幕間一『君が見た色彩』
二〇二二年元旦、とある駅の改札。
「二人とも、明けましておめでとう」
「おめでとう」
「
「じゃ、行こうか」
「ええ」
「
三人は目的地の神社へと向かった。
人通りは多少あるものの、どことなく街が白息の中で冬眠している――そんな、正月独特の光景を歩いて行く。
「寒いね……」
そんな彼に、
「いつもすまないねえ……」
「風邪でも引かれたら面倒だから」
「助かる……」
懐炉を受け取った
「
「
「心頭滅却すれば火もまた涼し、よ」
そんな二人の様子を、
「
「ああ、昔からそうだね」
「この間、下校中に転んじゃったときもすぐに
「ああ、去年最後の雪の日、だったわね」
そんなことを話していると、神社が見えてきた。
「
くるりと回ってみせる
歳の割にシックで大人びたコートが印象的だが、新調したように
「
「本来参拝はそうあるべきだと思うけれど、
ただ、今年は初めて
「そんな、これから色々な所へ出掛ければ別に良いのに……」
「……そうね」
白息を添えられた
鳥居を
参道はなるべく脇を歩き、
「はい、
「
「どこかの誰かさんが忘れていたことがあったからね。寒さに弱い癖に」
「小学生の頃だろ」
「そう言いつつ、毎年
次に左手に持ち替え、右手を洗う。
今度はまた右手に持ち替え、左手に水を
もう一度左手を洗い、両手で静かに柄杓を立てて柄の部分を水で流し、柄杓を元の位置へ戻す。
「へー、そういう作法なんだ……」
「毎度毎度御苦労なことだね」
「でも、
作法に自信が無いから参考にしている、という意味が強いが、純粋に参拝する
「別に強制はしないけれどね。あ、
「いや、洗って返すよ」
「変な事に使われたくないから今すぐ返して」
手水を終えた
「……何?」
「いや、何でもないです。そうだよね、他の物が
二人の
三人は参道の脇を通り、神前へと向かう。
すでに参拝客で列が出来ていた。
「今のうちに
「五円が良いんだっけ?」
「語呂合わせには特に意味は無いし、逆に細かい貨幣は今年から入金に手数料が掛かるようになるから、
二〇二二年から銀行への大量硬貨の預け入れに手数料が掛かるようになっており、場合によっては預け金よりも高額となる。
「じゃあ
「
「ふふ……」
百円を取り出す
「相変わらず思い切るなあ……」
「封筒? もしかして、お札が入ってるの?」
「裏面に氏名と住所を書いておけば、毎日の
列の順番が巡ってきた。
拝礼は二拝二拍手一拝といって、深く頭を下げる事二回、拍手を打ち鳴らす事二回、両手を合わせて祈った後、改めて頭を下げる事一回、という手順を取る。
拍手の際は胸の高さで両手を合わせ、右手を少し手前に引き、肩幅程度に両手を開いて二回打つ。
「今度、東京神社庁の参拝作法の
「う、うん……。ま、まあ正しく参拝して神様に願い事を聞いてもらえたら
「
「うん。
「そ、じゃあ
彼には
ただ、これからも
毎年これだけ参拝方法に拘って、何か大事な願い事があるのだろうか。
「さ、何処かでお昼ご飯でも食べて帰りましょうか」
「
「
「お店といってもファストフードくらいしか無いだろうけどな」
こうして、三人は神社を後にした。
⦿⦿⦿
店に入り、席に
四人席を利用しているが、テーブルの半分を占拠してハンバーガーが山を作っている。
「
「こいつ、あんぱんだと一個で満足するけど本来は
「言っているでしょう、あんぱんは完全食だって。それに比肩するにはこれくらい必要なのよ」
食べ方こそ上品だが、勢いが
「うーん、これは一寸恥ずかしいかも……」
「珍しいね、
「あ、別にそういうのじゃないけど」
「良いんだよ、別に。
「そうよ。最低限の礼節を
「じゃ、心配しなくて良いか。
「
三人の関係に慣れてきた
食事を終えた三人が店を出ると、
そんな様子を見て、
三人の服に小さな雪が砂糖の様に被り、淡い透明となって消えていく。
「今年最初の雪の日、ね……」
白く染め行く街の中、三人は帰路に就いた。
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