない。

「家は汚いし、臭いと思う。人に見せられるようなものではない。特に、まだ信頼に値しない人間には難しい」

 女性は私の目を見ながら深く頷いた。嫌味というよりも、私の発言をしっかりと咀嚼しようとするような仕草だった。

 第一印象が悪すぎたのかもしれない。訂正するべき可能性も頭にちらつく。

「私としても、許可なく他人様の家に上がるというのは、礼儀知らずだと考えています。失礼に感じたのであれば謝ります」

「あぁ、失礼には感じた」

「申し訳ありません。では、家の外ですし、ここでお話を伺いたいのですが」

「何の用事でここに」

「事件の捜査のためです。ナキメソウを御存知ですか」

 私は心臓の鼓動が少しだけ早くなったのを自覚した。

 数時間前に、訪れていたあの男との会話を思い出す。

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