第三話『事態急変』 破
二〇二六年四月二十八日月曜日、日本国の国会議員会館で一人の中年女性が資料を見ていた。
「
コーヒーカップを片手に、
上質な椅子に踏ん反り返り脚を組む姿勢には、
「米国の運命は、
秘書の
彼女はコーヒーに口を付けると、持論を展開する。
「少なくとも、都合の良い政府に立たせるでしょう。今後、米国を
「米国が大人しく言う事を聞くでしょうか?」
「無いわね。そりゃあ、降伏と占領はショックが大きいでしょう。でもおそらく、
「
「あのー……」
「前から
「あら、教えていなかったかしら?」
「世界最強よ」
「な、何の冗談ですか?」
「大真面目よ。
「ここからが政治手腕の見せ所、というわけですか」
若干引き気味に苦笑いを浮かべる
「鍵となるのはあの
「自分も言ったんですがね。彼女は充分
そこには若かりし日の彼女と、夫と
「精々強がっていなさい、
その特異な夢が、日本国と
⦿⦿⦿
高校卒業後、二年程は
しかし、現役合格した
ただ、人の縁とは奇妙なもので、大学に入って再び縁の出来た古い友人も居る。
二〇二六年六月一日月曜日は宵の口、二十一歳になっていた
「
線の細い、神経質そうな見た目の青年で、実際に暴飲暴食するタイプではないが、
「
「あいつ、無愛想だが大丈夫なのか?」
「午後には二次選考の案内が来たってよ。成績は良いし、受け答えもちゃんとしてるからな」
彼自身、来年度の卒業と就職に向けて準備を進めてはいるのだが、それ故に余計彼女に先んじられていると意識してしまうのだ。
「なんか
「就活状況教えてもらっておいて言う
「いや、余計な詮索するなって
酒が入っているせいで気が弱くなっているのかも知れない。
「小学校の頃からずっと一緒だったけど、
「教わってどうするのだ。いくら
お互いもう子供ではないのだから、いい加減けじめを付けるべきなのだ。
『関係をはっきりさせるのは早い方が良いと思うな』
今更離れたくないと言ってももう遅いのかも知れない。
「もう一層、今から
もういい加減にうじうじ悩むのは
だが、それは決して出来ない。
「いや、実は
「は?」
「
一応擁護しておくと、態度が癇に触るというのは他の迷惑客に対してで、誰彼構わず
だが、それで自分から
「で、
「うわ、マジなのか。毒舌なのは知っているが、それは正直幻滅なのだよ」
「ま、後でゼミ仲間から
『このヘタレが。
そう耳元で囁き、誘惑するように密着させてきた身体の感触を、
「あ、そうだ。良い就職先があるのだよ」
「
呼び出し案よりも余程冗談染みた提案だが、
突拍子の無いような発言も、本人は本気だったりする。
「それは……絶対に無いな」
そんな
「
また始まった――今度は
「
「
しかし、
理由は、勉強よりも別な事に熱を上げてしまっていたからだった。
彼は「妙な所で」「必要以上に」真面目なのだ。
「
「勉学そっちのけで女に
振り返れば最初、
『左翼共は、目と鼻の先に大嫌いな大日本帝国そのものが顕れたというのに、まだ国の足を引っ張るような
結論は過激だが、不満と批判は
弁護士の夢はどうしたのかと心配になってしまうし、先程のように注意はしている。
このまま思想の底無し沼に
⦿⦿⦿
〈面接どうだった?〉
〈もう二次選考の案内が来たわ〉
〈やったじゃん〉
〈ちなみに、どこ受けたの?〉
〈聞いてどうするの?〉
〈航には関係無いでしょう〉
〈教える気は無いから〉
〈余計な詮索しないで〉
〈ごめん〉
メッセージの
「もう……潮時なのか? これ以上は……ストーカーか……?」
自覚しているなら
しかし
『このヘタレが』
一度だけ、酔った勢いで絡んできた
息が掛かる程近くで感じた彼女の
『
何度も何度も盗み見た、
実際、血液が身体の
だがまだ、
ただ女体の妄想が浮かぶだけならば、
『ま、返り討ちにしてやるけれどね』
瞬間、
高校二年の秋、喫茶店でテロリストを軽い平手打ちで
高校一年の秋、武装したテロリストの身体を片腕で軽々持ち上げ、地面に落として気絶させた
そして、出会った小学一年のあの日、自分の事を容赦無くボコボコに
共に過ごし、成長する中で、何度か思い知った一つの現実。
自分は
では勉学や芸術的才能はどうかというと、これも駄目だ。
最初から植え付けられ、歳月と共に強まった、拭いようの無い敗北感と劣等感。
被虐
(
端整な顔立ちをした青年が、均整の取れた肉体の衝動を鎮めるようとしている。
半開きになった
欲望の決壊を迎えた後は、毎度死にたくなる程気分が落ち込んでしまうからだ。
⦿
「シャワー浴びよ……」
夜に目が覚めた
まだ週明けだというのに、悪い酒になってしまった。
「潮風に当たりたい気分だな……」
外へ出ると、限りなく満月に近い月に雲が掛かっていた。
「バイクは……
運転手は最初、宅飲みで帰れなくなったと思っていたようだが、どうでも良い事情に
どうやら青春を感じたらしく、若さを
タクシーが海浜公園へと向かって走る。
夜の
それは
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