第二話『閑話の談笑』 序
それは存在そのものが
得体の知れない
日本国そのものの面積が十倍になると、インドを抜き世界七位になる。
もっと言えば、沖縄諸島を含む日本は元々南北の距離がそのインドとそう変わらない。
そんな規模の国土が三倍の縮尺となって太平洋上に浮かぶとなると、どれだけの領域を占拠し、どれほどの存在感で影響を及ぼすことになるか、その甚大さは論を
少なくとも、早々にして世界中の経済に深刻な信用不安が起こり、株価は軒並み暴落。
企業倒産が相次ぎ、大量の失業者が世界中で問題となっていた。
しかし、
破壊された校舎の復旧が済むまで近場の会議室を借りて授業が行われる
ともあれ、二年に進級する頃には高校生活も元の姿を取り戻し始めていた。
⦿⦿⦿
二〇二一年十月一日金曜日――
「
「あげなくて良いわよ、
持参の弁当を褒められて照れくさそうにしているのは、新しいクラスになって二人と仲良くなった女子生徒・
丸い垂れ目に大きな眼鏡を掛けた、ボブカットが印象的な、小柄で控えめな少女だ。
その黒髪の
テラスに差す日の光を浴びて天使の輪が
「ありがとう、
弁当を泥水塗れにされたり、おかずで机や椅子を汚されたり、趣味で描いている鉛筆のイラストを破って
学校占拠事件の影響で外部の会議室を教室として借りるようになってからは、備品汚損の
その状況は進級後も続いたが、いじめっ子達が
ノートに描かれた漫画に赤ペンを入れた上で、一
これは
学校占拠事件での立ち回りから、
そんな彼らが
そういう経緯があって、今、
何の気兼ねも無く弁当を食べられるのは、彼女にとって学校生活が平穏になったことの象徴だった。
「
「勿論、あんぱんよ」
「毎日それでよく飽きないな……」
「ふ。あんぱんは最もシンプルで美しい和洋折衷の芸術品。文明開化の折に、かの明治大帝も
顔を輝かせ、ご満悦といった様子でゆっくりと味わって食べる
「そういえば、
「何?
「ええ。
春までいじめを受けて孤立していた
「
「漫画の王子様と呼んでくれ」
「漫画ばっかり読んでて
取り留めも無い会話を交わす高校生活の一
そこには確かに三人の青春があった。
⦿
放課後、校門の前を通る
「そういえば、なんか引っ掛かってんだよな……」
世界を一変させる大事件によって
テロリストが目的としていた「
その後、この世界に顕現・
だがそれらの謎はややこしく絡まり過ぎて、
それ以降の生活は平穏なものだったし、新しい交友関係が増えたのもあって、違和感は記憶の片隅で
「
そんな新しい友が
「あ、
「今日は
「ま、先に帰っちゃったからね」
「良かったら、一緒に帰らない? 途中まで道同じだよね」
「そうだね。この機会にゆっくり漫画の話でもするか」
しかし、仮に不満があったとしても下校の機会を逸したのは彼女の方なのだから、文句を言われる筋合いなど無い――
こうして、
「そういえばさ、
「何?」
「
唐突に繰り出された一撃に、
「
「だって、なんか距離感がもうそういう感じだし」
中々に無遠慮な質問と指摘だが、
彼女が他人の恋愛事情に興味を持っていたことに
「昔からの仲だってだけだよ」
「でも、少なくとも
更なる追撃に
人畜無害な顔をしてデリケートな所に悪意無く触ってくる
「サッキカラ
取り繕おうとしても、図星を突かれた衝撃で片言になっていては世話無い。
「
「いや、あのね……。あ、ほら! そんなことよりあれの話しようよ! あの異世界転生ものの金字塔の第二期やるじゃん」
「そりゃ
「
不意に秋の風が二人の間を吹き抜け、涼しさが季節の移ろいを感じさせた。
秋の深まりが早いのは、例の巨大なもう一つの日本列島が
大通りに植えられた
⦿⦿⦿
駅で
「ん?」
見知った顔と見知らぬ顔が二人で喫茶店に入って行ったのだ。
「え? は?
見間違いなどではなく、
(誰だよそいつ! 学校早退して何やってんだお前!)
『みんな二人の関係が進展するのを手を拱いて待ってくれるわけじゃないからね』
そして二人に見付からないよう、
「
端正な顔をした男が真剣な面持ちで語りだした。
男は見たところ二十代半ばで、スタイルの良い長身をスーツに包んでいる。
童顔の
「
(そうだそうだ、言ってやれ
だが、この
「決まっているだろう。一年前に顕れた脅威『
喫茶店の中でこの三人の居る空間だけ奇妙な緊張感に包み込まれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます