第64話 千年後
―― メレオン島 千年後 ――
マーキュリーとリズがメレオン島のノアの所に訪問して数日が経過している。ノアと子供達ともすっかり仲良くなった。TJは一人海釣りにいそしんでいる。
ウミとソラ、子供達とじゃれ合うノア。じゃれ合いながらマーキュリーに語りだす。
「さてとジーン達の話だな……」
彼らがリリアムを守って亡くなったことを説明した。マーキュリーが首をかしげる。
「あれ、アルファはベータ達の前で『新しい人間達よ――』って叫んで最期をとげたんじゃなかったっけ?」
「『最後のアルファ』か。あれは子供向けの省略版だ。リリアムから避難したベータ達の前で簡単なスピーチをしたのは事実だが、その後リリアムに行って核ミサイルからリリアムを防いで亡くなった場面は書かれていない。核とか無粋だからな」
「へえ。それが彼らの最後だったんだ」
「続きがある。ジーンが自分も含めて三人のクローンをコールドスリープにした。最低二百年は保持し、その後も安定した社会になっていたら、解凍するように伝言が残っている。しかしそのカプセルはメレオン島のどこかに今でもある筈なんだが、場所が分からなくなってしまった」
「え? クローンがまだ生きているんだ」
「そう。記憶も移植したらしいから、ほぼ同一人物がまだどこかで眠っているはずだ。ジーンとアルファ、そしてアイリス……」
「うむむ、それはすごい話ね」
マーキュリーはノアから聞いた最後の核攻撃とそれを防いだジーン達の物語に想いを馳せた。今私達が生きているのは彼女達のおかげである。走り回るソラとウミを見ながら千年前の戦争と今の平和のギャップに複雑な思いになった。
マーキュリーがふとアルバムを思い出して手に取った。ノアに見せる。
「これソラが落としたアルバム。見て、この女性って誰だろう」
「どれどれ」
ノアがアルバムの写真を見る。
「うーん、ずいぶん古いな。わからない。ここにあるという事はメレオンの住人なんだろうけれど」
「何かすごい気になるの」
マーキュリーが言う。すると一緒にいたリズが思わぬことを呟いた。
「この女性、博士に似ていませんか?」
「え、私に?」
マーキュリーが驚いた。
「うーん、まあ、そう言われれば似てるかもしれないけど……」
アルバムの女性は、快活な感じで日常生活のスナップと思われる数々の気さくな表情の写真ばかりであった。
「私にも見せて~」
女の子のウミが興味を持ったようだ。遊び相手を失ったソラも後に続いてやってきた。
「わあ、綺麗な人。誰なんですか?」
ノアが答える。
「わからないんだ。昔の人だよ」
「ふーん。あ、ちょっと待って」
ウミが突然言って写真に頭をつけた。
「何してるんだ? ウミ」
ノアが呆気にとられてウミに訊いた。マーキュリー達も不思議そうにウミの事を見つめる。やがてウミが頭を上げた。
「この人、ジーンっていう人よ」
「えっ‼」
ノアもマーキュリーも驚く。
「ジーンだって? まさか。ウミ、なんでそんな事わかるんだ?」
ウミは自分の変化についてノアに語った。
「私ね、最近になって、色々不思議な事がわかるようになってきたの。例えば初めて見る人の名前とかどんな人なのかが感じることができるし、こういう写真なんかでも、その人の事が浮かんでくるの」
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