第一話『轟臨』 急
廊下では各教室を占拠していたテロリスト達が我先にと逃げ出していた。
味方の裏切り、中心メンバーの全滅という事態に命が惜しくなったのだろう。
野蛮な獣の如き連中である、危機には敏感なのかも知れない。
「やるしかないよな、そりゃ……」
敵の残したパワードスーツに望みを託した
勢いに任せて装着したは良いものの、肝心な事を見落としていたのだ。
「
そう、所詮は初めて見た借り物の装備である。
ド素人の
「参ったな、指一本動かせない」
状況は最悪であった。
全く使い方が分からないという事は、脱ぎ方も分からないという事だ。
頼みの綱と見たパワードスーツも、これでは渡りに船どころか
そんな
「うわっ!」
「ビビった。まさかマシンガンで撃たれる経験するなんてな」
胸を
どうやら直接攻撃を選択したようで、大鎌のような刃物を備えた腕を振るう。
だが頑強な装甲はまたしても
今度はドリルで
「か、硬いなこれ。このまま自滅してくれないかな、頼むから……」
淡い期待を抱いた
「やべッ!!
幸い
「うわぁッ!!」
崩れた壁から地面へ落ちそうになった
危機一髪という状況に、宙ぶらりんの足下から
「畜生、ふざけんなよ、この期待外れのポンコツが」
「ぶっ壊れてから動いてんじゃねえよ」
右腕は力強く
「ふぅ、マジで死ぬかと思った……」
教室へ復帰した
ロボットは背中を向けて廊下へ出て行こうとしている。
他の教室からテロリストが逃げ出す気配は感じたが、確証は持てない。
もし生徒達が自由の身になったとしても、おそらく避難は済んでいまい。
つまり、ロボットを行かせれば確実に犠牲者が出る。
腕の鎌が一本
それはスーツの部品に接続され、またケーブル同士が絡まって
瞬間、
そして勢い良く振り被ると、釣り糸を遠くの水面に投じる様にケーブルのロープをロボットへ投げ掛けた。
ケーブルがロボットに巻き付き、動きを阻害する。
電線はパワードスーツの高出力に耐えるべく太く柔らかい素材と構造になっており、曲がり
尤も、ロボットには馬力と刃物が備わっており、長くは拘束出来まい。
だが、
ロボットの重さとパワードスーツの馬力が合わさり、
その軌道上には、先程天井に突き刺さったロボットの大鎌がある。
「うおおおおおッッ!!」
大鎌を引き抜いた
そして衝突際、パワードスーツの右手で力一杯ロボットに刃を突き立てた。
刃はロボットの肩口から深々と内部を
「止まれ! 止まれ!!」
ロボットの
また、パワードスーツの右手も
(もう……限界か?)
そう
右手の部品が高熱を帯び、
「ぐうぅっ……!」
ロボットはバチバチと火花放電を繰り返しながら、少しずつギクシャクと動いている。
嫌な予感を覚えた
「ガアアアアアアッッ!!」
ロボットは校庭を飛び越えた宙空で爆発四散し、平和な街に似つかわしくない色の
「はぁ……はぁ……。やった……なんとか……」
心からの
⦿⦿⦿
火傷した右手を充分に冷やした
スマートフォンを確認すると、
校庭の生徒や教師達は、
「おい
体育教師が
「大変だったな。お前の事、少し誤解していたようだ」
「いえ……」
どうでも良い、と言った方が正確かも知れない。
(こいつら、結局何が目的だったんだ?
ただの頭のおかしな過激派右翼団体としては、奇妙な事が多かった。
特に、リーダーと
三階への跳躍、
(
いくら初対面で
もしもの時は体を張って彼女を守らなければ――
が、そんな折に、校舎の入口、
何事かと振り向くと、見覚えのある二人のテロリストが一人の女生徒を人質に取っていた。
「餓鬼ども、叫んでないでそこを開けろ! この小娘がどうなっても知らんぞ!」
「警察の厄介になるのは御免なんでな! 一緒に逃げさせてもらう!」
その光景に、
(そうだ! あの二人今まで寝てたんだ! それで逃げ遅れた! なんで来たんだよ、
一刻も、一瞬でも早く、
一方で、当の
「
テロリストが
「ま、マジ……?」
歳月を経て男と女に近付き、相応のものとなったかに思われた力関係は、実は全く逆転などしていなかったのだ。
「伸びてる……」
テロリストの一人が再度気を失っていると確認した
そんな
「ヒッ……ま、まさか
男は情けない悲鳴を上げながら逃げようとして転倒する醜態を
丁度、盾を持った警察が踏み込んで来た
「
「まあ、なんとかね」
「腕、どうしたの?」
「
彼女の視線は校庭に転がる死体の方へ向いた。
警察が現場保全の措置を行っている。
「仲間割れでもした様ね」
「
校舎にも警察が入り、もう一つの現場も検証が始まるだろう。
その様に、
非現実的な程にどこまでも青く澄み渡った日本晴れの空――それはまるで、何か
まるでそこから降り注ぐものを遮る存在、その一切を排除してしまっているかの様だった。
「やはり、『
突然、
「な、なんだよいきなり!」
「ごめんなさい、このままじっとしてて!」
その時、突然の揺れが辺り一面を襲った。
地震というより、世界そのものが何かに
破壊された校舎から
校舎へ近づいていた
揺れは約二分間続いて納まったが、
先程彼女の見せた
「来る……!!」
その強調された身体の実りの向こうに、
それは太陽の影となって
世界に論を拡げても、実に多くの者が一度は目にした事があろう形をしていた。
だが後に明らかになるその全容は、既存のものより遥かに大きかった。
地上からは裏返って見えたそれは、巨大な存在感を陽光と共に
そして本来の日本列島の南東へ
世界史上空前の意味不明な状況であったが、異常現象は更に続く。
あまりにも都合良く雲一つ無い空に、軍服の様な装いの女がバストアップで映し出された。
二十代後半に見えるが、倍の年齢を
女は口を開き、
「
一気に
それはフェードインするように鳴り始めた軍艦行進曲が終わるまで大空を占拠し続けた。
「何なんだよ……まるで意味が分からない……」
一日にあまりにも異常な経験を重ねた
一方で、
「ついに
「あの、そろそろ
「あら、ごめんなさ……ん?」
何かに気が付いた
「……何これ?」
「その……
「変態」
「お願い、見ないで……」
「なら早く小さくしなさい。十秒以内。じゅーう、きゅーう、はーち、なーな……」
「ま、待って!」
「六、五、四」
「速い速い速い!!」
「あら、やれば出来るじゃない」
「小さくなってないよ!」
「三二一」
「このドS!!」
その日、世界は変わり果てた。
時を超え、歴史の流れを超え、世界は日輪を名に冠した脅威の大帝国と再び
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