第11話 おごりは地酒

 洞窟に残してきた結界と参考人やら被害者やらを回収して、森の外まで網のまま連れて行くことになった。今日は大漁だ。

 意識を取り戻した用心棒が意地でもここから動かないと人間の姿にならなくて駄々をこねたが、結局山田さんに説得されて捕縛された。山田さんが離れてほしいと言うから離れたところから説得光景を見ていたけれど、たぶん脅迫だった。

 森を抜けると軍用のジープが待ちかまえていて、参考人と被害者をそれぞれ連れて行く。

 山田さんとルカの仕事はここまでだ。

 最後の参考人の用心棒がルカたちの前を通るとき、しかめっ面で溜息をついた。


「なんでこいつがこんなに怒ってるんだ?」


 こいつと用心棒が指したのは山田さんだ。わざわざ日本語で話したのは、山田さんにも聞かせたいようだったけれど、理由は分からない。


「君が悪いことしたからじゃないの」


 ルカが首を傾げると「たぶんそういうことじゃない」と呆れた様子で連行されていった。

 山田さんを見上げても彼も「さぁ?」と目を逸らした。答えを知ってても絶対に教えてくれない顔だ。

 ルカが諦めたところでフル装備の自衛隊の人たちとジープに乗り込んだ。

 確かにルカの能力を十二分に活かせる仕事だが、これはなんか違う。


(次の転職先探さないとなぁ)


 ジープの荷台から遠ざかる森を眺めて、ルカは溜息をついた。



 自衛隊のジープにホテルまで送られて、本日の業務は終了となった。ここで一泊して明日本部へ戻って報告だ。

 温泉と海鮮が有名な観光地だが、ただの出張なのでビジネスホテルの素泊まり。夕食はせめて外食しようということになって、居酒屋に山田さんと駆け込んだ。観光地はどこも閉店が早いのだ。

 刺身の盛り合わせと地酒がテーブルに並べられて、ようやく一息つく。


「お疲れさまでした」


 日本酒がなみなみと注がれた升から徳利を引き出して、山田さんがルカのお猪口に注いでしまう。


「ありがとうございます。お疲れさまでした」


 ルカも山田さんのお猪口に注ぐ。なんとなく杯を掲げて、「いただきます」と口をつける。

 まろやかな口当たりなのに、アルコールが胃に重たく響いてくる。一杯目は必ずといっていいほど息を漏らしてしまう。


「いける口ですね。大西さん」


 そう言う山田さんも、もう手酌で二杯目を注いでいる。

 山田さんはルカの正体を知っているはずなのに、どこまでも普通に接してくる。こういうところも、転職に踏み切れないところなのかもしれない。ドラゴンであることを隠して人間社会で生きるのは、思いのほかストレスになっていたのだろうか。

 ルカも二杯目を手酌で注ぐ。


「あ、そうだ。山田さん。今日こそわたしが支払いを持ちますからね。前のフレンチも結局おごってもらったし」


 くだんのワンプレートランチも結局山田さんがいつの間にか支払っていたのだ。おごられてばかりでは居心地が悪い。

 けれど、山田さんは素知らぬ顔で刺身を食べている。


「年下の僕におごられるのは嫌ですか」


 たしかに山田さんはルカより遙かに年下だが、そういうことじゃない。


 地酒と海鮮でおなかをいっぱいにして居酒屋をあとにしたけれど、結局今日も山田さんが支払いを済ませていた。ドラゴンに施しをするのが趣味なんだろうか。


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