三話 ソルティテイスト 2

 男の外出に特に要るものもそう多くはなく。


 軽装の着替えとタオルと水着、歯磨きセットで荷造りは終わる。


 その分、ドリンクなどが入ったクーラーボックスは用意しておいた。


 男子連中は現地集合で日帰りなので、俺は川蝉先輩の運転する車の助手席に選ばれていた。


「いやー、海楽しみでござるなー!」

「まぁ、水着は楽しみっすよ」

「でっしょー? 色んな水着があるのももちろん、ここで男性、女性のリアルな体つきや骨格なんかも写真に収めて二次の創作で活用よん」

「そういや男同士が好きとか言ってたっすけど、女性の資料も要るんすか?」

「いやー、カップリングとして好きなのは男同士なんだけど、女の子もいけるっちゃいける」

「そうなんすね。意外と雑食」

「おや、引かないリアクションは初めて出会った」

「まぁ、色んな人いるでしょ。好みは、みんな違ってみんないい」

「そうでござるな! 雑食だと色んなシチュがいけてお得でござるよ」


 まぁ、便利そうな性癖ではあるが、あまり節操がないのもどうなんだろうと思わなくもない。いいや、川蝉先輩だし。美人がゲヘゲヘしていても美人だ。


 先生は車を用意してくれていた。親のワゴン車らしい。鶺鴒先生は後部座席で寝ている様子だった。川蝉先輩は十八になり、免許を取ったらしく、若葉マークが貼ってある。それにしては妙にこなれているな。要領がいいのかな。


 地方は車とか移動手段がないと何もできないからなー。俺も原付はとったが、二種免許が欲しい。十八になったら車も取りたいし、貯金貯金。


「お、見えてきたね!」


 小春が、「おお!」というリアクションをしていた。全員がそちらを見ているので、俺もそちらに視線を配る。


「……おお」


 海岸線が見えており、既に海水浴客でにぎわっている。


 海か……ホント、何年ぶりだろうなあ……。





「ありがとう、羽斗」「讃えよう、羽斗」「サンキューな、羽斗!」


 男子寮の先輩がそろい踏みしていた。笹見もいる。レスリング部、肉体は柔軟な鋼のブーメランパンツ、南芳也。この間バイトに付き合ってもらった。俺の肩をバシバシ叩いてから、女性陣の荷物移動に付き合っている。

 三年の寮長、ラガーマンでガタイがいい北海要先輩は何故かスパッツタイプの水着を着用して泳ぐ気満々。俺の体を見て、うむと頷いていた。


「前までは上半身だけだったが、下半身も急激に締まってきたな、良い感じだぜ!」

「おっす、最近鍛えてるっすから!」

「それはいい! 健全な魂は、健全な体にこそ宿るからなァ! よっしゃ、筋トレしようぜ羽斗!」

「後で海岸を走るトレーニング位なら付き合うっすよ」

「お、んじゃ今から行くか!?」

「いや、今からは……ついたばっかですし、遊びましょうよ。女子も交えて」

「じょ、女子と何話していいか分かんない……好きな男のタイプは!?」

「聞いて自分と違ってたら思ったよりダメージ喰らいそうなのやめて、もっと普通の話題にしましょうっす」

「うーむ、任せた!」

「俺もボキャある方じゃないんっすけど……」


 困って見渡すと、笹見津久志はなにやら雷に打たれた衝撃を受けているようだが……


「どした、笹見」

「あの先生、そしてあの先輩……インハイギリギリだがストライク……!」

「鶺鴒先生と瑠璃ちゃん先輩か? まぁ……可愛いは可愛いよな」


 限りなく子供っぽいが、そこがいい、という人もいそうな。というかあれくらい整っていれば属性のない俺ですら可愛いとは思う。


「しかし、オレははわわ系おっとりロリが好みなので、まぁ、声はかけないがな」

「素直に会話する度胸ないって言えばいいぞ」

「はい、ないです……」

「分かればよろしい」

「なあ、羽斗」


 金髪ロングの髪の毛の東野雄二先輩が目代先輩を見てひそっと話してくる。


「お前、あの超ヤンキーどうやって連れてきた……ここにいるようなキャラじゃねーだろ」

「え、可愛くないっすか?」

「いやまあ、可愛いっちゃ可愛いんだけど……まいいや。可愛いし。ちなみに笹見、インハイはどれくらいの高さだ?」

「えーっと、胸元からちょい上っすかねー」

「ほーん。俺ならホームランだな」


 東野先輩は相変わらずだなあ。野球馬鹿だ。意外にも学校での成績が良いらしい。本人曰く、見た目で判断してほしくないらしいが、じゃあなぜその見た目にこだわっているのかが分からん。ちなみにホームランとか言っているが、本人は勝つためならどんな小技だって使う器用な人だ。二番打者。


