第一話『轟臨』 破
騒ぎの起きている学校から少し離れた病院の一室で、ベッドに寝そべる老人と傍らの椅子に腰掛けた少女が面会していた。
「
「はい、
晴れた日差しが二人を包み、浮世離れした光のヴェールを演出している。
「お前さんも察しの通り、明確な予兆が
「御心配には及びません」
「
「そうか、すまんな……」
老人は
その表情には後ろめたさが
二人の目元はどこか似ていた。
そこへ、一人の中年男が入って来た。
「
男の報告の全容に、
「御爺様」
「
老人の、おそらく
そして
⦿⦿⦿
学校を占拠しようとする謎の集団が押し寄せて来る
「誰か逃げたぞ!」
「捕まえろ!」
迷彩服を身に着け、軍刀の様な得物を携えた男が二人、
「何だ!? 一体何なんだよあいつら!?」
訳も分からないまま、
学校がテロリストに占拠されようとしている――そんな、ベタな非日常が危機を
校舎に踏み込んで来たのは他にも十数人。
「何の為に、こんなごく普通の学校を?」
『安心し
たった一人の女子生徒を
(警察に連絡しよう! スマホは机の中だ!)
体操服に着替えた際、スマートフォンを制服ごと机の中に置いて来てしまっていた。
敵としても無人の教室に人を遣る理由は無いだろうから、取りに行ける可能性はある。
今、通報出来るのは
見たところ敵の装備は軍刀くらいのもので、機動隊が動員されれば脅威になるものでもないだろう。
教室のある三階へ
気付かぬ内に、追手が二手に分かれていたようだ。
(一人倒さなきゃ教室に
尻餅を
状況に気付いて青くなった相手の顔面に全力の蹴りを一発。
更に、背中を打って僅かに浮いた頭を踏み付けて一発、駄目押しの
「なっ!? この餓鬼!!」
後から来たもう一人の追手が、仲間を
振り向き
「はぅあッ!? 貴様、日本男児がこんな小娘の様な……」
「知るか。こっちは小娘にボロ負けした茶髪の軟弱者なんでな」
後頭部を打った相手は気を失い、
⦿
校庭では体育の授業中だった男子・女子・体育教師二人が固まって
彼等を取り囲むのは五人の男――
どうやら、この五名がテロリストの中心的なメンバーらしい。
「リーダー、少し」
「どうした?」
「自分の『能力』で校舎の様子を確認したところ、あちらへ向かった同志達に問題が起きた模様で……」
話を聞き付けたのか、
「お見せしますか?」
「頼む」
天狗面が
それぞれの
「……あんな餓鬼を相手に何をやっているんだ」
お多福面は
どうやら、校舎の中で
「何が起きたのですかな?」
この男に限っては軍帽を被っている。
「教室の占拠へ向かった同志の内二名が体操服の男子生徒にやられたらしい。面倒な事になった」
お多福面の言葉に、生徒達――
「静まれ! 静まらんと
抜刀して叫ぶひょっとこ
その声は
ひょっとこ面もリーダーと
「自分が呼び掛けましょうか?」
「いや、いい。
再び生徒達の間に動揺の声が上がるも、ひょっとこ面の一喝で静まり返った。
「己の所属する集団の危機に臆することなく立ち向かう勇気、中々見どころがある。事と次第によっては仲間に勧誘するのも良いかも知れん」
お多福面の体が白い光に包まれた。
彼は少し膝を曲げて溜めを作ると、まるでロケットの様に勢い良く、信じられない跳躍を見せた。
跳び上がったその軌道は校舎の窓へ向かい、
⦿
その時、
怪しげな武装集団が生徒達を取り囲んでいる様子を撮影し、外部の人間に警察へ
(
〈助けてくれ〉
〈警察へ〉
後は動画を送信し、終わったらこちらからも警察へ通報する。
そうすれば助かる目途は立つだろう――そう思っていた。
だが動画の送信完了を今か今かと
「なっ!?」
突然の事に、
つい先程まで校庭に居た筈の男がいきなり三階の窓を突き破って侵入して来たのだ。
全く
「中々の活躍振りだったようだな、小僧」
男の体は薄っすらと光っている。
しかし、絶望はしていない。
即座に切り替え、頭の中ですべきことを整理する。
目の前に直接来たという事は、人質を使う気は無いのだろう。
だったら逃げ切ってやる。
警察に通報は出来なかったが、
なら、助けが来るまで時間を稼げば
「良い眼をするじゃないか、小僧!
