四話 グッドナイト 3

「そりゃあの二人が悪いわな」「だよー」「でござるな……」


 先輩ズに相談に乗ってもらったが、やっぱり俺の判断は正しかったらしい。人に話すことでもないと思うのだが、目代先輩があれからのことをしつこく聞くので話すしかなかったのだ。


「でも、二人と付き合っても良かったんじゃないの? ハーレムは男子の夢でござるからな」

「いや、そんな異文化は知らんですよ……」

「そうだぞ、川蝉センパイ。よくそこで鵯を叩いた、お前は度胸ある奴だぜ」

「えー、どんな理由であれ女の子に手を上げるのってびみょー」

「はあ? 泰斗のことを信じずに舐め腐り過ぎだろって思うだろーがよ! ハッキリ言ってあたしは泰斗側の人間だから言わせてもらうけど、ホントあいつらは泰斗を馬鹿にし過ぎだぜ!」

「それはそーかもだけどさー」

「ま、何にせよお疲れでござる。ただ、ピリピリするのはやめてほしいでござるなー。食事がまずくなるでござる」

「しませんて。普通に会話もしますが、付き合いもない状態に戻る感じですよ。それでも、俺はキレてますけどね。冷静に燃えてます」

「ステイステイ。落ち着くでござるよ。目代ちゃんのFカップを揉むといいでござる」

「いや、別に泰斗なら揉むくらい構わんけど……」


 マジで!? と思ったが、自重した。揉みたい気持ちがムラムラと湧いて出たけど。


「何その男らしさ。愛ちゃん意外と凄いね」

「お前らも揉ませてやれ」

「揉ませるほどないよ! 悲しいけど!」

「自分も揉ませるほど立派ではないでござるからなあ……」

「はぁ。もういい、泰斗。揉め」

「いや、遠慮しときま――」

「いーから揉め!」


 そういい、目代先輩は強引に俺の手を自分の胸に当てた。なにこれ、逆セクハラ!? ていうか柔らかっ!? 小春のと比べて弾力と大きさが桁違いだ、すげえ……!


「落ち着いたか?」

「脳みそぶっ飛びそうっす……」

「よし、落ち着いたな。言えばしてやるから、溜まったら言え」

「むしろ余計溜まりそうっすよ……」

「あれ? ああ、そっか。すまんすまん、射精してなかったな」

「うわー、愛ちゃんあけっぴろげ過ぎだよ。いくら経験あるからって」

「いやねーけど……。今度勉強しとくわ」

「せんでいいです……」


 目代先輩、色々すげえ……。


 瑠璃ちゃん先輩は自分のあまりない胸を揉んで難しい顔をしていた。川蝉先輩は俺が淹れたカフェオレを飲んでいたのだが、そういえば、と話題を出してくる。


「そういや、羽斗君はフリーになったんだね」

「え? ああ、そっすね、一応」

「これは触れて回らねば」

「どこにっすか」

「隠れファンがいるかも」

「いるんすか!?」

「男子の」

「いやキショすぎるでしょ……なんでそいつらがワンチャンあると思えるのかも謎過ぎるっす……」

「男と男か。まぁ、なんか近いものを感じるよな、うちらと」

「え? 目代先輩も腐女子なんすか?」


 言うと軽くボディーブローされた。自然だったでしょ今の流れは。


「なわけあるかスカタン。あたしらのチームが、なんか、その、百合百合しいというか、まぁ、そういう雰囲気だからな。何となく同性が良いって奴らの意見も分からんでもないってことさ」

「ん? そいつらに俺が目代先輩の胸を揉んだって言ったら、俺殺されません?」

「九割方が撲殺を狙うだろうな」

「ええええ!?」


 なんてこった、俺生命の危機!? マジで!? 俺が望んだわけでもないのに!? いやある意味望んだんだけどこんな結末で死ぬのは嫌だ! 情けなさ過ぎる! え、女の子の先輩の胸を揉んで女の子に撲殺されんの!? ださ! 死ぬほどだっせえ死因!


「だいじょーぶだよ、泰斗くん。守ってあげるよ」


 瑠璃ちゃん先輩……!


「愛ちゃんが」

「って瑠璃ちゃん先輩じゃないんかい!」

「だって私戦闘スペックフナムシと同レベルだよ? 不可能だよー、ヤンキーと戦うなんて」


 ふ、フナムシよりは強いと思うんだけど、どうなんだろう。実際競ったところを見てないのでホントに何とも言えないんだけども。というかフナムシと並べ立てるのがおこがましいほど、ビジュアルでは圧勝している。フナムシやグソクムシが性癖な猛者だったら分からないが、それ以外だと圧倒的に瑠璃ちゃん先輩だろう。


「どうしたの、そんなに真剣に。何考えてたの?」

「フナムシと瑠璃ちゃん先輩の事考えてた」

「いや、私が話題に出したとはいえ並べないで欲しいな」


 ビミョーな視線を浴びながら、考えをやめて、コーヒーを少し飲む。うん、落ち着いた……ということにしておく。


「落ち着きました。先輩方、あざっす」

「まーまー、時間をかけて向き合って行けばいいでござるよ。女の子は、あの二人だけじゃないでござるからな」

「そーだよ! 私もいるし!」

「あたしもいるからどーんと頼れ!」

「……あざす!」


 くよくよ悩んだってしょうがねえ。俺は俺のできることをやり続ける。


 家事して、バイトして、んで遊んで、勉強して! 日々をしっかり過ごすぞ!


 おやすみ、今までの女性関係に悩む俺。


 明日からは、また――元の俺に戻って、気合入れて頑張るぞ!


 意気込んで、俺は残りのぬるくなったコーヒーを一気に呷るのだった。



 ……こんな結果になってしまったが、本当に出会えてよかったとは思う。


 桜子と小春。


 俺の人生観にここまで食い込んできた女の子は、多分いない。


 ただ、桜子の行った純粋無垢で、真っ白な詐欺は――俺の内側に、食い込んでしまっている。


 白く染まった髪が、元の艶やかな黒に、戻る日が来るのだろうか。


 それを見届けるのが、俺であろうと誰であろうと……時間が癒してくれる。


 今の俺の、ささくれだった心が、時間の経過によって宥められていくように。


 きっと、時間が解決してくれるだろう。


 そう希望的観測を行うことしか、今の俺には、出来そうにもなかった。


 ――これは、自分が断ち切った絆に、他ならないからだ。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

ここで一幕、ホワイトスウィンドル編は終わりを迎えます。

第二幕も順次公開しますので、何卒よろしくお願い致します


鼈甲飴雨

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