 西宮先輩は友好のある川蝉先輩と一緒にだべっているようだ。


「いやー、まさか海水浴を一緒とはねぇ。にしても男子連中はむさいなー、そこがいい!」

「写真はほどほどにな、川蝉」

「すんません、西宮先輩。受験なのに……」

「息抜きは大事だ。そも、高校三年間の範囲なぞ一ヶ月あれば復習できる。後は過去問を解きまくって、場になれることが肝要だ。それには気力の充実が不可欠。そう、目の前に広がるパライソを前に、オレの渇きは癒される一方だ……ありがとう、羽斗。誘ってくれて」

「いや、まぁ、先輩が良いなら良いんすけど……」

「すでに眼福だからな。男子しかいないメンツで海とか悲壮感半端ないぞ」

「経験したような口ぶりっすね」

「…………」

「あ、ハイ。何も聞かないっす」


 それぞれに思いがあるようだったが、何も言うまい。


 女性陣は更衣室に行くということで、俺達男子は荷物の見張りだ。


「よっす」

「お、早いっすね、目代先輩。水着、似合ってるっすよ」

「おう、サンキュ。日焼け止め持ってっか? 貸してくんね?」

「どぞ」

「サンキュー」


 目代先輩の白い肌に、ローションタイプの日焼け止めが塗りこまれていく。飾り気のない黒のビキニが、なんだか先輩らしい。それにそのスタイルを最大限に盛り立てているので、なんとも、これ以上ないチョイスというか。


「とーう!」

「うおっ!? 瑠璃ちゃん先輩、水着で飛びつかんでください」


 いつもより柔らかい肌が感じられて思わずドキドキしてしまった。


「あははっ、いーじゃーん。どうどう? 似合ってる?」

「よく見たいから降ろすっすよ……おー、水色のワンピかわいっすね」


 フリルのついた、水色のワンピースタイプ。細い手足だったが、太ももにはそれなりに肉がついており、幼いのに少し色気もあったりした。意外なパンチ力。


「でっしょー。白と迷ったけど、水色にしちゃった!」

「似合ってます。かわいっす」


 笹見は、とみれば、グッジョブと親指を立てた拳のまま、顔面をもう片方の手で覆っていた。ストライクだったらしい、この反応。


「どうも」

「おう、椋鳥……ってレモン色か。スゲー色の水着だな。着こなすお前も凄いけど」

「いえ、レモン色ではなくカレーカラーです」

「え!? お前の本質ってやっぱそっちなのか!?」


 椋鳥は微笑んで、腕を組んだ。それなりに大きなふくらみが揺れる。レモンカラーの水着はワンピースタイプで、流行そうというか、凝ったデザインだった。


「冗談です」

「ていうか椋鳥は色白で大人しいんだけど元気な色が似合うな、不思議と」

「どうでしょう。ですが、ありがとうございます」

「よっす、泰斗!」


 小春は桜色の水着だった。ホルターネックビキニタイプ。可愛いが、元気な印象だ。眩しい笑顔も相まって、最高に「夏」らしさを感じるというか。相変わらず清涼感すげえ。


「似合ってるぞ、小春。一番可愛い」

「せやろ。ふっふーん、どう? 惚れ直した?」

「惚れ直した」

「こほん」


 桜子もやってきていた。白と黒のゴシックな水着だったが、さすがは桜子、着こなしている。その上に薄手のシャツを着ていたが、逆に目立つぞ。


「桜子も似合ってんな。バッチリハマってんじゃん」

「は、はい! 頑張りました!」


 男性陣はとみれば、あまりの破壊力に語彙が喪失しているらしく、えぐえぐと泣きだすやつまで出始めている。まぁ、こいつら引くほど美少女だからな……。


「よーし、では行くでござるよ!」


 緑色のビキニとシンプルに決めた川蝉先輩がビーチボールを手に走る。追う小春。俺は男子の面子を二人誘ってボール遊びをすることに。西宮先輩は荷物番をすると言ってくれて、どうやら海辺ですら官能小説を読んでいるようだった。ブレねえなあ。


 鶺鴒先生も同じくパラソルの下で缶ビールを、海の家で買ったフランクフルトを肴に飲んでいる様子。まぁ、塩っ辛い空気に、ビールって合いそうだもんなぁ。大人になったら試してみたい。


 男女交えて、皆思ったよりも楽しそうに海を満喫していった。

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