お多福面の男が片腕を上げると、掌の上に光る三つ巴の紋様が
男の身体は光の紋様が通り過ぎた部位から順に、
脅し掛けるように、二メートルを優に超える
「な、何だよこれ……。
「疑うならば死を以て確かめてみるが良い。もし夢ならば目覚める事が出来るかも知れんぞ? 現実であっても、少なくとも恐怖から逃れることは出来るだろう」
この狒々の振るう暴力にどう対応するか、それが
だが突然、窓の外から野太い悲鳴が上がった。
これには
「
狒々の反応を
破られた窓ごと教室の壁を壊して、新たな侵入者が現れたのだ。
それは狒々よりも一回りも二回りも大きな、
「おいおい、今度は何だよ! もう訳が分からな過ぎて頭が追い付かないんだが!?」
ロボットは四本の腕を持っていた。
肩から生えた一対には大鎌の様な刃物が、胸から生えた一対にはドリルの様な突起が備わっており、血を
更にその陰にはそれぞれ銃口の様な筒が
また、背中から生えた四本の突起は
「ひゃっはっはっはっは」
ロボットの後に続く様に、崩れた壁から猫面の男が教室へ悠々と入って来た。
「貴様、一体何のつもりだ!
校庭を見下ろすと、狒々が
どうやら狐面はドリルで貫かれ、天狗面は銃で蜂の巣に、そしてひょっとこ面は背中から斬り付けられたらしい。
(仲間割れか?)
幸いなことに、校庭の級友・教師は無事だった。
だが、相手が
「やれやれ、当てが外れたわ」
猫面の男が仮面の裏、口髭を歪ませて
「
ロボットの一つ目が光り、血塗られた四本の腕が振り上げられた。
どうやらこの場で一暴れさせるつもりらしい。
狒々も
「この
狒々の体毛が抜け、無数の緋色の巴となって自身の巨体を取り囲む。
それらは高速で回転しながら光となって狒々の体を包み込んでいく。
「我が身を
だがその変身を待たずして、ロボットの胸から発射された白色光の筋が狒々の胸を貫いた。
「ぐはっ!?」
「
「ぐ、
毛の抜けた狒々だけがその場に倒れ伏し、その姿は元の迷彩服を着た人間に戻った。
明らかに不意打ちを受けて戦闘不能になったと見て取れる。
緋色の巴は装甲を
猫面の男は笑いながら教室から空へと軽やかに舞い上がる。
「
猫面の言葉に
この現代に
おまけに、次の標的となるのは明らかに
猫面の男を黒い
「では、さらばじゃ。恨むなら
黒い靄と共に、猫面の姿は空中から
後には
「マジかよ、糞っ!
金属が血の滑りで
案の定、次の獲物を
絶体絶命、
しかしそんな中で、ふと
(待てよ……。これ、ひょっとして
それは
この状況で生き残る手段があるとすれば、仲間割れした敵が自信満々に披露しようとし、発動を止められた「奥の手」しかあるまい。
「
決断が一瞬でも遅れたら、脳天を撃ち抜かれて即死は免れなかっただろう。
開けた装甲の胸に飛び込んだ
どうやらパワードスーツの機能は生きており、
「やった! 動くのか!?」
スーツの胸が閉じられ、
「どうにかこいつでロボットをぶっ壊すぞ! やってやるさ、こうなったら!!」
無残な有様となった教室で、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます